2022/05/24

弥富川沿いの谷津道を走って八街市で新緑を味わう

週末のサイクリングでどこに行こうかと様々なルートを頭の中でイメージしていたところ、千葉市の東に広がる谷津道に行ってみたくなった。これまでの私が足繁く通ってきたのは、自宅がある浦安から北東の方角にある谷津道だ。具体的には、市川市や鎌ケ谷市、柏市、八千代市、白井市といった街を流れる川や水路(大柏川、大津川、桑納川、新川、神崎川、金山落としなど)に沿った道路。

これらの谷津道はもちろん素晴らしいのだが、浦安市から見て千葉市の向こう側には房総半島や九十九里浜に繋がる無数の谷津道が存在している。ブルーノのミニベロのカスタムならびにポジション出しが完了したので、小旅行を兼ねて八街市付近の谷津道に自走で行ってみることにした。距離としては往復100kmを超える。ミニベロでの100km超ライドはどのような感じなのだろうか。


千葉県の「八街市」という街は、千葉県民であってもあまり馴染みがない。この自治体で不祥事が起こると、ネット民が「やっちまった!」とつぶやくことが予定調和だったりもする。シティプロモーションにおけるパワーフレーズとして活用するにはあまりにリスキーだ。

そして、八街市は地理的にはチーバくんの顔の頬に位置する。チーバくんのベロで有名な浦安市や、股間の突起をなくすために市域の一部を削除された富津市と比べると地味だ。

しかし、八街市は落花生の生産量において千葉県ナンバーワンだ。

日本国内の落花生ランキングで他の都道府県を大きく引き離す絶対王者の千葉県。落花生の勝負において敗北の二文字はありえない。

その千葉県において落花生のエースとして君臨しているのが八街市だ。

千葉県ナンバーワンの財政力を有しながらも、全国で唯一「農地がない街」である浦安市は、八街市の足元にも及ばない。食料の生産に全く貢献せずにひたすら金を稼ぎ消費する街のスタイルは、リアルな市民として無様に感じる。

さて、今年の木の芽時の不調は私だけではなくて、多くの人たちがアッパー系あるいはダウナー系の変化を生じているようだ。感染症が落ち着いてきた安堵感とこれまでの疲労、再び平時に向かって舵を切る社会全体の動き。それらに追い打ちをかけるかのように心を乱す外国での戦争。

私の場合にはダウナー系に落ち込んで、様々なことが億劫になる。このような時に心掛けるようになったのは、「成功体験」と「失敗体験」のバランスだ。失敗体験が続くと誰だって気持ちが落ち込み、自己否定が強くなる。何をやっても上手く行かないような先入観が根を下ろし、それらが頭の中で立ちふさがることで前に進めなくなる。

しかし、些細なことであっても何らかの目標を設定し、それをクリアすることで成功体験を得て、正しい意味での「自信」を思考の片隅に残す。負のループでモチベーションが枯渇しかけた時には、それらの自己肯定が行動を起こす上でのエネルギーになる。

強烈な自己愛や承認欲求を有している人たちのメンタルが異様にタフで折れないのは、自己否定のベクトルに思考が傾かないからなのだろう。何事も勉強になる。

とはいえ、休日に自宅を出発する前の私のモチベーションはとても落ちていた。前日から下の子供の学習態度に憤慨した妻が延々と怒り続け、私の失敗体験をどこまでも増やしていった。この結婚は失敗だったのか、子育てを始めたのは失敗だったのか、そうか私の半生そのものが失敗だったのかと。

すると、耳栓を付けて自室で眠り続けようとか、ヘッドホンを付けて映画やアニメを見ようとか、そういった引きこもりの方向に思考が引っ張られてしまう。このまま平日を迎えるのは良くないパターンだ。

おそらく、ロードバイクに乗り続けていたらサイクリングに出かける気力が湧かなかったことだろう。人生の相棒のような愛着のあるミニベロを眺めて、泥のような思考から這い出しながら外に出た。

混み合った浦安の街中を抜けて市川市に入ると、それまでの沈んだ気持ちが軽くなる。初夏の日差しと風がとても心地良い。

まずは、市川市内の原木交差点を経由して国道14号線を通行し、そのまま走り続けて千葉市に入り、花見川サイクリングコースを北上することにした。

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浦安市は荒川と江戸川に挟まれた場所にあるので、市内のサイクリストにとっては荒サイや江戸サイの方が馴染みがある。花見川サイクリングコースは、主に千葉市のサイクリストが手賀沼や印旛沼付近のコースを走る際に使うことが多いらしい。

行ったことがない人にとっては花見川サイクリングコースへのアクセスが分かりにくいかもしれないが、花見川の海に向かって左側、つまり左岸にルートがある。先の写真であれば、橋を越えて左手のフェンスに通路があるので市街地に降り、そこから花見川に近づくと小道が見える。スマホが普及した現在では細かく説明する必要もない。

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道が広い荒サイや江戸サイをイメージして花見川にやってくると、おそらくガッカリすることだろう。行政としてはサイクリングコースを整備したつもりなのだろうが、道幅が狭くて走りにくく、近隣は住宅地で人が多い。実際には、近隣住民が徒歩やシティサイクルで通行するための日常的な道路になってしまっている。

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花見川の左岸を北上すると少しだけ道幅が広くなり、近隣住民の数が減ってくる。すると、「彼ら」が増えてくる。

年甲斐もなくピチピチのサイクリングウェアで弛んだ身体を包み、高価なカーボンロードバイクに乗って疾走する中年男性。欧州では「MAMIL」と呼ばれるオッサンたちだ。

服の外からでも腹回りが目立っていたり、ヘルメットを外すと白髪頭や禿げ頭なのだが、マミルたちは自分の姿がレーサーのように格好良いと「勘違い」している点が痛い。社会からオッサンとして扱われることへの反発や救われることがない沼のような自己愛の発露なのだろう。牧歌的な風景が台無しになる。

何の声かけもなしにマミルが真横を追い抜き、ハンドサインもなしに対向線からマミルが突っ込んでくる。マミルが1体。マミルが2体。マミルが3体。

私は思うのだが、ハイスペックなロードバイクで花見川沿いを走ったり、ステレオタイプに手賀沼や印旛沼の付近を走っていて飽きないのだろうか。極限まで追い込んで疾走したいのであれば、千葉県内にはもっと適したコースがたくさんあるのだが。

マミルの多さに辟易し居たたまれない気持ちになった私は、さっさと花見川サイクリングコースを外れて車道に入り、そこから千葉市の東部に広がる谷津道を目指すことにした。69号線という魅惑的なナンバリングの車道から66号線、51号線、22号線を経由すると目標の谷津道に繋がる。しかし、谷津道にアクセスするまでが大変だ。

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千葉県の北東部や房総半島にはとても魅力的なサイクリングコースが広がっているけれど、例えば船橋や浦安のサイクリストがそれらをメインルートにするのかというと、そうでもない。

その要因はいくつかあるだろうけれど、最も大きな理由は北西部から北東部への自転車でのアクセスの悪さだと思う。北西部から北東部に自走でたどり着くためには、広大な市域を有する千葉市を越え、さらに道路状況が良くない自治体の中を延々と走る必要がある。輪行は面倒だが、折り畳みのミニベロでのロングライドは厳しい。

とりわけ、四街道市内の道路はサイクリストにとって好ましくない。この街の人たちの交通手段はマイカーだからなのか、歩道が整備されているとは思えず、自転車レーンも見当たらない。

その割に道路や車線が少ないからなのか、たくさんの自動車がかなりの速度で真横を走って行く。街の名前が「四街道」なのだが、道路の整備に力を入れているようには思えない。

ロードバイクで四街道市内の主要道路を走る場合、歩道に乗り上げて危険を回避することは難しいと思う。ホイールが段差に挟まって落車すると大変なことになる。では、車道が快適なのかというと全くそうではなくて、路面が荒れている上に片道一車線で自動車が面倒そうに避けてきたり、時に煽ってくる。

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四街道市内では、昭和の空気を漂わせる暴走族風の若者たちの姿を何度か目にした。暴走族のリバイバルは四街道に限らず千葉県全体あるいは国内全体で生じている現象のようで、その背景には何とかリベンジャーズという漫画やアニメの影響があるらしい。

この作品は主人公が昭和の時代にタイムリープした後で暴走族に入り、そこで仲間たちと物語を繰り広げるという内容だ。その当時のことを全く知らない現在の若者たちには、暴走族の姿が新鮮に見えているらしい。そのような珍走団たちが夜になって浦安市内のディズニー付近に集まってくる。なのでうるさい。

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さらに先に進むと、もはや歩道そのものが存在しない車道に入る。このような道路は千葉県内に多く、房総半島に入るとデフォルトになっていたりもする。このような道路で「通学路」という標識があって、実際に子供たちが歩いて通学していたりもするわけだ。

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そして、延々と車道を走って疲れ果てた頃に、「千の葉っぱ」どころではない千葉の緑豊かな環境が見えてくる。道路の上に木々が覆い被さって緑のトンネルが形成されることは、葉っぱが多い千葉県では珍しい話ではない。

四街道市を抜けて佐倉市に入り、51号線から22号線に入ると近くに「DIC川村記念美術館」という立派な施設がある。ここが弥富川沿いの谷津道に入る際のランドマークだ。

弥富川沿いにはたくさんの谷津道が張り巡らされているのだが、289号線を東に向かって走るだけでも谷津道を走っている実感がある。弥富川沿いの谷津道をずっと進み、別の川沿いの谷津道をたどることで九十九里浜までアクセスすることができたりもする。

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舗装もされていない農道を走っていると、広い稲田のパノラマが広がっていた。そう、私が求めていたのはこの光景だ。

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ロードバイクと農地という組み合わせは似合わないのだが、ミニベロと農地はとても似合う。どうしてだろうな。

私は視覚過敏も有しているので、この録においては単色の写真をアップロードすることが多い。しかし、ここからは新緑が目に優しいのでカラーのままアップすることにしよう。

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未舗装のグラベルを楽しんだ後は、谷津道の中でも広くて整地されたワインディングロードを快適に走っていく。このような道路が千葉県の北西部にあれば最高なのだが。

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1時間近く付近を走って八街市内に入ったようだが、ロードバイクどころかサイクリストの姿を全く見かけない。自転車を趣味としている人口が減ったのか、谷津道というコースが知られていないからなのか。

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貸し切り状態のサイクリングコースで緑を眺めながらペダルを回す。この付近は適度にアップダウンがあって楽しい。カスタムを施したブルーノ・スキッパーはロングライドにおいても何も不具合を起こさず、快適に走ることができる。加えて、新しく使い始めた駆動系の潤滑剤の調子がとても素晴らしい。スパスパと小気味よくシフトが決まる。

ブルーノのフレームのジオメトリーがロードバイクに近いことが関係するのか、往復100kmを超えるライドでも酷く疲れるような状態にはならなかった。ただし、小径ホイールを介した路面からの突き上げが大きいからなのか、肩や腰への負荷はロードバイクよりも大きく感じた。より頻繁な抜重によって足で衝撃を受け止める必要があるらしい。

ここまではとても素晴らしいサイクリングだったのだが、浦安まで自走で帰る復路は大変だった。走っているうちに日が暮れて、混み合った車道を進み続けるナイトライドになった。

千葉県内でもアップダウンがあるコースを走ったので、河川敷を走るコースよりも筋肉の疲労が大きくなる。それらを踏まえた体感としては、ブルーノの100kmライドはロードバイクの120kmライドくらいの負荷になるようだ。もちろんだが、ミニベロはロードバイクよりも速度が出ないので完走までの時間が長くなる。

千葉県の北部や東部、房総半島といった自然が多いサイクリングコースは、地元民を除いて自走ではなく輪行でアクセスするような場所だな。私のような千葉都民が自走でアクセスすることさえ大変だ。

しかし、いつかは谷津道を繋げながら九十九里浜まで行ってみたいものだ。苦労するだけの価値がある。