このタブレット端末は学習用じゃなかったのか?
今回の私の怒りは凄まじく、もはや中学受験を中止せよというプレッシャーさえ妻に届いた。中学受験というステージで夫婦の教育方針が割れて離婚することなんて珍しい話でもない。また、父親に対して嘘をつくような子供に機会を与える必要はない。
下の子供が学習机の前に座ったり、リビングで黙々とiPadを使っている姿を見かけることは多い。一方で、テキストやドリル、プリントといった教材を始めるとすぐに集中力が切れて、妻に答えを尋ねようとする。
このご時世なのでデジタル教材を好む子供がいるかもしれないし、私は下の子供が「塾の教材で学んでいる」と信じ込んでいた。なぜなら、下の子供がiPadを使っている真横で、妻が自分のスマホを凝視していることがよくあるからだ。母親の隣で遊んでいるはずがない。
ところが、これだけ学習を積んでいるにも関わらず、どうして学習塾の試験の結果が思わしくないのか、私には全く理解ができなかった。その理由がようやく分かった。
休日に私が自室から出ると、下の子供が瞬時にタブレットを操作したり、タブレットそのものを隠したりすることがある。不思議に思って、下の子供と真正面から向かい、今、何をやっていたのか、iPadの履歴を目の前で見せるよう命じた。
拒否すればiPadを叩き割るくらいの気持ちだったので、下の子供も察したのだろう。
案の定、デジタル教材で学んでいるふりをしてiPadで漫画を見ていた。日曜日なので1〜2時間ならば仕方がないと思うのだが、5時間以上も漫画を見ていた。塾のデジタル教材による学習時間はゼロ。
タブレット端末のペアレンタルコントロールをかけていないのかと指摘されそうだが、もちろん設定している。
iPadには「スクリーンタイム」という機能があり、端末を使用する時間やアプリの選択、ウェブコンテンツの選別といったペアレンタルコントロールとして使用することができる。
電車に乗ればほとんどの人たちがスマホを凝視し、駅の中でもスマホを見ながら歩き続けるスマホゾンビが彷徨っている。大人であっても携帯端末への依存度は高い。子供に対してはなおさらだ。
タブレット端末を子供たちに使わせる時、当然ながらペアレンタルコントロールをかけた。ただし、上の子供の場合には、「このようなことをしてはならない」と注意すると、その通りにルールを守った。なるほど、我が子たちはきちんとルールを守るんだなと私は思った。
ところが、その考えが油断を生んだ。下の子供の場合には親から言われたルールよりも自分の欲求が勝ってしまい、色々と悪知恵を働かせてしまう。想像の斜め上を行く発想には父親として認めざるをえないところがあるが、どうしてもっと素直に親の言い分を守らないのかと腹立たしく感じもする。
先述の「封印箱」まで話を戻す。
下の子供は漫画本が大好きで、コミックを読み始めると何時間でも集中して物語の中に浸ることができる。それならば教育的内容を含んだコナンの歴史シリーズが適しているのかと思って買い与えてみたりもしたのだが、歴史については適当に理解して、単にコナンの物語を楽しんでいるだけだった。塾の社会科の成績もよろしくない。
上の子供の場合には、ライトノベルや小説といった文字を読むことを好むので、漫画ではなくて読書に興味が移った。結果として読書を続ける習慣が身に付き、中学受験を乗り切る国語力に繋がったらしい。
一方、下の子供は漫画が大好きで読書を好まない。学習塾に通い始めても同じ状況であり、妻がどれだけ叱っても勉強ではなく漫画本に興味が向かう。
妻が大声を上げて怒鳴ると家の中が喧しく、下の子供が勉強せずに漫画本に夢中になることも良くない。それらをゴミとして捨て去るよりも、手軽にアクセスできないように箱に入れておけば少しはモチベーションに繋がるのではないかと思った。
そこで、「JEJアステージ ホームボックス (620」という名前のプラスチック製の収納箱を購入し、その中に漫画本の束を入れ、小さな南京錠をかけて開けられないようにした。頑張った時はボーナスデーとして休日に漫画の閲覧が可能になるというシステムだ。ゲーム要素を含んでおり、素直な子供であれば頑張ることだろう。我ながら良いアイデアだと思った。
ところが、下の子供の成績は一向に上がらず、積極的に塾のテキストをこなしている様子もなく、試験の成績は芳しくない。妻は感情的になって怒鳴り散らし、それならば転塾だ、中学受験の取り止めだと主張するのだが、下の子供としては転塾したくないし、中学入試を受験したいと怒鳴り返す。私には意味が分からない。
どうやら、下の子供が通っている大手学習塾には、同じ小学校で仲の良い同級生が通っているので、転塾したくないらしい。しかし、塾の予習・復習をせずに遊んでいるわけで、家庭内での学習は破綻している。
塾は友達と遊ぶ施設ではない。高い金を払って効果がない塾なんて通う意義がない。
その子供の父親と面識があるのだが、どうやらその父親は私の教育方針をトレースする形で自分の子供を同じ塾に通わせることにしたらしい。
何を勘違いしているのか分からないが、上の子供がとある大手学習塾に通って難関を突破し、下の子供も同じ塾に通うようになったのは、「妻の方針」によるものだ。この夫婦は意思疎通が大渋滞している。
私が何を言おうと妻がマウントを取りたがるので、もう諦めた。
さて、私が施したペアレンタルコントロールの盲点を突き、下の子供がどのようにiPadを学習ではなく「娯楽」の道具に変えたのか。
最初に、iPadに記録されていたアプリの使用履歴に愕然とした。例えば土日は半日近くタブレットで遊んでいる。勉強に使った形跡がない。平日にもiPadで毎日遊んでいた。1日で数時間も遊ぶのだから、勉強するはずがない。
受験について妻がマウントを取ろうとするのだから、きちんと管理せよと私は思った。妻は試験の結果だけで怒り散らしているが、子供の学習の進捗を把握していないのか。
下の子供は学習塾の教材で勉強したフリだけを続け、そのままの状態で試験を受けるのだから、偏差値50に届くはずがない。勉強せずに遊んでいた子供と同じラインに並ぶ。ただそれだけのこと。
次に、具体的な手口について記録する。
ホーム画面に追加されていたアプリをチェックしたところ、図書一般に関するアプリが勝手にインストールされていた。SNSやゲームといったアプリのインストールはスクリーンタイムで禁止していたが、図書アプリであれば学習に関係するだろうと許可していたわけだ。
しかし、図書アプリが下の子供に狙われた。これらの中には漫画を取り扱っているものがある。課金せずにプレビューを閲覧するだけでも、例えば「SPY×FAMILY」のコミックの冒頭部分を閲覧することができたりもする。もちろんだが、無料のコンテンツもある。
図書アプリに限った話ではないが、ペアレンタルコントロールには死角がある。それは、アプリがインストールされてしまうと、アプリの内容にまでコントロールが及ばなくなるという点。
Android端末の場合には、この死角がさらに深刻だ。セーフモードで起動されるとサードパーティ製のフィルタリングソフトがザルになる。YouTubeで得意気にフィルタリングの解除方法を説明している大人まで認められる。このような大人はどのように育ったのだろうか。小銭を稼ぎたい独身の中年男性だと思うが。
Apple製品の場合にはスクリーンタイムによってある程度は対応しうるが、それでも子供の狡猾さは親の想像を超える。アプリのインストールは全て禁止した。
それ以上に背筋が寒くなることに気付いた。
とりわけApple社の製品はカメラの解像度が高い。例えば、下の子供がiPadを家の外に持ち出して漫画本がある場所に行き、その内容を撮影して持ち帰ってしまった場合。
この行為は著作権を侵害する違法行為に該当する。犯罪だ。
漫画本がある場所は浦安市内によくある。
例えば、子供たちが通っている児童育成クラブ、通称、学童保育。この施設は教育施設ではないのでたくさんの漫画本が並んでいる。しかも、子供による情報端末の使用が禁止されていなかったはずだ。
子供が静かに漫画本を開いて、その内容をスマホやタブレットで撮影し続け、そのメモリーを持ち帰って自宅で閲覧していても親が気付かないかもしれない。親としては端末にフィルタリングを施しているので、まさか自分の子供が違法なデジタル複製を行っているとは想像もしないことだろう。
それ以外にも友達の自宅に遊びに行って、漫画本を撮影するなんてことは造作もない。
しかし、流通している出版物を子供がスマホやタブレットで撮影し、無断でデジタル複製してしまうことの危険性や違法性を学校や親が理解しているだろうか。フィルタリングはネット上で生じうる危険性を抑制するが、全ての危険性がネット上に存在するわけではない。リアルと交錯した時の方が危うい。
どうして子供専用の情報端末が販売されず、大人用の製品を子供に持たせるような世の中になったのか。
これは大変だと思った私は、iPadのカメラ機能を禁止した。スクリーンタイムにこのような機能が備わっているということは、すでに全世界で同様のトラブルが生じているのだろう。
そして、塾のデジタル教材を使用する時だけ封印箱からiPadを出して下の子供に使わせる。
それにしても、下の子供がここまでiPadで遊んでいたにも関わらず、どうして妻は気が付かなかったのだろうか。いくら怒鳴って叱っても意味がない。本人が勉強せずに遊んでいるのだから。
自宅で寝転がって休憩している妻は、いつもスマホばかり凝視して夫と会話することもない。家事をしている時や髪の毛を乾かしている時でさえスマホを凝視している。スマホを見つめながら掃除機をかけている時さえある。
一体、どのようなコンテンツを凝視しているのだろうか。私は不思議に思った。
スクリーンをロックせずに適当に放置された妻のスマホを一瞥してみると、その画面に映っていたのは漫画だった。別の機会にさりげなく観察してみると、やはり漫画。その次も漫画。
今回の事象について私が出した結論は至ってシンプルだ。iPadを封印箱に入れ、反省あるいは改善が認められないのであれば、iPadを叩き壊してゴミとして捨てる。もしくは、これだけインフレが生じているのだから、捨てずにメルカリに出品すればすぐに売れる。
下の子供の場合、デジタル端末を親が管理し、学習において必要となった場合にのみ子供に使用させるという仕組みが必要になる。もしくは、デジタル端末を使用しない塾に子供を通わせるという選択肢もある。
夫婦が密に連携をとっていれば他愛のない話だが、夫婦間でコミュニケーションが破綻し、おそらく義母の教義によって妻が家庭でマウントを取りたがるのだから、もはや私が何を考えても仕方がないことだ。
それでも、これは違うと思ったことについては、妻の方針をねじ曲げてでも父親として従わせるべきだ。