2022/11/11

ふるさと納税による減収を嘆く浦安市のデータを浦安市民が検証してみた (前編)

浦安市に限った話ではないが、自分を含む団塊ジュニア世代の付近の人たちがその土地の行政に対して突っ込みを入れることは少ない。体制を批判することは良くないことだと学校の教師たちから指導を受けた結果なのか、親の世代にパンクな人たちが多かったからなのか、理由は様々だろう。

しかし、浦安市が公式サイトで発した「とある内容」について、思想的に偏っているとは思えないニュートラルな浦安市民の同世代の人たちから指摘がなされている。SNSの投稿は氷山の一角であり、同じような違和感を覚えていても表面に出さない人たちが多数いることだろう。


最初に書いておくが、私は浦安市を糾弾するために録を記しているわけではない。テクニカルな点で課題が認められるが、浦安市の関係者もリラックスして読むことができる内容だと思う。

浦安市が公式サイトでアナウンスした「とある内容」とは以下のページ。

 「ふるさと納税による市税の流出で税収が減っています」:浦安市公式サイト
 https://www.city.urayasu.lg.jp/todokede/zeikin/1034408/1037848.html

浦安市はウェブページの内容をURLを含めて修正することがあるので、直リンクすることに意味がない気がするが、とりあえず直リンクしておく。

アナウンスの要旨としては、浦安市民が「ふるさと納税」で寄附する額が増加して、浦安市の個人市民税の税収が減少しており、このままでは市民に対する行政サービスに影響が出るということ。

都市部の自治体ではよくある話だ。例えば、近くの千葉県船橋市も同じような内容をサイトでアナウンスしている。
 
 「ふるさと納税額と市民税控除額の推移」:船橋市公式サイト
 https://www.city.funabashi.lg.jp/kurashi/zei/005/p071728.html

しかしながら、今回の浦安市のアナウンスにおいては、担当する市民税課の職員なのか市の幹部なのか知らないが、市民に対するメッセージの熱量が高い。だが、突っ込みどころも散見される。

浦安という街の地方行政には、良くも悪くも独特の癖あるいは「パターン」がある。これらのパターンは寂れた漁師町の時代から続く風土的な不文律、および埋め立てによる急速な街の発展によって生じたことが推察され、色々と都合があるのだろうけれど、客観視すると不思議に感じたりもする。

しかし、とりわけ他の自治体から移り住んできた子育て世代の市民は、そのパターンを知らない、もしくは気が付かない状態で生活しているように思える。

まあとにかく、確かにこのアナウンスに対して働き盛りの浦安市民が突っ込む理由は分かる。気になった点を列挙してみる。

【1】 「ふるさと納税による減収の影響」という項目:
「個人市民税は、市のさまざまな行政サービスの財源となっており、この状態が続くと市民の方に提供する行政サービスに影響が出るおそれがあります」と記載されている。

ふるさと納税で寄附することによって個人市民税が減るところまでは理解できるが、なぜに行政サービスだけが標的になっているのだろうか。それならば、新規の市の施設についても建設が中止されたり、市職員の給与や市議会議員の報酬も減額になる可能性があると記載すればいい。

それらを含めて行政サービスという意味なのかもしれないが、行間からはそのように伝わらない。「ふるさと納税の寄附によって自分たちの生活の質が下がる」というような脅しではないかと感じる市民がいるかもしれない。ふるさと納税は個人の自由意志に基づくものだ。浦安市が個人の意思に介入する権利はない。

それにしても不思議だ。法的に何の問題もなく、政府も推奨している制度に市民が参加して、その結果として行政サービスの質を落としたとする。「影響する」と書いても文脈からは質を落とすという意味しかない。ならば、やってみればどうだろう。その場合に多くの市民からの批判は誰に集まり、どのような事態になるのかを考えているのだろうか。あえてそのベクトルに突き進むのは不思議に感じる。

【2】 「ふるさと納税(寄附金税額控除額)の推移」という項目:
ふるさと納税で任意の地方自治体に金を寄附するプロセスにおいては、翌年に納める所得税や住民税の一部がその原資となっている。浦安市民が他の自治体にふるさと納税で寄附をしてしまうと、浦安市に納める個人市民税の一部が控除されるので、浦安市としては税収が減ってしまう。

今回のアナウンスでは、その控除額が年々増加し、「令和4年度では10億円を突破してしまった」という内容をグラフを用意して説明している。しかし、浦安市の熱量が高すぎて、グラフにおいて印象を高めるための恣意的な矢印が追加されている。この編集は痛い。

行政機関が提示するデータについては、常に客観的であることが大切だ。金融商品やダイエット食品の広告でもあるまいし、公式サイトのグラフで恣意的な矢印を入れることは適切ではない。学術論文どころか、まともな大学であれば卒業論文であっても認められないはずだ。

さらに深刻なことがある。このグラフには「重要なデータ」が提示されていない。私が最も大きな違和感を覚えた点なので、後半で詳しく説明する。

【3】 「浦安市が他の自治体より「ふるさと納税」による影響が大きい理由」という項目:
ふるさと納税では実質的な市民税が自治体間を移動するため、政府としても緩衝的な仕組みを用意している。ふるさと納税によって自治体の個人市民税が減った場合には、減収額の75%が国からの地方交付税によって補填される。しかし、そもそも浦安市は財政力が高いため地方交付税が交付されない。

つまり、ふるさと納税によって個人市民税が減った場合、その減収について国から補填されず、浦安市の赤字になってしまう。この点については、浦安市の関係者としては切実で、ふるさと納税に限った話ではない。例えば、公立保育園を運営する場合には、地方交付税が交付される自治体と不交付の自治体とで負担額が大きく違う。そのため、浦安市は大変な苦労を重ねながら予算をやり繰りしている。

ただし、地方交付税不交付団体だから財政的負担が(以下略)という浦安市の説明は、おそらく多くの浦安市民に理解されていないと思われる。「財政力が高いのだから何とかせよ、泣き言を言うな、だったらもっと節約せよ」と。この点についても後述する。

【4】 「ふるさと納税制度について」という項目:
ふるさと納税の本来の意義や概要を説明している。詳細は省略するが、この制度は本来の故郷に寄附をする取り組みだという趣旨を私は理解した。気持ちは分かるが、他の自治体では減収について、ここまで突っ込んでいるようには思えない。

浦安市のふるさと納税についての別のページを見ると、この文章の矛盾が分かる。

 「浦安市ふるさと応援寄附(ふるさと納税)」:浦安市公式サイトhttps://www.city.urayasu.lg.jp/todokede/zeikin/1034408/1000331.html

このページでは、ふるさと納税について「ふるさと納税とは、自分の生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域や、これから応援したい地域の力になりたいという皆さんの思いを生かすことができるよう、応援したい自治体を選び、寄附をする制度です。」と書かれている。

これでは、「故郷への寄附でなくても構わないよ」と市外に向けて発信し、市民に対しては別の正論で寄附を抑えようとするのかと誤解されかねない。

【5】 「ふるさと納税制度への浦安市の取組み」という項目:
国に対して制度の改善を要望しているとか、返礼品を開始したといったエクスキューズが記載されている。これも浦安市の行政のアナウンスによくあるパターン。市民からの突っ込みを警戒して、時に本題よりも充実した但し書きや「やってますよ」的な説明が追加される。

国の制度が簡単に変わるはずもなく、解決論としては減収を補うだけの増収に取り組むしかないだろう。

返礼品は「浦安の魅力発信や地場産業の振興、観光推進を図ること」が目的なのだそうだ。このように具体性を欠く曖昧な四文字熟語のキーワードを並べて相手を説得させようとするパターンは浦安の行政によくある。

もうひとつの浦安の行政のパターンとしては、世の中の流れから一歩遅れて踏み出すこと。ふるさと納税の返礼品についてもその典型だ。結果として何だかピントがずれた方針や回答が浦安市から発せられて、市民が「違う、そうじゃない」と感じるのだろう。

市民が最も注視しているのは、「減った分の税収を取り戻す」という目的を設定し、その目的を達成するための戦略において、「どのような返礼品を用意するのか」という点だろう。

「市民の皆さんが、ふるさと納税で寄附してしまうから、こんなに税収が減っています。このままでは行政サービスに影響します」とか、「ふるさと納税の本来の意義とは...(以下略)」という説明を市民が望んでいるわけではない。

新浦安に住んでいる百戦錬磨の企業人たちは、ビジネスシーンで社内の同僚、あるいは取引先がこのような説明を並べたら怒ると思う。窮状と弁明だけで解決策が提示されていないのだから。

だが、私はふと気付いた。

浦安市公式サイトの「ふるさと納税による市税の流出で税収が減っています」という悲観的に感じるページには、本来ならば「提示されるはずのデータ」が提示されていない。おそらく、意図的に「そのデータ」を伏せたのだろう。

どうして「そのデータ」を提示せず、まるで市民に対して「他の自治体への寄附を控えてください。さもないと行政サービスが低下します」と受け取られかねないニュアンスの情報を発信してしまったのだろう。

むしろ、「そのデータ」を提示することで浦安市の工夫や取り組みが市民に伝わり、市民においてはふるさと納税という制度を「楽しみ」、税についてより深く考えることができると思うのだが。不思議で仕方がない。

浦安市が積極的に情報を公開しないことはよくあって、オープンデータについて積極的とは思えない。オープンデータとして公開されるのは当たり障りのない情報が多い。そのような消極性は市民の不信や不満を生み、市民からのフィードバックを減らしてしまうリスクがある。

そもそも、浦安市役所にはどれくらいの数のデータサイエンティストが雇用されているのだろうか。イラストならばともかく、グラフの中に恣意的な矢印を書き込むなんてことは御法度だと思うのだが。

仕方がないので、総務省のオープンデータにアクセスして、浦安市が提示していないデータを確認することにした。

データを眺めてみると、やはり浦安市としても現状を打破するための戦略をすでに開始していることが分かった。あまり高等なスキームではなくて、多くの浦安市民が「普通」に感じていたことを「普通」に開始しただけ。

要は、「ディズニーを主体としたレジャーにおいて利用可能な返礼品を用意する」という戦略。

浦安市民にとっては平凡なアイデアだが、他の自治体にとっては凄まじい脅威として映ることだろう。名産の米や肉、魚介類やフルーツなどを生み出す自治体はたくさんあるが、夢と魔法の国がある自治体は日本でひとつしかない。全国から人々を集めることができる。

ディズニーファンは全国にいるので、全国の人々から寄附を集めれば、流出した分の個人市民税を補填することは可能だろう。むしろ寄附を集めすぎて批判が来ることを浦安市がケアしているように感じる。

なぜにディズニーに関連した返礼品を用意しないのだという浦安市民からの批判は、確かにその通り。

ふるさと納税という制度自体への首長のこだわりだとか、元漁師町のこだわりだとか、そのような要素を解除して、ようやく全国の自治体との熾烈で残酷な競争に臨む覚悟ができたのだろう。

文章が長くなったので、続編に続く。

 「ふるさと納税による減収を嘆く浦安市のデータを検証してみた (後編)