2023/08/27

スカイランニング用のポールを加工して、お気に入りのノルディックポールをつくる

昨年の春先から1年近く続いた浮動性の目眩に耐え、今年の春先からパワーウォーキングやノルディックウォーキングによって心身のコンディションを整え、気が付くと8月が終わろうとしている。生地獄の住環境で私は耐えた。5月と6月は近所で出現した連続放火犯によるストレスとそれに伴う浦安市の行政や浦安警察署に対する不信感の蓄積。7月は職場や家庭における人間関係の無価値なトラブル。そこから8月現在まではコロナ後のディズニー客の急増およびオーバー・ツーリズムによる住環境の悪化。加えて8月に新浦安駅での人身事故に遭遇。自分の実家への帰省と変わり果てた郷里の姿も疲れを増大させた。

ウォーキングという動的な趣味に出会っていなかったなら、メンタルダウンを起こして倒れていたことだろう。言いたいことを言わず、悩みをひとりで抱え、ノルディックポールを持って地道に海辺を歩いたり走ったりして汗を流した。無様だと思うけれど、そもそも中年男性の生き方なんて、それぞれが潮干狩りで貝を拾っているように孤独なものだ。他者がどのように生きようと互いに関心がない。そして、個人的にはタフな半年を耐えていたら、細やかな幸運がやってきた。


幸運といっても大した話ではない。ふとしたきっかけで自分に適したノルディックポールが見つかったというだけのこと。

地味だ、地味すぎる。まさに潮干狩りで砂を掘り、貝が出てきたと喜んでいる姿に似ている。オッサンの日常なんてそのようなものだと諦めよう。

4月頃からノルディックウォーキングの素晴らしさに気がついた。日本ではノルディックウォーキングが高齢者の健康運動になってしまっているが、欧州ではこのスポーツが老若男女を問わないワークアウトとして普及している。

とはいえ、試行錯誤を続けながら自分なりのノルディックウォーキングのスタイルが形になってきたところで、予定調和でポール沼に落ちた。何の違和感もなく、道具というよりも身体の一部として感じられるようなポールが見つからない。

メーカーとしてはドイツのLEKI製のポールが気に入っている。デザインおよび機能ともに素晴らしい。そして、スピンシャークSLやクロストレイルMCTバリオ、クロストレイルFX.ONEといった素材や特徴が異なる製品を購入して、実際に使ってみた。

これらのスペックや使い心地をまとめてブログに載せると、他のノルディックウォーカーたちの参考になるかもしれない。そのうち機会があればまとめてみようかと思う。

趣味の出費としてのウォーキングポール沼は、自転車沼よりもリーズナブルだ。手当たり次第に購入してもロードバイクのホイールよりはるかに安い。しかも、LEKIのポールは頑丈で壊れにくいので、1セットだけを使い続けても数年間の使用に耐えるらしい。にも関わらず、私は勢いで何セットもポールを買ってしまった。全てが壊れる時を待っていると職業人生が終わる。さてどうするのかという一抹の悩みはある。

日本国内のシニアたちが健康運動として取り組んでいるノルディックウォーキングの場合、使用するポールは何でもいい気がする。LEKIのポールの場合、それを携行して様々な場所を訪れ、ゆったりと歩くのであればコンパクトに収まる三段伸縮のトラベラーや三分割式のクロストレイル。近所の遊歩道や公園を歩くのであればアルミ製で二段伸縮式のスピンシャークSLやスピンショートなど。

一般的なノルディックウォーキングであれば、LEKIのポールにこだわる必要さえない。様々な日本メーカーがより安価な製品を販売している。ゆっくりと歩くだけであればポール自体の性能だけではなく、ポールの先端に取り付けるラバーパッドの種類によって使い心地が大きく変わる。

しかしながら、クロスカントリースキーの選手たちの陸上トレーニングのように、ノルディックウォーキングにバウンディングを取り入れる時には話が違ってくる。ポールを持って跳走するというバウンディングストライドでは、ウォーキングの場合よりも高い剛性を持つポールが必要になる。

LEKIの三分割式かつカーボン製のクロストレイルシリーズのポールは、トレイルランニングにも使用することができると銘打っている。けれど、実際にこのポールをバウンディングで使用してみると何だか頼りない。明らかにポールが連結部分で軋んだり歪んでいることが分かる。そのまま使っていると、いつかポールが破断することだろう。

二段伸縮式かつアルミ製のスピンシャークのポールはそれなりの剛性があり、バウンディングで使っても心配がない。だが、このポールはノルディックウォーキングでの使用を想定しているので、手に持って走る際のスイングバランスが考慮されていないらしい。バウンディングで腕を振ろうとすると、ポールがとても重く感じる。しかも、アルミ製のポールなのでバウンディングしながらアスファルトの路面を突くと、手首に強い衝撃がやってくる。

では、欧州のクロスカントリースキーヤーたちが陸上でのノルディックスキーウォーキングにてバウンディングを行う時にどのようなポールを使っているのかというと、スキーで使っているストックをそのまま流用することが多いそうだ。しかも、アスファルトではなく草の上を跳走するらしい。アスファルト上でのノルディックウォーキングのようにポールの先の金属チップにラバーパッドを取り付けることもないはずだ。

加えて、彼らの場合は競技のトレーニングとしてスキーストックを使っており、最初から最後までバウンディングで走り続けるという強靱な筋力や心肺能力がある。通常のランニングと比較して、バウンディングでは心拍数が20くらい高くなり、腕にも負荷がかかる。実際のクロスカントリーのスキーが凄まじくタフな競技だということを察する。

他方、私の場合にはインターバルトレーニングとしてノルディックウォーキングとバウンディングを交互に繰り返している。バウンディングだけで走り続けると身体が耐えられない。おそらく、クロスカントリースキー用の長いストックをウォーキングで使うと違和感が増すことだろう。そもそも、スキーストックにウォーキング用のラバーパッドが適合するかどうかも分からない。

私なりの理想としては、衝撃を吸収することができるカーボン製、かつ伸縮や分割といった機構がないワンピースタイプの高剛性のノルディックポールがほしい。

かなり脱線するが、かつての日本では「プロゴルファー猿」というアニメ作品がテレビで放映されていた。藤子不二雄Aによるゴルフ漫画であり、その主人公は本物の猿ではなくて、猿谷猿丸という少年。彼が様々な強敵のゴルファーと奇天烈なコースで勝負を繰り広げるという思ったよりもシリアスな物語だった。

そして、猿谷猿丸がゴルフ勝負で使用していたのは、硬い木材を自分で削って作ったドライバーのみ。アイアンやパターが必要な場面でも自作のドライバーを器用に使いこなし、遠く離れたグリーンの外から旗を直接狙ってボールを垂直落下でカップインさせるというありえない必殺技も繰り出していた。

プロゴルファー猿が使っていたドライバーのようにシンプルかつタフで汎用性があるノルディックポールがほしいと思った私は、硬い木材あるいは竹を使ってポールを自作してみようかと思った。だが、硬い木材でできた重いポールをバウンディングで振り回すほどの腕力は私にはない。

また、竹を切ってポールを自作するだけのクラフト能力が私にあるはずもない。杖を作製している竹職人にフルオーダーでポールを注文すると大変な金額になることだろう。

ということで、LEKIや他のメーカーのワンピースタイプのカーボン製ポールを一通り探すことにしたのだが、理想のポールが見つからない。

自分の条件に近いのはLEKIの「ヴァーティカルK」というスカイランニング用のポールだった。この製品の「K」という名前の意味が分からなかったのだが、「バーティカル・キロメーター」というスポーツの「キロメーター」という意味なのだそうだ。

バーティカル・キロメーターとは何かというと、山の麓から頂上まで一気に駆け登る長距離走なのだそうだ。おそらく、このスポーツはランニング形式の快速登山であるスカイランニングのカテゴリーなのだろう。トレイルランニングと異なり、バーティカル・キロメーターのコースには下りや平坦な道がほとんどなく、獲得標高差が1kmと定められている。とんでもないエクストリーム・スポーツだな。

ヴァーティカルKというポールの難点としては、長さが5cm刻みの固定式なので細かなサイズの調整ができないこと。

それと、スカイランニングでポールが地面の上を滑ってしまうと危険なので、通常のトレイルランニングポールよりも鋭利な金属製チップが標準仕様になっていること。ポールの先端に取り付けられているスピードチップという名前の特殊なパーツは、まるで武器のように鋭角に尖っている。

このスピードチップにノルディックウォーキング用のブーツ式のラバーパッドを取り付けることができるのかどうか。鋭利なチップの先がラバーパッドを突き抜けてしまうかもしれない。この製品を購入して、そのままノルディックポールとして使用することは難しいと私は思った。

ところが、「LEKIのポールのチップやグリップは湯煎で温めると外すことができる」というネット上のブログを見かけた。

つまり、ヴァーティカルKの先端のスピードチップを取り外してノルディックウォーキング用もしくはトレイル用のチップに交換し、グリップを取り外してカーボンポールを切って短くすれば、自分好みのポールが仕上がるのではないかと思った。

すると、幸運なことに或ショップにて私が希望するサイズのヴァーティカルKのデッドストックが残っていて、なんと1万円近い値引きで投げ売りされていた。半ば条件反射的に購入したのは言うまでもなく、厳しい半年を耐え続けたことへのご褒美だと思った。

そして、購入してすぐにヴァーティカルKの加工に取りかかった。

なるほど、LEKIのポールのチップやグリップが加温によって外れるという情報は本当だった。おそらく、グルーガンのようなホットメルト系の接着剤が使用されているのだろう。沸騰させた熱湯を魔法瓶に入れ、そこにポールの先端やグリップを数分間浸すだけで簡単にパーツが取れた。

最初に、チップを取り外した部位の接着剤を無水アルコールとマイクロファイバー雑巾で丁寧に剥ぎ取り、近所のデイツーで買ってきたグルーガンで接着剤をポールに塗り、LEKIのトレイル用のチップを取り付けてみた。

コツとしては、取り付けるチップについても湯煎で温めておくこと。この工程を省略すると接着剤が硬化して、チップが最後まで入らないことがある。ということで、問題なくチップの交換が完了してしまった。これでLEKIや他社のノルディックウォーキング用のラバーパッドをヴァーティカルKに取り付けることができる。

次に、グリップを取り外した側のポールを(自転車のカスタムで使用していた)極細目のクラフト用ノコギリで28mmほどカットした。固定サイズのポールが合わない場合には、長めのポールを買って自分でカットすればいいというわけだ。

ロードバイクのカーボン製のシートポストをカットするのは非常に大変だが、カーボン製のポールのカットは他愛もなく終わった。そして、切り口や接着部位をカッターやサンドペーパーで整え、ポールとグリップを再び湯煎で温め、グルーガンで接着剤をポールに塗り、グリップを押し込んで固定するだけ。

そして、カスタムと呼ぶには大袈裟であり、私なりには軽微なオプティマイズが完了したヴァーティカルKを手にとって意気揚々と三番瀬沿いの遊歩道に向かい、そこでノルディックウォーキングやバウンディングを試してみた。

これは素晴らしい。

ノルディックポールよりも軽いので腕の振りが楽だ。スイングバランスも気に入った。スカイランニング用のポールはそれを持って走るように作られているので、当然と言えば当然か。とりわけ、バウンディングがとても楽しい。普通に走っているような状態でもポールワークが可能になった。

これまでにLEKIのポールをいくつか試していたので、自分に適した長さが分かっていることも幸いした。カットした後のポールは長すぎず短すぎず、通常のノルディックウォーキングでもバウンディングストライドでも使用することができる。イメージしていたプロゴルファー猿のドライバーに近い。

伸縮や分割の機構がないワンピースタイプのポールは、路面を突いても歪みや軋みが全く感じられない。しかも、カーボン製なので不快な手首への衝撃や衝突音が少ない。

このポールを使ってしまうと、他のLEKI製のノルディックポールを使う気持ちが失せてしまう。それにしても、これほどに使い心地が良いにも関わらず、カーボン製のワンピースタイプのポールは人気がないのだろうか。

日本の場合、ノルディックウォーキングに励んでいる人たちの多くはシニアだ。この世代の人たちは、あらかじめ定まった不文律に素直に従うような特徴があるように思える。そもそも、ゆっくりしたペースのノルディックウォーキングでは、ワンピースタイプのポールの必要性がないのだろう。だとすれば、伸縮や分割が可能で、かつ安価で丈夫なアルミ製のポールが売れるということだろうか。

それにしても、自分で加工したヴァーティカルKは素晴らしい。もはや他のLEKI製のノルディックポールを処分して、この一本だけでも十分な気がする。まさにプロゴルファー猿的な感覚だ。

職業人生をリタイアした時には、竹細工を学んで自分でノルディックポールを作ってみようかと思ったりもする。日本では昔から竹製の杖が作られていたわけで、素材としてはカーボンよりも楽しいかもしれない。