2023/06/22

そしてパトカーも警備員もいなくなった

ゴールデンウィークに入った頃から、自分が住んでいる浦安市の新町地域の日の出地区において全国に報道されるような連続事件が発生した。穏やかな休日の夜を襲い続けた犯人が逮捕されたというアナウンスはなく、危ない人が同じエリアに住んでいるという恐怖とも怒りとも表現しがたい感情が脳裏に澱む。

事件発生から先週の半ばくらいまでの期間は、日の出地区の北部にあるマンション群において上半身に赤色ライトを付けた複数の警備員が常時巡回を続けていたり、駐車場にパトカーがランプを回した状態のまま駐車していたり、覆面パトカーの中で警官が周囲を観察していたりと、もはやロボコップが登場して銃を撃ちまくっても違和感がないくらいの緊迫した様相を呈していた。しかし、先週の週末頃から(正確には6月17日頃だろうか)それらの警戒が急に解除された。けれど、報道どころか浦安市からの犯人逮捕のアナウンスがない。これは奇妙だ。


夜間には、散歩よりも遅い速度で歩いているシニアの警備員の姿を見かけることはある。しかし、警察については非常に分かりやすくパトロールが中止されている。警戒を解くのであれば、地域住民に一言くらい状況についてのアナウンスがあって然るべきだと思うのだが。

私なりに考えられる状況としては、大きく分けて三種類の推察が浮かぶ。

【1】厳戒態勢によって犯人を遠ざけている間、マンションの周辺に多数の防犯カメラを取り付け、その後で警官や警備員を引き上げ、犯人を誘き寄せて現行犯で捕まえるという作戦が始まった。

【2】すでに犯人が逮捕されたので、警官や警備員が巡回する必要がなくなった。

【3】もはや手に負えないと全てを諦めた。

【3】は論外として、【1】であれば知的戦略に基づく攻性防御のようで格好が良い。しかし、犯人がマンション群の住民であればカメラの取付作業を見ているかもしれない。そもそも浦安警察署にそこまでの計略を考えて実行するような権限があるかどうか。失敗して犯人が逃亡すると、警官がマンション群の中をダッシュで追いかけるというドラマや漫画のような展開になる。

状況としては【2】の蓋然性が高いと思われる。犯人を現行犯で逮捕することができなかったとしても、犯人が家族に連れられて警察に自首したという可能性もありうる。

あるいは、千葉東金道路での暴走事件の犯人のように容疑者の死亡が確認されて書類送検で終わったという可能性も考えられなくはないが、だとすれば千葉県警が何らかの形で公表するはずだ。

そういえば、最近、長野県中野市にて猟銃を持った男が警官等を襲い、自宅に立てこもるという凶悪事件が発生した。当該事件と関係があるのかどうか分からないが、このタイミングで浦安における一連の事件が生じなくなった。

賃貸であってもそれなりの住居費がかかる新町のマンション街なので、犯人のプロファイルは想像がつく。

しかし、浦安市の行政は自分たちにとって都合が良くない情報を市民に伝えたがらないという傾向があり、市民等が市に情報開示を求めた時には資料の大部分を黒塗りした豪勢なノリ弁当が出てくることがよくある。浦安が貧しい漁師町だった頃は海苔が特産品だったそうなので、ノリ弁当に親しみがあるのだろうか。印刷機のトナーの無駄だ。サステナビリティに配慮していない。

そして、シカトモードに入った浦安市は亀のような防御力を示し、市民が署名活動やアンケート、パブコメ等で突っ込んだとしても、浦安市が塩対応で相手にしないというパターンが多い。

あまつさえ、市民から指摘されるかもしれない情報については最初から目につくところに公開しないというパターンも多い。

例えば、市の貯金に相当する「財政調整基金」の毎年の残高が浦安市の公式サイトのどこで公開されているかを探してみると、この傾向がよく分かる。市の貯金が減り続けていることを市民に知られたくないためか、そのデータは断片化されてGoogleのエンジンでさえ上手く機能せず、かなりの検索スキルがないと情報を得ることが難しい。

また、各種事業における市民からのパブリックコメントを積極的に集めて受け入れようという市の姿勢も感じられない。市民が街のことを考えて浦安市に送ったコメントを並べて、全く同じ文言の返答文を連続してコピーペーストで貼り付け、これが市の考えだとネットで公表している。情けない限りだ。

このような行政の体質は市長が交代しても何ら変わらずに続いている。職員を含めた市役所のスタイルなのだろう。

まあ行政によくある話かもしれないし、私のような移民から見ると漁師町の網元制度の名残りのように感じたりもする。

かといって、浦安市役所の中の人たちが悪人なのかというと、むしろ純朴で丁寧な職員さんが多かったりもする。市議会議員についても同様。個々の人たちは親しみやすいけれど、組織全体になるとアレになる。一般市民から見えないところで影響を及ぼす人たちが介在しているのだろうか。

それにしても、今回の消極的どころか無反応と表現しうる浦安市の情報の発信においても、自分たちにとって都合が悪い要素があったのだろうか。

警察が犯人を逮捕した場合、必ずしもマスコミに情報を伝えて公表する義務はない。事件の容疑者が警官に連れられて報道カメラの前に引き出されるアレは、警察の取り決めとして行っているわけではないと私は理解している。警察が容疑者を搬送している時にマスコミが偶然居合わせたという体で映像が撮影されているのだろう。

マスコミにおいても、警察からの情報を必ず報道しなくてはならないという法律はないはずだ。自分たちにとってメリットがない、あるいは社会的なタブー等によりデメリットがあると判断すれば、マスコミはより注目を集める別のネタを報道することだろう。彼らの情報発信は公共事業ではなく商売だ。

加えて、地方の警察署はその自治体と密に連携しているので、ルールの範囲内で街の行政の方針に応じたりもする。とどのつまり、様々な人たちの様々な都合によって情報が伏せられることがある。

とりわけ、警察が犯人の逮捕について発表しない限り、私のような地域住民はその顛末を知ることが難しい。浦安署に尋ねて答えがない時には、遅れて公開される千葉県警のデータを調べるくらいしか手段がない。

他方、警察の情報は差し支えない範囲で市役所の担当課に伝えられている。とはいえ、どこかの街のように行政が市民に情報を伝えない場合、役所と議員と限られた市民のみが情報を制御し、実際の地域住民は自分たちの住環境の安全についての情報を得られないという不条理な状態になりうる。当然だが、地域住民には相応の不満と憤りが蓄積する。

本来ならば、浦安警察署が周辺地域の自治会と連携したり、情報を共有する必要があったように思える。しかし、犯人が地域住民に含まれている可能性があると、色々な都合が生じたのだろう。

警官は市民の味方だが、警察という組織自体は行政の味方だと私は理解している。

よく漫画やドラマで「司法の犬が!」と警察が罵倒されたりもするが、三権分立を前提に考えると正しくない。警察は司法ではなく行政の一部だ。法およびその範囲内の様々な都合によってこの組織は動く。

浦安署の警官から拳銃と手錠と逮捕権を取り上げて、制服ではなくホワイトシャツとスラックスを着せ、首にネームプレートをぶら下げると、色々な意味で浦安市役所の事務職員のような状態になる。

地方の警察の職務の基盤にあるのは正義を貫くヒーローではなくて、様々な都合の中で生きる役人という要素が強い。おそらく、市役所の職員と警察署の警官は本質的にはよく似た内容の苦労を重ねていることだろう。仕事の対象となるのは同じような役所の人間関係やルールや不文律、そして同じ地域の市民たちだ。

したがって、市役所と地方の警察の関係が癒着しているではないかと批判するのは筋違いであり、広い意味では両者が連携することで統合的な行政機能を担っている。

当然だが、警察からの情報は市役所に伝達され、市議会の議員たちおよび周辺の人たちにも伝わっているのだろう。

街の治安の維持における主体は警察であり、市役所や市議会はそのサポートや環境づくりといった役割になる。

犯罪の抑止には市民による監視や通報といった自助や共助も大切だけれど、埋立地に転居してきた住民が多い新町の日の出地区、とりわけマンション街は地域の繋がりや住民としての帰属意識が薄い。

それにしても、市役所や市議会を含めて、浦安市の関係者が今回の一連の事件について情報を発信せずに沈黙していることに愕然とした。

地域住民である私から見ると、市役所や議会の態度は、市民が危険に晒されている状況を無視しているように感じた。この人たちは地域住民の不安や怒りを感じていないのだろうか。彼らが市民からの税金で生活しているにも関わらず、この塩対応は不適切だろう。この人たちは市民を守る気がないのかと、私は浦安という街をさらに嫌悪するようになった。

浦安市の関係者たちは地震や大雨、祭りなどのイベントでは張り切って情報を発信する。しかし、市内で凶悪な連続事件が起きているにも関わらず華麗にスルーしている。この違和感がとても気になる。

直後の市議会の定例会における一般質問では、この件について直接的に言及している議員が見当たらなかった。捜査中なので名指しで指摘することを避けたのだろうか。地域住民の安全よりも優先度が低い質問が並んでいて、この議会には失望した。

「浦安の行政や議会は、地域住民に危険が及んでいるにも関わらず、無視するのか!税金を返せ!」と憤るつもりは私にはない。おそらく三番瀬よりも深い事情があったのだろう。

たが、ここまで分かりやすいと、たとえ情報を伏せていたとしても彼らの言動によってその大概が分かってしまう。

地震や大雨、電車の運休、市内のイベントでは積極的に市民に対して情報を発信する浦安市の関係者たちが、この連続事件については発生直後から触れずにスルーしている。

ここまで分かりやすいリアクションから察するに、警察だけでなく浦安の行政や議会が一連の事件の犯人像について早い段階で把握していたと思われる。

それどころか、初回の事件が発生する以前の段階において、彼らはそのリスクについて事前に気付いていたのではないかとさえ思える。初回の事件の後の塩対応の手配が早過ぎる。まるで予備情報が用意されていたかのようにノーリアクションを徹底しており、混乱した形跡がない。

なるほどそうか。おかしいと思ったんだ。近くに住んでいる我が家に警察が聞き込みに来たことは一度もなかったし、警官から職質を受けている人を見かけたこともない。パトカーの中の警官やマンションの警備員たちは、まるで特定の人物を見張っているような雰囲気だった。

私がウォーキングのために夜に出歩いても、彼らが私を観察しているようには思えなかった。むしろ、同じ地域住民からの「あの人が犯人じゃないのか」という視線が痛かった。

今回の連続事件における浦安市の情報源は、警察および「その他の人たち」だろう。地域住民からの情報は警察を介して浦安市に伝えられたはずだが、ローカルな場面ではその他のルートも存在する。

議員たちについては、市役所で情報を集めてそれらを内部共有したのか、浦安市の当局との間で非公式な会合があったのかは分からない。おそらく市当局と距離があって情報共有が遅れた一部の先走りを除き、この完全なるシカトは何らかの意図を背景とした組織的なコンセンサスによるものだろう。個々において偶発的に塩対応を始めたとは思えない。

市役所の中を含め、浦安市の関係者がこの事件についてどうしてシカトを貫いたのか。積極的に対応したくなかったからだろう。どうして積極的に対応したくなかったのか。地域住民の不安や怒りよりも優先したい何らかの「都合」があったからだろう。

今回の事件に関して、浦安市は地域住民に対して注意喚起や情報提供を呼びかけたり、市が主導して防犯カメラを設置したりという対応を執っていない。浦安市の公式ツイッターは、日の出地区の連続事件について完全にシカトだ。浦安市の公式サイトでは地域を限定せずに曖昧で匂わせ系のアナウンスを流しているだけ。

では、今回の連続事件において、どうして浦安市が積極的に地域住民を守ろうとしなかったのか。守ろうとすると色々と角が立つからだろう。

どうして事件を大事にすると角が立つのか。犯人の詳細が公になると困る人たちがいるのだろう。

ここまで推理すれば答えが分かる。

なるほど、私は道端で犯人と何度もすれ違っていたということか。

地域住民が不安で眠れなくなっても、その光景やサイレンの音がトラウマになったとしても、この街の行政や議会は自分たちの都合を優先したということか。彼らには市民の安心や安全というフレーズを口に出してもらいたくない。

ふるさと納税による他の自治体への住民税の移行が捗って仕方がない。この街に納める税金を極限まで削ることにした。

とはいえ、いくら浦安署が浦安市と密になっていたとしても、再び事件が発生すると千葉県警本部の責任が問われる。千葉県警は警官の不祥事による処分の件数が日本全国の都道府県でワースト1だ。今回の連続事件を見過ごすと無能というレッテルまで貼られる可能性がある。

これ以上の事件の連続はさすがに深刻だと考え、マンションにパトカーが張り付いたり、グルグルと周囲を巡回することで事件を抑止しようと取り組んだわけだな。私の勝手な推察だが。

だが、私には大きな疑問があった。犯人がマンションの住人だった場合、警察が張り付くことで事件を防ぐことはできても、犯人を現行犯で逮捕することは難しい。わざわざ警官がいるところで犯行に及ぶなんて、ルパン三世や怪盗キッドの世界観だ。

物的証拠がなく、映像証拠もない場合、警察はどうやって犯人を捕まえるのだろう。張り込みを続けていると現行犯逮捕は難しく、それを中止すると事件が起こるかもしれない。このようなパラドックスを延々と続けるのかと。

しかし、連続事件が起きたマンション群で懸命に巡回していたパトカーや警備員が急に姿を消した。刑務所に収監されるかどうかは分からないが、おそらく現時点では犯人が捕まったと私は察している。あらかじめトラップを仕掛けた状態でノーガード戦を展開しているとも思えない。

とはいえ、依然として浦安市も浦安警察署も連続事件について地域住民にアナウンスする気配がない。マスコミは有名な女優のW不倫という重要性の低い腰下のネタで大騒ぎしている。浦安市内の連続事件については情報の風化を待つということか。あるいは、マスコミでさえ触れたくない展開に及んでいるかもしれないが。

そして、地域住民は黙って以前の生活と精神状態に戻れということか。驚くべきことに、浦安出身の妻はこのような警備のトランジションが起きたにも関わらず、何もなかったように生活している。

浦安市の行政が市民に対する情報の公開を制限する傾向があることについては、「そんなの普通でしょ」とでも言わんばかりだ。妻は浦安の外の世界で住んだことがほとんどない。そのため、永遠の元漁師町と私が表現している地域性に違和感を覚えることがない。

あれだけド派手な事件が起きたのだが、街も人も言いたいことを言わずにスルーしている。この気持ち悪さは私にとって深刻であり、たとえ数年後に転出することが決まっていたとしても息が詰まりそうになる。

まあこれで夜中の海沿いでウォーキングを楽しんでも犯人扱いされなくて済む状態になった。物品や施設の被害、ならびに長期間にわたる地域住民の心理的な苦痛はあったが、生命の危機に及ぶ人的被害がなかったことも不幸中の幸いだった。

たったひとりであっても危ない人が暴れるだけで住環境が危険で劣悪な状態になることを再認識した。また、このマンション群の賃貸棟を管理している側は、危ない人が出現した場合の対策を用意していなかったわけで、私を含めた地域住民が油断していたことも確かだ。かといって、子供が小学校に通っている期間は転校を伴う世帯の転居は難しい。

それにしても、大迷惑な犯人だな。これだけ多くの人たちに不安と怒りを撒き散らしておいて、詫びのひとつもない。治安が良いという話を聞いて新浦安のマンション群に住んでいたのだが、その後で危ない人が引っ越してくると治安は容易に崩壊する。

また、今回のエピソードによって、この街の役所や議会および警察は信用に値しない存在だということを学んだ。彼らにも都合があったことを察するけれど、安全な生活のために必須の情報が地域住民に伝えられないなんて、怖くて仕方がない。

このような街に住み続けるとストレスばかりが蓄積する。早く引っ越したい。浦安に住みたくない。