ブーマーリムーバーと道徳
新型コロナウイルス感染症の脅威が世界を襲い、米国や欧州では戦時下を思わせるような市民の行動制限が行われている。
今回の場合、自分が感染症にかかるとか、かからないとか、そういった公衆衛生上の次元ではなくて、リーマンショックよりも厄介な経済的打撃がやってくる感がある。
その影響がやってきた時、カーボンフレームだ軽量ホイールだと言っている場合ではなくなるかもしれないし、下火になりつつあるロードバイクブームさえ消し飛んでしまうかもしれない。プロショップは閉店が相次いで大変かもしれないな。
さて、日本の場合には、感染者の局所的な集まりであるクラスターを特定し、データを解析しながら感染の拡大を抑制するという戦略が執られた。
その際にはPCR検査を診断の確定やクラスター解析に用い、全数調査をあえて行わないという方針も選択された。
この方針は、全力でPCR検査を行って感染者を監視しようとすると、軽症あるいは無症候の陽性者が病院にあふれて、医療現場が消耗し崩壊する可能性があるという背景があった。同時に、PCR検査に伴う院内での感染拡大を防ぐといった背景もあった。
マスコミや自称専門家等、および若い頃に運動部で頑張っていたであろう一部のシニアたちは、この方針をスケープゴートにして激しい体制批判を展開した。
マスコミの勢いが減ったのは、おそらくスポンサーの意向だろう。洒落にならない。
社会の混乱をさらに煽る医師までが登場した。国の専門家チームに招聘されなかったことが不愉快なのかもしれないが、本業に集中した方がいい。どうして招聘されなかったのかは自分の行動を見つめれば分かることだ。
一方、すでにそのようなことを言っている場合ではないのだが、「そんなことはない!PCR検査で陽性になっても自宅で留まればいいじゃないか!検査数が少ないのは国の陰謀だ!他国では...」と主張して一歩も引かない人たちがいる。一次情報を得ようともせず、誰かが言ったことを真に受けて連呼するだけのようだ。
このような人たちが陽性になると、ただの風邪程度であっても病院の受付で入院させろと主張し、一歩も引かないことだろう。
それぞれの国は医療や国民性が違う。すぐに他国と比較して主張を展開する人たちは、もう少し一次情報を元に自分で考えた方がいい。PCRと原発は関係ないだろ。
このような思想的に明確な人たちはともかく、世界的に新型コロナウイルス感染症が広がっているのに、海外旅行に出かけて感染して帰ってくる千葉県民がいることに、千葉県民の一人として溜め息が出る。
日本に限った話ではないが、団塊世代に該当する定年退職後の高齢者の危機意識が薄いと思う。もちろん、冷静に対処している高齢者も多いと思うが、まさに我が道を行く感じの人たちがとても目立つ。
自らがハイリスク層にいることを自覚しているのかどうか分からないが、昼間の新浦安でもマスクをせずに駅前まで出歩いてくる高齢者を見かける。また、スーパーやドラッグストアで行列を組んでいる人たちもいるようだ。
米国の若者たちの間では「ブーマーリムーバー」という造語が飛び交っていて、この勢いが日本まで影響するとかなり深刻だなと感じる。
「ブーマー」とは日本語で表現すると団塊世代のことで、「リムーバー」とは除去するもの。
新型コロナウイルスが高齢者に重篤な病態を引き起こすことが分かってきて、若者たちがあえて感染を広めることで高齢者を減らそうという思想らしきものが生じているようだ。
その言葉には高齢者に対する敬意が微塵も感じられない。むしろ、現在の社会を作った人たちへの不満や憎しみ、自分たちの不公平感、利己的な感情、そういった若さ故の危うさを感じる。
そういえば、かつての日本の子供たちは「お年寄りを大切にしましょう」と学校で教育された。しかし、今はどうなのか。
高齢者が弱くて守られる存在かと高齢者から突っ込みが入って、そのような教育がなくなったのだろうか。
70代付近の高齢者と20代付近の若者たちとの間では祖父母と孫くらいの隔たりがあるが、とりわけ浦安市内を含めた首都圏では、祖父母の世代と孫の世代が漸次的に繋がっていないことが多い。
我が強くて自分の思ったように行動し、さらには若者たちも納めている年金によって生活が安定している高齢者に対する若者たちの不満や憤りが、今回の新型コロナウイルス感染症を引き金として噴出するのではないかと危惧している。
この時期にあえて海外旅行に行って感染するとか、平日からスーパーやドラッグストアに並んでマスクや日用品を買い占めるとか、そういった高齢者に対する働き盛りの人たちの視線はかなり冷たく、鋭くなってきていると思う。
高齢者の皆さんは、これまでの日本を支えてくださった大切な存在であるわけだけれど、だからと言って好き勝手に行動していると、若者どころか団塊ジュニア世代からも批判を受ける、あるいは守ってくれなくなるような気がしてならない。
とりわけ、私のような夫婦共働きの世帯にとって、食料や日用品を購入する時間は限られている。それなのに、平日に高齢者がそれらを買い占めてしまって、家族のために必要なものが手に入らないという状況になると、親でもない浦安市内の高齢者に対して沸々とした感情を抱かざるをえない。
浦安という街があって、皆で互いに支え合って生活しましょうとか、そういった美辞麗句が行政から流されたりもするが、結局のところ人は自分を守ろうとする。その傾向は新浦安において強い。
団塊ジュニア世代付近の市民にとって高齢者は親の世代なので、ある程度の我慢は利くが、若者たちはどうなのか。
自分たちは仕事に行けなかったり、生活に制限が生じているのに、高齢者はどうしているのだと。
若者たちが新型コロナウイルスに感染しても軽症で済むことが多く、小中学校の子供たちでさえ自宅で我慢している。卒業式さえまともに挙行できなかった。
それなのに、ハイリスク群の高齢者には制限がなくて、旅行したり行列に並んで買い占めとは何たることだと。
団塊世代への風当たりは非常に強くなり、より若い世代にフラストレーションが蓄積して、途中から気を遣わなくなってしまったら大変なことになる。
団塊世代に対する無言の抗議としてはあまりに苛烈で冷徹だ。
しかしながら、若者において不満や憤りが蓄積したとしても、また一部かどうか分かりかねるが、高齢者の言動に対して腹を立てたとしても、可能な限り感染の拡大を防ぐ取り組みに協力してほしいと願う。
なぜなら、このままの調子で感染爆発、いわゆるオーバーシュートが生じてしまうと、ブーマーを減らす前に社会全体がダメージを受ける。
他の疾患に苦しんでいる人たちの治療にまで影響が出てしまう。その中には子供たちや若者も含まれている。
医療関係者の絶対数は限られていて、人工呼吸器や防護服等の蓄えも限界がある。物が補充されても人が足りない。
また、感染が拡大して日本の経済に大きなダメージが生じ、景気がさらに悪化した場合、若い人たちがいくら頑張っても収入が増えないどころか、勤めていた企業が倒産して無職になったり、転職が難しくなる時期がやってくる可能性がある。
私のような団塊ジュニア世代は、バブルの崩壊によってとても苦しい時期を経験したから分かる。
その後の就職氷河期は、若者が就職したくても採用枠がないという厳しい状況だった。
バブルがはじけた時よりもさらに大きな経済的ダメージを想像することさえ嫌になる。
世代に関わらず、マスクや手洗い、人混みを避ける等の個人の防御が大切だと思う。やるかやらないかで結果が大きく変わる。
とはいえ、若い人たちがマスクを買おうとしても、平日にドラッグストアに並んでマスクを買い占めてしまう人たちが多くてマスクが手に入らないことも事実だ。そして、その行列に並んでいる人たちを眺めれば高齢者が多い。
よくよく考えてみると、高齢者たちがマスクを買い占めてしまった結果、若者たちにマスクが届かず、結局、自分たちの感染のリスクを上げてしまっているのではないだろうか。とにかくテレビの電源を切って、行政から発信される情報を取り入れることで冷静に対処した方がいいのだが。
一方で、自分は感染しないと思っているのかどうか分からないが、マスクや日用品、食料を買い占めてしまう元気な高齢者だけではなくて、歩くことさえ難しい高齢者をどのように助けるのか。
親でも祖父母でもない人たちに対して、子育て世代を含めたより若い人たちは本当に配慮しているのだろうか。
苦労して育てた子供たちが自立し、老夫婦で生活していて誰も頼れないという状況で、自分たちを守るためにマスクや食料を手に入れようと必死になってしまう高齢者の姿を、私は完全には否定できずにいる。
あまり遠くない将来、私たちが年老いて同じ姿になるだろうから。
今まではクラスター対策で何とか耐えてきたわけだが、感染爆発が生じた場合にはクラスターを追跡したり封じたりすることが難しくなる局面になることだろう。
しかし、初期段階で感染爆発を抑えている間に、完全ではないにしても医療現場への直撃を避けることができたと思う。
先日の東京都の会見で同席していた感染症の「本物の」専門家や日本医師会の先生方の説明はとても勉強になった。新聞やテレビといったマスコミの情報ではなくて、実際の動画を閲覧できるようであればその方が正しい情報を知ることができることだろう。
新型コロナウイルスが日本に入ってきた頃から最前線で戦っている専門家たちを叩こうとする人たちはまだいるようだが、すでにそのような段階ではなくて、次の状況が迫ってきている。
これからの状況において感染爆発が生じた時、そこで戦うのは国内の幅広い医療機関のスタッフだけでなく、一般の市民一人ひとりだ。
マスクや手洗い、人混みを避けるといった行動は一見すると地味ではあるが、相手が呼吸器系の感染症の場合にはかなりの効果があるようだ。現に、毎年の流行と比較すると、この時期のインフルエンザの流行はかなり減弱してきている。
高齢者においては、自らが感染すると大変な状況になることをしっかりと理解して、人が多いところには近づかないという気構えが大切だと思う。なぜに元気よく出歩いて人混みに入っていくのか、理解しがたい。
人生の残りが短いからと開き直るのはまだ早い。高熱の中で、少しずつ息ができなくなって苦しみながら絶命するという事態は、まさに地獄の苦しみだ。元気な時には威勢が良いかもしないが、いざそのような状態になると必死に助けを求めてもがき苦しむことだろう。
そのような状況を自分たちの行動で回避しうる選択肢が残っている。新型コロナウイルスは自宅の中まで入ってこない。
しかし、外に出た場合には、すでに自分の周囲のどこかにウイルスがいるくらいの気構えが大切だと私自身が思う。
とはいえ、予想していたことではあるが、東京都の会見が終わった直後から浦安市内でも日用品や食料品の買い占めが生じているようだ。
そのようなアクションに出た市民の層はどのような人たちなのか。大型地震や台風の場合のように生産や輸送の手段が絶たれているわけではないので慌てる必要はないはずだが、他者のことを考えずに自らの身を守ろうとするとは。
これで、若者たちや働き盛りの世代からの配慮が期待できるだろうか。何だか虚しく感じはするし、確かに自分だって同じ行動をとることだろうと納得したり。
可能な限りの備蓄をして外出せずにリスクを回避するのであれば分からなくはないが、団塊世代の高齢者たちに対する若者や働き盛りの世代のフラストレーションが爆発して、感染拡大のことを気にしなくなるようなことがあると深刻だ。
団塊世代の中にはより若い人たちに対して上からな言動をする人が見受けられるが、自分たちを守ることに協力してほしいという態度が必要になってくると思う。
海外のように若者たちが開き直ってしまうと大変なことになる。
とはいえ、そこまで大きな社会心理まで読み解くことは困難だな。私が心配しても仕方のない話でもある。