2022/07/19

ブルーノ・スキッパーのサドル考:ソフトかハードか

普段は千葉県北西部に広がる谷津道に出かけてサイクリングを楽しんでいる私だけれど、6月から7月にかけては江戸川の左岸の河川敷に通っている。理由は二つある。そのひとつとして、春先の木の芽時から自律神経の調子が悪く、いつも以上に思考が沈みがちになっていたので、混み合った車道を走って谷津道にアプローチすることに抵抗があった。

もうひとつの理由としては、予定がタイトな日に仕方なく江戸川の河川敷を走ったところ、最近では左岸の遊歩道が閑散として走りやすいことに気が付いた。江戸川の右岸、つまり東京側は拡張工事がなされて道幅が広がり、グラウンドも増え、荒川の右岸と同じような状態になり、人出が増えて混み合っている。一方、左岸の状態はほとんど変わらず、牧歌的な雰囲気の中で千葉県民が休日を過ごしている。


今年の1月からカスタムを始めたブルーノ・スキッパーという小径自転車、いわゆるミニベロについては、半年以上が経過した現在においてもカスタムが完了していない。

最も気になっているのは、ロードバイクに乗っていた時には感じられなかった「座骨の痛み」や「腰回りの筋肉の疲労」。これらの原因がよく分からずにいた。

ロードバイクに10年以上も乗ってきたので、自転車のポジション出しなんて簡単だと思っていたのだが、ミニベロの場合にはそれぞれのフレームによって癖が強いため、乗り手に合わせた細かな調整が必要になってくる。

もしかして、愛用しているBROOKSのカンビウム・オールウェザーというサドルがスキッパーでの使用に適していないのだろうか。いけないな。サドル沼にはまりかけている。

そういえば、最近のブルーノのミニベロには、革製のようなサドルではなくて、厚手のクッションが入ったフカフカのコンフォートサドルが標準仕様になっていることが多い。おそらく、このサドルはセラロイヤルが製造しているように思える。STIのドロップハンドルが付いているのにコンフォートサドルというモデルさえ存在している。

河川敷の場合には、毎回のサイクリングにて同じコースを同じペースで走ることができるので、サドルの種類やポジションを煮詰めようかと思った。

まず、最近のブルーノのミニベロでクッションが厚いコンフォートサドルが標準仕様になっていることに何か理由があるのかと思い、スピンバイクで使用しているタイオガの「ジェミナス」というコンフォートサドルを取り付けてみた。

205.jpg

今回のシートポストはNITTOのS84ではなく、タイオガのセプター2Dを使ってみた。外径は27.2mm、オフセットは10mm。

206.jpg

サドルを交換した後の見た目としては、スキッパーの初期仕様に戻った感があるし、ブルーノの街乗りモデルでよくあるシルエットになった感もある。

タイオガのジェミナス、もしくは関連するコンフォートサドルは隠れた逸品だと思う。サドルに限らず、タイオガの製品は値段の割に剛性と耐久性がある。ロードではなくてMTBの製品をメインにスタートしたという経緯があるのだろうか。

このサドルは厚手でクッションがある割に沈み込まないくらいの固さがあり、私の場合にはスピンバイクを延々と漕いでも尻痛に困らない。このサドルであれば、座骨や腰回りの筋肉の痛みが減るだろうと使ってみた。

実際に使ってみた感想としては、最長で30km程度の街乗りであれば、あるいは普段着でブルーノ・スキッパーに乗るのであれば、ブルックスのカンビウムよりもタイオガのジェミナスの方が適しているように感じた。スキッパーを購入した際に標準仕様で付いてきたコンフォートサドルも同じような感覚だった。

車輪が小さいミニベロの場合には地面からの細かな衝撃が続くため、他社のミニベロの中には後輪用のショックアブソーバーが装備されていることがある。ブルーノにはそのような緩衝機構がない。ということで、コンフォートサドルが標準仕様になってきたのかなと私なりに解釈した。

なるほど、ブルーノのミニベロのサドルには、それなりの理由があったということだ。

しかしながら、80kmから100km程度のサイクリングになってくると、タイオガのジェミナスでは40kmくらいを越えた辺りから表現しがたい大臀筋の疲れと不快感がやってきて、座骨も痛くなってきた。ピンポイントで痛いというよりも座骨が幅広く圧迫されているように痛い。走りながら腰の位置をずらしても痛みが軽減されない。

また、ニッカーパンツの下にサイクルパンツを履いているのだが、尻の表面とサドルが密着しすぎて皮膚が引っ張られるような感覚もある。ゲルパッドのフィット感が良すぎるからだろうか、蒸れる感じもある。

加えて、夏の江戸川沿いの場合には、昼間は上流に向かって風が吹くことが多い。つまり、帰路は向かい風の中でペダルを回すことになるのだが、コンフォートサドルの場合には腰の固定が緩いので力が入りづらい。

スピンバイクでの室内トレーニングの場合には、タイオガのジェミナスがとても使いやすくて痛みが少ないのだが、実走の場合には勝手が違うらしい。

しかし、座骨の痛みはともかく、腰回りの筋肉の疲労は少なくなってきた。シートポストのオフセットにヒントがある気がする。

そこで、翌週のサイクリングではサドルをBrooksのカンビウム・オールウェザーのC17に戻し、サドルではなくシートポストを変更することでサドルの前後位置を調整することにした。

具体的には、セットバックが大きいNITTOのシートポストS84から、オフセットが全くないS92に変更した。これによって座面を20mmほど前に移動させた。

加えて、ステムを10mmほど下げて少しだけ前傾を深めてみた。

207.jpg

すると、あれほど辛かった座骨や腰回りの筋肉の痛みが呆気なく消えてしまった。

結論としては、座骨の痛みや腰回りの筋肉の疲労はサドルの前後位置に関係しており、オフセットゼロのシートポストに変更してサドルを前方に出すことで解決した。

ブルーノのシートチューブは後方に向かってかなり傾いている。その状態のままサドルをセットすると、当然だが座面が後ろに位置することになる。

しかしながら、膝皿の裏側の鉛直線とペダル軸の間が10mmくらい後方に位置していたところで、ロードバイクに乗っている時には何ら気にならなかった。このポジションは「後ろ乗り」というハムストリングを使った「回す」ペダリングに適している。

だが、スキッパーに乗る場合には、アップライトの後ろ乗りでペダルを回し続けていると座骨や腰回りに負荷がかかって痛むらしい。

加えて、関係性が複雑で私自身もよく分からないのだが、Brooksのカンビウム・オールウェザーのC17というサドルは60度の骨盤の傾きを想定して設計されている。サドルをセットバックした状態の場合には骨盤の傾きがより深くなり、座骨とサドルとの間でミスマッチが生じてしまうようだ。

ロードバイクでもカンビウム・オールウェザーのC17を使用していたが、その場合には前傾が深いので座骨への荷重が少なかったということだろうか。

座面に厚手のクッションやゲルパッドが入っているタイオガのジェミナスと比べると、天然ゴムのトッププレートに樹脂を貼っただけのカンビウム・オールウェザーの乗り味は硬い。

ミニベロのタイヤが地面の凹凸を拾って細かな衝撃が尻や腰に伝わってくる。しかし、サドルの感触が分かりやすく、局所的に痛みが出たらそのポイントをずらすことで痛みを軽減することができる。

また、上り勾配や向かい風でのペダリングで腰が安定するので力を入れやすい。やはり、サドルはカンビウムだな。

まあとにかく色々と試しているうちにポジションが出た。一般道でポジション出しを繰り返していたら、いつになっても終わらなかったことだろう。

ところで、写真でも分かる通り、サドル以上に目立つフレームバッグやステムバッグがスキッパーに取り付けられている。ブルーノのホリゾンタルフレームではチューブに囲まれた四角形のスペースがとても大きい。また、クイルステムの周囲にもスペースがある。

そこまで荷物を載せて走る予定はないのだが、この自転車のどこに何を取り付けると使い勝手が良いのかを幅広く試してみたくなった。

ロードバイクの場合にはスペースが厳しくなるが、スキッパーの場合にはフレームバッグを取り付けてもドリンクボトルを容易に取り出すことができるかなと思い、試してみることにした。

高級なフレームバッグは今の私に必要ないので、GORIX(ゴリックス)のGX-FB27という数千円のフレームバッグを取り付けてみた。この値段で生活防水、かつ思ったよりも使い勝手が良い。

リアブレーキのインナーケーブルが外装で剥き出しになっているフレームの場合、フレームバッグを取り付けるとケーブルを抑え込んでフレームを傷付けることになる。

それを防ぐためにバッグの固定ベルトを緩めたり、ブレーキケーブルをフルアウターにしてしまうサイクリストもいるのだが、今回は手持ちのアクセサリーを流用することにした。

208.jpg

SKOUT VELOの「Frame Shield」という樹脂製のアクセサリーをフレームに取り付けた後、その上からバッグの固定ベルトを巻いた。

このアクセサリーの正しい使い方としては、ハンドルがグルッと回転した時にフレームを痛めないようにプロテクターとして取り付けるものだ。自動車にロードバイクを格納して輸送する時、あるいはトライアルバイクで飛んだり跳ねたりする時にフレームを保護することができる。

以前、大阪にあるカシマックスが元祖となるフレームプロテクターを製作していたのだが、数年前に販売中止になった。フレームプロテクターが手に入らずに困ってしまった米国人が、同じような製品を製作して販売することにしたそうだ。

SKOUTのFrame Shieldは筒状なのだが、一部に切れ込みが入っている。そのスペースにリアブレーキのインナーケーブルを通すことで、フレームバッグのストラップを確実に締めても影響を受けなくなる。

この部品を取り付ける際には、自己融着タイプのブチルテープをフレームに巻いておくと位置がずれない。

数千円のフレームバッグを取り付けるために、バッグよりも高額なFrame Shieldを2個も使用するのであまり経済的ではないが、この固定力は半端ない。走行中にバッグが動かずに安定している。

209.jpg

ハンドル回りにはタイオガの「ADV ステムバッグ」を取り付けてみた。これも数千円の製品だが驚くほどに便利だ。ナイトライドを想定して2個のキャットアイのライトを取り付けたり、スマホのホルダーを取り付けたので、ハンドル回りが鬱陶しいが、まあこれから何とかしよう。

210.jpg

リアキャリアには輪行袋とスペアタイヤを入れたゴリックスの防水バッグを取り付けてみた。江戸川サイクリングロードを走っていてタイヤがバーストしてスペアタイヤが必要となることはないだろうけれど、出先でトラブルがあった際に20インチのタイヤが都合良く手に入るとは思えないので、念のため。

それにしても、現時点では、積載する荷物と比べてバッグやキャリアの空きスペースの方が多いという、意味不明でカオスな状態になってしまっている。スキッパーに感情があれば「いい加減にしろ!」とブチ切れることだろう。

フレームバッグとステムバッグも試したので、残るはパニアバッグくらいだろうか。

とりあえずこのまましばらく走り続けてそれぞれのアクセサリーの使い勝手を評価し、必要のないアクセサリーを外し、全体の装備を煮詰めていこうかと思う。

もしくは、走るルートや内容に応じてアクセサリーを取捨選択するという手段もありそうだ。それはそれで面白い。ロードバイクでは味わえなかった楽しさだ。

その後も調子に乗って江戸川の左岸を走り続けた。自転車で走っていてどこも痛くないという状態は最高に幸せで、どこまでも走って行きたくなる。

真夏の炎天下であっても、サーモスのサイクル用保冷ボトルに氷とスポーツドリンクを入れてこまめに飲むと、思ったよりも辛くない。身体の中から冷却し、汗を噴き出し、塩飴を口に放り込む。

たぶん、自分の血液中の水分がほとんど入れ替わったように思える。身体に悪い成分や加齢臭の原因物質まで外に出た感があるな。

そして、江戸川の左岸には橋や日陰があったりもするので、辛くなれば休むだけ。

江戸川の左岸を走り続けると、野田市に入ったところで右側に利根運河が見えてくる。そこから利根運河沿いを走り続けると、江戸川から利根川にアクセスすることができる。ミニベロで浦安から茨城県まで走って行くオッサンというのも、それはそれでタフっぽいな。

利根運河の手前の休憩場にスキッパーを停めて休んでいると、周りにも同じようなオッサンたちが木々の日陰に座って休んでいた。

212.jpg

私も含めて、今では立派なオッサンになったが、若き日には部活の合間にこのように休憩して、眩しい日の光や輝きのある樹木の緑を眺め、夏の風を感じていた。

当時の自分たちには若さと将来があった。これから何が待っているのだろうとか、何を経験するのだろうとか。人生の夏が始まったようなものだ。

そして、気が付くと時が流れ、老いた自分の姿がここにある。自分の生き方の中で経験しうることは概ね終わり、再びやってきた夏を感じている。現実の季節は夏だが、人生のステージとしては晩秋くらいだろうか。このギャップが切なく感じる。

あの時にああすれば今よりも幸せになっていたのだろうかとか、そういった後悔を感じる時期さえ過ぎて、惰性とも虚無とも言えそうな感覚の中で生きている気がする。

そんなことを考えても仕方がないな。ようやくミニベロのポジション出しが完了したようなので、早起きして江戸川から利根川まで走り、帰りは谷津道を走って帰るというロングライドに出てみようか。

いや、150kmから200km程度のロングライドについては、もう少し涼しくなってきてからだな。もはや若くない。