「Dove Plus」を注文する寸前で取りやめる
割と本気で「Dove Plus」を手に入れたい自分がいる
購入を検討していたのはDahonのDove Plusという14インチのミニベロで、7kg台の軽量モデル。しかも、太いタイヤを取り付けた2023年限定のブラックエディションが飛ぶように売れているらしい。販売から2ヶ月が過ぎただけでDove Plusの在庫切れが相次いでいる。私もこの流れに乗らねばと、楽天のカートに入れてオプションのサイクル用品も追加し、あとはクリックして注文する状態になった。
2023年はオッサンとしての自らの生き方を深く考えることにした。色々と考えても大した結論に至らないかもしれないが、やり過ごさずに考え続けることに意味があるような気がしてならない。
オッサンになってよく分かるのだが、経済的な計画に基づく投資や貯金も大切だけれど、心身のコンディションの維持についての出費は思ったよりも重要だったりする。
出羽守になるつもりはないが、ヨーロッパの国々の中にはとても特徴的なライフスタイルがあったりするので参考になる。
とりわけ、ドイツやオランダの人たちの節倹ぶりには驚く。ドイツ人には物を大切にするというイメージがあり、確かにドイツ製品は丈夫で長持ちするものが多い。また、捨てられている家具を拾ってきて、自分で修理して使うことにあまり抵抗がないらしい。服や外食でも派手に金を使わない。
「割り勘」のことを英語で「Go Dutch」と表現したりもするが、このフレーズはイギリス人から見てオランダ人が金にシビアだと感じたことに由来しているようだ。まあ確かにオランダのBBBというメーカーが販売しているサイクル用品は値段の割にとても丈夫で、サイクリストが自分でパーツなどを購入して自分で取り付けることを前提に設計されているようだ。この国のサイクリストはショップで工賃を払うことを嫌がるらしい。
しかし、私の印象としては、ドイツやオランダの人たちは旅行については寛大で、長めに休暇を取って旅行を楽しむことが多いように感じる。当然、旅行のための出費については惜しまないらしい。旅が心身のリフレッシュや生きることの意義に繋がると考えているのだろう。
他方、米国民の場合には貯蓄がなくてもクリスマスがやってくればローンを組んで買物を楽しんだりもする。これがステレオタイプな米国のスタイルなのかというと違っていて、それなりに成功したアッパーミドル層は慎ましく生活し、節税を兼ねて投資に精を出していたりもする。だが、米国民について参考になるのは、「家族」という存在に対して金を出すことに寛大な点だな。その割に離婚率が高いことは不思議だが。
福祉が充実している北欧では、総じて地味に生活し、休日は自然あふれる場所にパンやソーセージを持って行って、家族でのんびりと過ごすらしい。ならば、私のように夫婦仲が良くない家庭はどうしているのかと疑問に思うが、それ以上に気になるのは、彼ら彼女らが何に金を使っているのかということだ。税金が高いと言っても、収入に占める税負担の割合は日本の方が高いように思える。
では、労働者の賃金があまり上がらず、光熱費や物価の値上がりが生じている日本においてはどうなのか。インフレだからと消費を制限して、暑くても耐え、寒くても耐え、欲しがりません何とやらと状況の変化を待っていると人生が終わってしまう。
往復3時間の通勤地獄において周りを眺めると、髪の毛が薄くなり、顔や生え際に皮脂が浮き、スーツやシャツの上からでも明らかに腹が出ていることが分かるオッサンがたくさんいる。
太った腹の上にベルトと上着を被せてごまかしても、横から見ると凄い厚みがある。料理の写真を撮ってSNSで発信している場合ではない。
おそらく、首都圏のベッドタウンに数十年ローンでマイホームを手に入れ、満員電車に耐えながら時間をかけて通勤しているのだろう。当然だが、一日の生活時間は削られ、日々の運動に取り組むような余裕もなく、結果として中年太りになり、健康診断でメタボ判定されても対処しようがないという状態。さらにはストレスで飲食に励んでしまうという悪循環だな。
日本の首都圏の同世代のオッサンについて言えば、「マイホーム」に対して金を出すというイメージだろうか。
しかし、よくよく考えてみると、ローンを払い終わった段階、あるいは子育てが終わった段階において、自分の身体がボロボロになっていたとして、それで有意義な人生だったと感じられるのだろうか。
あまつさえ、心身の健康の優先順位を下げてまで仕事や家庭を維持し、結果として現役時代から薬漬けになって生きるとか、力尽きて働けなくなって悲壮感を背負ったまま残りの人生を過ごすとか、そのような生き方に意味があるのだろうか。
多くのオッサンたちは、そのような疑念を感じながらも真正面から受け止めずに時を過ごす。「考えたところで仕方がないじゃないか」と豪語しているオッサンたちだって、いざメタボで心臓や血管が壊れると苦痛でのたうちまわったり、うつ病になると人生が終わったと嘆いたりもするわけだ。
「これがいい」と思ったことに全て出費していると、すぐに金が尽きて生活に苦しむ。とはいえ、オッサンにとってはひとつやふたつの趣味を心の拠り所にすることは間違っていないと思う。とりわけ、運動に関係する趣味の場合には、心身の健康維持という側面がある。その出費は自らのメンテナンスであったり、長い人生を見渡した時の投資になるような気もする。
運動に関係しない息抜きであっても、精神的な健康維持には役立つという趣味もある。ラーメン屋めぐりとか、銘酒探しとか、キャンプとか、ゲームとか、映画とか。
もとい、折り畳み式の軽量ミニベロを手に入れたいというアイデアは、首都圏で充実している鉄道網を活用してパワーウォーキングを楽しむという(自分なりには)新しい息抜きの中で生じた。
私は電車が大嫌いな人なのだけれど、自転車やウォーキングで通行したくないルートをスキップしたいという状況は、(陸続きではあるけれど現実的には)出島状態の浦安住まいで度々生じる。
千葉市から東、あるいは房総半島の方面はこれらのアクティビティにとって快適なエリアが広がっているが、とかく浦安市から市川市や船橋市を通過する経路が厳しい。修験者のように苦痛に耐えながらゴリゴリと進むことも趣があったりもするが、出発の前から気持ちが萎えてしまうことがある。
輪行ならばブロンプトンが適していると大枚を用意して購入し、肩に食い込むくらいの重量に耐えて輪行に励んでいる人たちがいたりもする。
ショップ主催の輪行イベントに参加して、幸せそうにしている人たちを見かけると、まるで「ハーメルンの笛吹き男」に導かれた子供たちのように感じたりもする。
たぶん、ブロンプトンを買った時には盛り上がっても、数年で輪行が面倒になり、とはいえ盗難が怖くて買物自転車として使うわけにもいかず、室内保管で骨董品のようになるのだろう。
走行性能は劣っていたとしても、可能な限り軽量であること。その条件は輪行ではとても大切だ。巨大なキャリーバッグの持ち運びについては緩いけれど、自転車の持ち運びについてはとても厳しい日本の鉄道のシステムにおいて、10kgを超えるような車体を持ち運ぶことは難しい。
最近になってDahonのK3やDove Plusが日本で人気を集めている背景には、そのようなサイクリストの需要が確実に存在しているからだろう。
10万円や20万円でオッサンの人生が少しでも豊かになるのであれば、大きな出費とは思えない。むしろ安い買物だろう。運動不足で循環器系の病気を患ったり、ストレスでメンタルに障害が生じた時の治療費を考えると、掛け捨て保険よりも意味がありそうだ。
心身のコンディションを保って働き、安定した収入を得られるのであれば、この出費は自分への投資でもあり保険にもなりうる。
というミドルエイジ・クライシスの味わいを漂わせる勢いづいた思考によって、Dove Plusを買って試そうと思ったわけだ。輪行で平地を走るのであればシングルギアで十分だ。むしろ、標準仕様でビッグアップルの極太タイヤに対応していることに魅力がある。
だが、少し気になることがあったので、カートの注文ボタンを押さずに情報を集めることにした。「Dove Plusの耐久性はどの程度なのか」と。
すると、20穴リムの14インチのホイールが衝撃に耐えられず、スポークが折れたという事例が多数認められた。購入して1ヶ月でスポークが折れたというトラブルもあるらしい。
有名な大手チェーンのブログ記事でも、Dove Plusの欠点としてスポーク折れが指摘されている。セールスを考えると、ブログでデメリットに言及することは利益がないかもしれないが、それでも書かざるをえないくらいにスポークが折れているらしい。
さらに、北海道にて2000kmを超える長距離ライドでDove Plusを使用したサイクリストが情報を発信していた。ボトムブラケットが壊れてクランクがスタックし、スポークが何本も折れ、フリーハブのラチェットの爪が折れて走行不能になったそうで、「Dove Plusは5km程度の街乗りを想定しているのだろう」という意見だった。
いや待て。ウォーキングを趣味としている私の場合、5kmならば自分の足で歩く。これらの情報発信を拝見して、私の購入意欲が一気に萎えた。もはや、Dove Plusに魅力を感じない。
Dove Plusは標準仕様としてシマノのホローテックII式のボトムブラケットに対応している。シマノのボトムブラケットの耐久性はとても高いので、この点については数千円のカスタムで何とかなる。
だが、Dahonの14インチの折り畳みミニベロにおいて多くの指摘があるホイールの耐久性については対処が難しい。
20本のスポークで組んだホイールの場合、20インチのモデルであってもスポークが折れることがある。14インチで同じことをやると折れて当然なのだろう。
すでにカスタムが完了して普段使いしているブルーノ・スキッパーには、32本の高強度のステンレススポークを使った手組ホイールが取り付けられている。段差や悪路に突っ込んでも気にならない。
それぞれのスポークは直径2mmの14ゲージ。重いホイールだけれど、20インチの場合にはこれくらいのスペックで組まないとスポークが折れることがあるらしい。ハブが手に入らなかったので組むことができなかったけれど、36本のスポークで組んだ方が安心だったかなと思ったりもする。
したがって、20本のスポークで組んだ14インチのホイールでは、スポークが折れても仕方がないのかもしれない。スポークを32本使って14インチのホイールを組んだなら、おそらく空気入れのヘッドをチューブのバルブに取り付けることさえ難しいことだろう。
直径2.6mmの12ゲージの極太スポークに対応した14インチのリムとハブが入手できるようであれば、自分でホイールを組んでしまおうかと考えたのだが、Dahonのフロントとリアのエンド幅は独自規格なので、シマノのロード用のハブ(F/R:100/130)は入らない。サードパーティ製は何とも心配だ。
最も決定的なのは、そもそも14インチのリムが手に入らないことだ。チャイナショップの通販に期待することは難しい。というか、怖い。
おそらく、路面からの負荷が高い14インチの小径ホイールの場合には、重量やコストが増えたとしてもカーボン製のバトンホイールが必要になると思う。ハブについても耐衝撃性を高める必要があることだろう。
メーカーの独自規格でありながらスポークが折れやすく、長距離使用ではフリーハブのラチェットが壊れてキックボードのようになってしまうなんて、購入する前から気持ちが萎える。
対局に位置するので全く参考にならないかもしれないけれど、サーリーというメーカーが「ロングホールトラッカー」というツーリング用の自転車を販売して、とにかくタフだということで世界的にヒットした。
最近ではディスクブレーキ仕様のディスクトラッカーというモデルに移行しているが、これらの自転車には重量を度外視したスチール製のフレームが用いられている。
どれくらいタフなのかというと、世界一周の自転車旅の定番になっているくらい。日本の有名なビルダーが製作したクロモリフレームがバキバキに破断するような条件でも、たくさんの荷物を積んだまま平気で走るらしい。これらのトラッカーシリーズには、世界最強のシマノのコンポーネントが使用されることが多く、とにかく壊れない。
また、ホイールやタイヤが壊れたとしても、各国の現地で入手した製品を取り付けることができるという汎用性を有している。
現在使っているブルーノのミニベロの場合でも日本では一般的な規格で設計されているので、カスタムで苦労することがない。標準仕様のコンポやホイールが気に入らなければ自分で取り替えることができる。遠出した先でタイヤがバーストしても、20インチの406タイヤはシティサイクルで汎用されているので、普通の自転車店でタイヤを交換して自走で帰還することができる。
だが、Dahonの14インチは耐久性も汎用性も十分ではない。これは厳しい。
Dahonが厳しいのであれば、ブロンプトンかバーディかという選択肢になり、ああもう考えるのが面倒だということでブロンプトンを買ってしまったりもするのだろうな。丈夫で一生物だと。
走行性能としてはバーディ、あるいはタイレルも候補になるのだが、私が求めているのは折り畳みが可能な軽いママチャリのような自転車だ。変速なんて必要ない。10kgを超えるメカメカしいフレームは遠慮したい。
買物のために立ち寄った近所のサイクルベースあさひで、アルブレイズという名前の20インチのアルミ製の折り畳み自転車が吊されていた。たぶん、日本規格のパーツが適合するはずだ。なるほど、この自転車のフレームだけを取り出して、最初からカスタムし直すか?
確実に沼に落ちて泳ぎまくることになる。たぶん、フレームを分解して再塗装するというところまで行き着く。このような出費は、いくら趣味とはいえ金の使い方としてよろしくない。
調べてみると、アルブレイズのエンド幅はF/R:74/135だそうで、手組ホイールを取り付けるためには、Dahon用のフロントハブとシマノのクロスバイク用ハブを手に入れて組み直す必要がある。危ないところだった。間違いなく沼に落ちる。
私が知る限り、シマノのロード規格のF/R:100/130という組み合わせのハブが適合する折り畳み式のミニベロはとても少ない。折り畳み式ではないブルーノの場合には何ら気にせずにシマノ製品をポン付けすることができたのだが、折り畳み式の場合には独自規格が多すぎる。
ブリヂストンのシルヴァF8Fという折り畳み式ミニベロはF/R:100/130のハブの組み合わせなのだが、2022年頃にリコールのアナウンスがあり、その後は生産終了となった。リコールの原因は折り畳み部分が破断した事例が生じたとのことだった。
CARACLEというメーカーの折り畳み式ミニベロでもフレーム破断の事例が生じてリコールが行われた。
やばいだろ。走っている最中にフレームが前後で真っ二つになるのは。剛健な背筋と腹筋を持った人ならば、瞬間的にフレームの代わりに自分の体幹で耐えてブレーキングまでたどり着ける...はずがない。頭から地面に直撃だろう。
KHSにもF/R:100/130の組み合わせのモデルがあったはずだが、在庫切れが続いている。KHSはキャリパーブレーキのモデルが多いので、太いタイヤを履かせる場合には種類が限られたディスクブレーキモデルが必要になる。
ここまで来ると14インチどころか20インチのミニベロでさえ意中のモデルが見つからないということか。残念だ。
私は思うのだけれど、より丈夫な14インチのハイスペックモデルをDahonがリリースしたら、ブロンプトンくらいの価格設定でも大ヒットする気がしてならない。価格を抑えようとしてスポークやハブの耐久性が落ちるのであれば、消耗品として豊富に在庫を用意してほしいものだが、現状としてはあまり十分とはいえない。
それにしても、このようなDahonの中途半端なところは昔から変わっていないな。サイクルパーツが品薄の現在ではカスタムさえ自由にならない。Dahonから分岐したような形のTernがDahonの中途半端さを埋めてくれると期待していたのだけれど、Ternは設計をスポーツ系に全振りしたり、日本の輪行事情に適していない重量級のキャスター付きモデルをリリースしていたりもする。
仕方がない。軽量なミニベロで自由に輪行を楽しむという理想については保留して、ウォーキングやトレッキングで歩くことにしよう。