2023/11/05

加齢臭どころか心の疲れまで香りに変えてしまいそうな「清水香」という消臭スプレー

録のタイトルが長い。私のように感覚過敏を有している人(HSP)は、いわゆる普通の人よりも嗅覚が鋭いことが多い。妻が料理中にスマホゾンビになってフライパンで何かを少しでも焦がすとすぐに察知するし、満員電車に乗ると多数の人たちが発する臭いに反応して気分が悪くなって吐きかけたりもする。私の不在時に義実家の人が自宅を出入りすると臭いですぐに分かる。

ならば、中年になって加齢臭を漂わせるようになったHSPの私が自分自身の体臭に反応するのかというと、不思議なことにリアルタイムではよく分からない。ただし、使った衣類や寝具が部屋の中にあるだけで、とりわけ帰宅して自室に入った時には「臭いな...」と感じる。脂と何かが混じったようなオッサンの臭い。夜と朝にシャワーを浴びたり、一度でも使った衣類は自分で洗濯していたりもするのだが、なぜここまで臭うのかと。


ミドルエイジクライシスの思秋期の中で典型的な中年時代を過ごしている私にとっては、「まあ、それがオッサンになるということだな」と半ば諦めていたりもする。

今さら伊達男を気取ったり、女性にアピールする必要もないわけで、オッサンは臭うというシンプルな路線を進むだけ。

思春期を迎えた上の子供から「オヤジ、臭いよ」と指摘されたところで仕方がないと思ったりもする。

父親の生理学的変化に対して思慮のない発言を飛ばす子供に対しては、最低限の経済的サポートしか私は用意しない。子供が大人になってから「お父さん、あの時はごめんね」と言われたところで、「いいんだよ」と許すはずもなく、ずっと根に持ち続ける。

とはいえ、子供のオムツを交換していた頃の私は「臭い、マジ臭い」と言い続けていたわけだ。逆に子供から臭いと言われて根に持つ必要があるのかどうか。

さて、若い頃に仕事で泊まりがけの出張があると楽しかったものだが、五十路が近くなると面倒になる。コロナ禍ではオンラインの会議が主流となり、このままの状態が継続すると出張がなくなって楽だなと思っていたけれど、やはり元に戻った。

出張での移動や宿泊に時間をかけて顔を合わせて話し合ったところで、まとまらない話はまとまらないし、勉強にならない話は勉強にならない。それでも、場所を指定されると電車や飛行機に乗って移動せざるをえない。

これまた若い頃には宿泊先のホテルの質や周辺の飲食店などの環境にこだわったものだが、五十路が近くなると気にしなくなる。近隣が騒がしくないかとか、ホテルが安普請で壁が薄くないかとか、そのような音対策も適当だ。喧しい宿泊客がフロアや隣室にいると高級ホテルでも喧しい。

不幸中の幸いとでも表現しようか、妻だけでなく子供たちもADHDの傾向があるので、我が家はいつも喧しい。そして、感覚過敏を有している私はほぼ常時に近い状態で高性能の耳栓を付け、そのまま眠っていたりもする。常に喧しい家庭なので耳栓のテストは容易だった。着圧にも慣れた。この耳栓にイヤーマフを追加すると喧しい新浦安にひとりだけの静寂が訪れる。

出張で宿泊する際にも当然だが耳栓を付けたままなので、繁華街の通りに面したホテルだろうが、宿泊客がデリヘルをオーダーして嬌声が響くような場末のホテルだろうが、清潔な寝床さえあれば気にしない。ネットカフェで居眠りすることさえできる。ということで、最近では安いビジネスホテルを即決で予約して適当に宿泊している。

旅先の郷土料理を堪能するという趣味もないので、近場のスーパーで弁当や総菜を買い、スーパーが見当たらなければコンビニでおにぎりやサンドイッチを適当に買って食べて酒を飲んで寝る。

これまでの職業人生において、どれだけの数のビジネスホテルに泊まったのか記憶が残っていない。とにかくたくさん。それぞれのホテルの客室の記憶も思い出せないし、まあその程度の経験なのだろう。

とある日の出張で、私は相変わらず安ホテルに宿泊した。ベッドは広くて清潔だったが、その他の施設面では最悪だった。什器の隅やテレビから伸びるケーブルには大量のホコリが付着し、文字通りに猫の額のようなテーブルには弁当や総菜を広げるようなスペースもない。

ユニットバスは成人男性が身体を入れるだけでも大変なくらいに狭く、空きスペースの対角線上に辛うじて収まっている洋式便器に座ると身動きができない。

しかも、手や顔を洗うための石けんの類いが用意されておらず、備え付けのボディソープで顔を洗うと目に刺激があって痛みを伴う。なぜに除菌成分が含まれているボディソープが備え付けられているのだろう。そこまで宿泊客が汚いわけではないはずだが。

朝食も最悪だった。私は食にこだわりがないタイプだけれど、ビュッフェで皿に入れるものが見つからずに直立不動になり、生卵やサラダを食べることすら躊躇して白飯にふりかけを乗せて食べ、ありえないくらいに砂糖が入った卵焼きを完食できずに残した。こんなに不味いホテルの朝飯を食べたことがない。

この安ホテルのシングルルームにはダブルサイズどころかキングサイズのベッドが設置され、1メートル以上の長さがある枕が横たわっており、360度のどの方向に寝転がっても頭と足がベッドからはみ出ない。さらには、非常に強固なスプリングの入ったマットが敷かれている。施設自体がラブホテルからビジネスホテルへの転用なのだろうか。

エントランスロックのない玄関からエレベーターに乗ると、フロントの階で一瞬だけドアが開閉し、客室のフロアまで直行。ホテルマンは目も合わせない。かなりヤバいホテルを予約してしまったらしい。

まあそれでも、ドアに施錠しても盗難や強盗に遭ったり、ベッドに虫が潜んでいて皮膚を噛まれることがある海外の安ホテルよりはずっと恵まれている。

「出張面倒くせぇ、前泊面倒くせぇ、何だこのホテルは」と思っていても、職業人としてはそれなりの仕事をこなす必要がある。信頼だとか地位だとか人間関係だとか、そのようなものを築くためには長年の努力と積み重ねが必要だ。けれど、それらを失うことは容易い。

自分は安ホテルで十分だと思っていたが、さすがにコンディションが悪すぎた。けれど、エキセントリックなホテルで一夜を過ごしたいという奇妙な衝動が私にあることも事実だな。

かつて宿泊して印象に残ったのは、手が届かない場所に小さな窓があるだけの真っ暗な軟禁室のようなホテルの部屋、ネオン看板が窓の前にあって夜も明るい部屋、そして、増築に次ぐ増築で内部が迷路のようになって抜け出せない旅館の部屋。宿泊よりも一時休憩に全振りした今回の部屋も面白い思い出になった。

若い頃からのジンクスで、出張で宿泊した際には夜食としてシーフードヌードルを食べて眠ることにしている。慣れない寝床で翌日の仕事のことを考えていると集中して目が冴えてきて、心拍数が上がってきたりもする。数十年前、ふとしたきっかけでシーフードヌードルを食べて満腹になると寝付きが早かった。それ以来の儀式になってしまっている。

クレジットカードが使えず、あまり立派とは言えないスーパーで買ってきた不味い弁当を食べた後、胃に入れば同じだと言わんばかりに今回もシーフードヌードルを食べてベッドに横になった。若い頃はビッグサイズのカップ麺を買っていたのだが、最近ではノーマルサイズに変わった。歳で胃が弱くなった。

すると、ベッドサイドに見慣れないスプレーボトルが置いてあった。ボトルにはアルファベットで「SEISUIKA」と書かれてあった。そして、ホテルによくある消臭スプレーだなと思って、何の期待もせずにレバーを数回引いてみた。

加齢臭が漂うオッサンになってきたけれど、私はファ○リーズのような消臭剤が苦手なので使わずにいた。そのような消臭スプレーを布や空間に噴霧するとベトつき、香りが残り続ける感じがある。感覚過敏がある人には厳しい。洗濯用の香料も苦手。

だが、SEISUIKAと書かれたスプレーを噴霧すると、サラサラとした液体がすぐに蒸発し、消臭剤というよりも芳香剤のような爽やかな香りが控えめに広がった。

何だこれはと不思議に感じながらベッドの周囲にスプレーを噴霧したところ、気持ちが落ち着いてリラックスしてきた。嗅覚過敏があるからこそ、普通の人よりも香りに敏感なわけだが、その香りが自分に適していると脳にまで心地良さが届くらしい。

このスプレーの主成分は何だろうか。かなり強い消臭効果があるようなので、臭いの成分を取り囲んで不活化するような界面活性剤が入っているはずだ。そして、サラサラしているのでアルコールが入っていることだろう。

それ以上に、この香りが気になる。ボトルには何の香りかも記載されていない。オッサンが例えるとキモいことこの上ないが、若き日に交際していた女性から漂ってきた香りのような、いや、その当時の心情そのものというか。

仕事でも家庭でも色々とあり、順風満帆の人生とは言えない。けれど、このような状況に至るまでには自分なりに努力したし、たくさんの人たちに助けてもらった。職業人としてベテランの時期になり、心身共にオッサンになっていることを実感すると、残りの時間が虚しく感じる。しかし、そのまま進もう...といった前向きな気持ちになり、寝落ちして目覚めると朝だった。ホテルどころか自宅であっても、ここまでよく眠れた夜は珍しい。

プロレス仕様のように広くて屈強なベッドの脇に、どうしてこのような消臭スプレーが置かれていたのかは分からない。シングルルームに一人で宿泊し、余程に臭うプロレスごっこをするような客がいるのだろうか。考えると気持ちが悪くなるので考えないことにした。

しかし、この逸品に出会えただけでも安ホテルに泊まった価値があった。

出張の仕事は滞りなく進み、帰路でスマホを取り出してSEISUIKAのスプレーを検索してみた。「清水香」という名前の消臭・芳香剤なのだそうだ。

清水香は、バス事業を主体とした国際興業、および防虫剤や化粧品などを製造販売している白元アースが共同開発したプロ仕様の消臭剤であり、ホテルや旅館でシェアを伸ばしているらしい。

宿泊施設に清水香を備え付けて、そこに泊まった宿泊客が気に入って個別に購入するというマーケティングなのだろう。ネット全盛期ではあるけれど、いくらSNSや動画で宣伝したとしても、リアルな体験には敵わない。

Amazonで検索してみると、清水香は250mLのスプレーが1600円を超える価格で販売されている。香水として考えると安いかもしれないが、消臭スプレーとしては高価だな。おそらく、原価は半分にも充たないように思える。

私が宿泊した件の安ホテルは可能な限りのコストカットがなされていて、シーツの交換どころか寝間着さえも備え付けられていなかった。そのような施設において、ファ○リーズのような一般的で低価格な消臭剤ではなく、個人向けとしては明らかに高価な清水香が置かれていた理由はなぜか。

このホテルのサービスの一環、あるいはセールスポイントして清水香を備え付けたという推察は矛盾がある。なぜなら、他のホテルも同様に清水香を備え付けていると優位性が保たれないからだ。

つまり、この製品は法人価格と個人価格に違いがあり、法人に対しては宣伝を兼ねて割安で提供しているのではないかと私は思った。

法人と個人で提供価格が異なるというマーケティングはよくある話だ。電気代は個人よりも法人の方が安かったりもするし、コンピューターのソフトウェアは法人よりも個人(とくに学生)向けのパッケージの方が安かったりもする。

開発までのコスト、宿泊施設への普及、ECサイトでの取り扱い手数料や送料を考えるとリーズナブルかもしれないな。宿泊客が試しに清水香を使ってみて、高くても使いたいと感じれば売れるだろうし、何だこれはと落胆すれば売れない。この製品は高くても売れると私は思った。

最近では成分分析の技術が進化しているので模造品や類似品の出現が気になったりもするが、部屋の中に噴霧して吸い込むようなものなのだから、きちんとしたメーカーが製造販売してくれた方が安心だ。

私が安ホテルで見かけたボトルの色は緑色だったが、清水香は宿泊施設によってボトルの色と香りの組み合わせが異なることがあるらしい。なるほど、部屋のデザインに合わせてボトルの色を選び、業務用のリフィルを使って中身を入れ替える場合があるということか。

人生の残り時間は限られているので、コレなのかアレなのかと試すのは面倒だ。また、安ホテルで試した清水香よりも自分に適した香りがあるかもしれない。ということで、リリースされている3種類の清水香をまとめて購入してみた。

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画像をセピア色に変換すると区別が難しくなるが、左側の茶色のボトルが「ウッディーグリーン」、中央の緑のボトルが「フローラル&フルーティー」、右側の黒色のボトルが「レモングラス」。

清水香についての私なりの感想としては、それぞれの香りが(良い意味で)文字通りのイメージと異なっているように思える。また、Amazonのレビューには主観が多く、実際に使ってみるとあまり参考にならない。香り自体が主観による影響を強く受けるので、当然といえば当然か。

ウッディーグリーンは森林の香りなのかというと、むしろムスクに近い気がする。ムスクの割にはクドさがなくて爽やかで、私としては最も気に入っている。

例えば、スーツやジャケットなどにスプレーして、微かに香っている状態で出勤すると、おそらく他者は品の良い男性向けのムスクの香水を付けていると勘違いするかもしれない。

加齢臭を香水で隠しているオッサンの臭いは往々にして強烈で、周りに迷惑をかけていたりもする。しかし、加齢臭を隠そうとすると予定調和でこの状態になる。臭いを隠すのではなく、臭いを消してしまえば香水臭くないわけだな。

清水香の場合には消臭剤なので、オッサンの香水のような気持ち悪さがない。また、「この服、臭うわね」と妻からファ○リーズを問答無用でぶっかけられたり、理由を誤魔化されたまま香料入りの洗剤で洗濯された場合のような無様さもない。清水香そのものが消臭剤としては高価なので、使っていることが周りに知られても何ら無様ではない。

さりげなく清水香を使ってくれるようなハイセンスの妻と連れ添っている夫がいたとすれば、その夫は現世での運を使い果たしているので、来世は地獄の業火で焼かれることだろう。

フローラル&フルーティーの香りは、文字通りに想像すると女性向けの甘い香りのように感じるかもしれないが、男性が部屋や衣類、寝具の消臭や芳香に使っても違和感がないくらいに爽快感がある。むしろ、男性向けの整髪料によく似た香りがあった気がしなくもない。

予想外で驚いたのは、レモングラスの香りだった。レモンあるいはハーブの香りなのかなと想像して使ってみると、想像以上に甘い香りがする。爽やかさというよりも濃厚な蜂蜜のような感じというか。さすがに男性がこの香りをまとうのは気が引けるが、他の香りよりも芳香剤としての効果が強いはずだ。玄関先や台所といった臭いが強い場所での使用に適しているかもしれない。

フローラル&フルーティーの香りを気に入って全てのラインナップを取り寄せてみたところ、ウッディーグリーンの香りが自分に最も適していたという、まあよくある展開になった。

清水香は消臭力が強いけれど、芳香剤としては強くないので、1日くらいで香りがなくなるようだ。その日の気分で香りを変えることができたりもする。なるほど、嗅覚過敏を利用して香りを楽しむことができるわけか。

安ホテルに泊まった時は大変だったが、結果としては良い経験であり、人生がほんの少しだけ豊かになった。この積み重ねが、私にとって意義深く、趣深い。