SKSのレンコンプレッサーで轟沈
そこで、正規品を購入してみたのだが、結果としては大失敗だった。先のサイトの人いわく、ネットのレビューは信用できないそうだ。「そうだね、君のレビューは全く参考にならなかったよ」と、その言葉を投げ返してやりたい気持ちになった。当該サイトをブロックリストに追加したことは言うまでもない。
レンコンプレッサーというフロアポンプは、50年以上も仕様が大きく変更されていない名品で、10年以上使い続けても故障しないくらいにタフなのだそうだ。
先のブロガーに限らず、多くの人たちがフロアポンプの定番としてレンコンプレッサーを褒めているが、実際に使ってみると、そこまで優れているようには感じられない。
かなり癖のあるフロアポンプだ。これを使うことでタイヤの空気入れが楽しくなるような話は、単なる個人の感想であって、真に受けない方がいい。
実際に使用した私の感想として、この製品には気になる2つの欠点がある。
一つの欠点は、ポンピングの姿勢になった際の前後方向の不安定なバランス。
なんだこれはというくらいに台座が小さくてグラグラだ。
この欠点については、両足の土踏まずで台座を押さえて垂直方向に力を入れれば問題ないと言っている人がいるが、なぜに空気入れのバランスに気を使う必要があるのか。
もう一つの欠点は、空気の吐出量の少なさ。
1回のストロークで、なんだこれはというくらいの空気しか出ない。
現在使用しているコンチネンタルの32Cのタイヤに85psiまで空気を入れようとすると、50回近いポンピングが必要になる。
先のブロガーたちはピストン運動が大好きなのかもしれないが、この労力と時間が無駄に感じられる。
まるでスイッチが壊れたおもちゃのようにレバーを押したり引いたりする自分の姿は滑稽だ。
これまで使っていたジョーブロー・エースは、2本のシリンダーが組み合わさっており、低圧と高圧を切り替えることができた。自転車ではなくて自動車のタイヤにも空気の注入が可能なくらいのパフォーマンスがある。
では、レンコンプレッサーが素晴らしいと言っている人たちの感想と、なんだこれはと落胆している私の感想の相違が何に起因するのかと考えてみる。それは、タイヤのサイズだと思う。
23Cや25Cのタイヤの場合、とても高い空気圧までポンピングを行う必要がある。吐出量が多いフロアポンプで100 psiまでの空気を入れようとすると、ハンドルが途中で進まなくなる。
空気を入れ始めてから80psiくらいまでは準備運動くらいの気持ちであり、そこから先のポンピングで苦労する。
ジョーブロー・エースの場合には、2つあるシリンダーのうち細めのシリンダーに切り替えることで200psiよりも高い空気圧まで注入することができる。当然だが、自転車のタイヤは耐えられずにバーストすることだろう。
よって、100psiくらいの空気の注入であれば何ら苦労しない。
おそらくだが、レンコンプレッサーを絶賛している人たちは、タイヤに高圧の空気を入れることが多いロードバイク乗りなのだろう。確かに、これだけシリンダーに剛性があって吐出量が少なければ、120psiくらいまで余裕で空気を入れることができそうだ。
しかも、10年以上使っても平気という丈夫なフロアポンプは、まさに一生物だ。使い方に癖があったとしても、高圧まで楽に空気を入れることができ、使い続けることで味が出るというポンプは趣味品として価値がある。
しかしながら、私が使っているのは32Cという中途半端な太さのタイヤだ。23Cや25Cのタイヤのように高圧に空気を入れる必要はなく、せいぜい80psi程度。
実際に使ってみれば分かるのだが、中途半端だからこそ32Cのタイヤは便利だ。25Cのようなスピードは出ないが、とても安定して走ることができる。
舗装路ではモッサリしているが、グレーチングでも平気で突っ込んでいくことができるし、ブレーキをかけてもロックしにくい。また、未舗装の砂利道を通過する際にもあまり気にならない。
昨今では、この中途半端な太さのタイヤが走りやすくて安定しているということで、オールロードバイクといったスタイルのスポーツ自転車で使われることが増えた。
また、より太いタイヤが標準仕様となっているグラベルロードバイクを手に入れてみたものの、舗装路のツーリングで40Cは厳しいということで、32C前後のタイヤに履き替える人もいることだろう。
これまで高吐出用と高圧用の2本のシリンダーが装備されたジョーブロー・エースを使っていたので気が付かなかったのだが、32Cというタイヤサイズでは、フロアポンプの選択が難しい。
マウンテンバイク用のフロアポンプでは空気圧が足りない。しかし、ロードバイク用のフロアポンプでは吐出量が少なくてポンピングが多くて疲れる。
フロアポンプを供給しているいくつかの自転車用品のメーカーはそのようなポンプの需要についてすでに気付いており、とりわけレザインはグラベルタイヤに特化した100psiまでのポンプを供給している。
トピークの場合には、ジョーブロー・エースのように空気圧と吐出量を切り替えることで細くもなく太くもないタイヤに対応するスタイルを選択したようだ。
しかし、ここまで思考を進めてきた私は、何だか嫌な予感がした。
他国のことは知らないが、日本ではクロスバイクが普及している。クロスバイクには32C付近のタイヤが標準仕様になっていることだろう。
レース用ではなく日常の足として使用されることが多いクロスバイクは、ロードバイクと比べると廉価であり、完成車であっても10万円未満で手に入る。
クロスバイクに乗っている人たちは、おそらく高圧まで空気を注入しうるハイスペックなフロアポンプを必要としていないはずだ。
また、クロスバイクのタイヤに空気を入れるためのポンプがなければ困るわけで、そのようなポンプがすでに国内で流通しているという私なりの解釈になる。
そして、自室の片隅に置いてあるフロアポンプに目をやった。
このポンプはジョーブロー・エースの前に購入したジョーブロー・スポーツという製品。ロードバイクに乗り始めた頃、どのようなフロアポンプを使っていいのか分からなかったので、とりあえずベストセラーだということで購入した経緯がある。
しかしながら、ロードバイクの23Cのタイヤに空気を入れる時、ジョーブロー・スポーツでは100psiに近くなるとシリンダーが重すぎて疲れるということで、ジョーブロー・エースを手に入れたという経緯がある。
そして、現在、ジョーブロー・スポーツは英式バルブ用にヘッドを交換してシティサイクルの空気入れとして使用している。
「もしかして...」と思いながら、レンコンプレッサーとジョーブロー・スポーツを並べ、交互に85psiの圧力まで32Cのタイヤに空気を入れてみた。
レンコンプレッサーの場合にはポンピングが多過ぎて、途中で投げ出したくなるくらいに疲れた。
一方、仏式のヘッドを取り付けたジョーブロー・スポーツの場合には実にポンピングが楽だ。スルスルと空気が入り、目標値の85psiまで楽に空気が入った。このポンプで十分だったということか。
メーカーが提供している資料を調べてみると、ジョーブロー・スポーツはモデルチェンジを繰り返して、現在では三世代目に入っているらしい。
この製品の空気の吐出量は300ccを超えている。ロードバイク用のポンプの吐出量は250cc程度、マウンテンバイク用のポンプの吐出量は600~700cc程度。なるほど、だからロードバイクのタイヤに高圧で空気を入れることが大変だったのか。
つまり、ジョーブロー・スポーツは、クロスバイクのタイヤでの使用を含めて設計されており、実際に販売したところよく売れたのだろう。
趣味としてロードバイクに乗っているユーザーと、日常の足としてクロスバイクに乗っているユーザーのどちらが多いのかは分からないが、千円程度のフロアポンプと比べると、ジョーブロー・スポーツは高価な部類に入る。その分、性能が高く、満足度も高い。
一方、ジョーブロー・スポーツのようなフロアポンプを使い続けて、ロードバイク用のタイヤに高圧で空気を入れることに疲れてしまった人にとっては、先ほどのレンコンプレッサーのような高圧力用のポンプが素晴らしく感じるということだな。
さて、ここからどうしようか。
長らく使用して空気が漏れてしまう状態になったジョーブロー・エースについては粗大ゴミとして廃棄してしまった。
かといって、ジョーブロー・スポーツもくたびれてしまっている。仕方がないので、ジョーブロー・スポーツIIIという製品を注文することにした。
レンコンプレッサーについては英式バルブ用のヘッドを取り付けて、私や家族のシティサイクルに空気を入れるために使うことにした。
レンコンプレッサーを擬人化すると不本意に感じていることだろう。しかし、このポンプで32Cのタイヤに空気を入れると疲れる。
それにしても、いくら自分が気に入っているからといって、このポンプがマウンテンバイクでも使用できるとまでネットで発信している輩まで見受けられる。メーカーの提灯持ちのようなサイクル関連のメディアと同じく、レビューサイトがいかに信用できない存在なのかを実感した。
結局のところ、ある程度は自分で購入して使ってみて良かったり悪かったりと試行錯誤しながら、自分なりに気に入った製品を使い続けることが、自転車という趣味のスタイルなのだろう。
ネット上のレビューなんて信用せずに、最初からジョーブロー・エースをお替わりで買っておけば良かった。
この出費で、上質なステーキ肉を何枚食べることができたことだろうと思ったが、ダイエット中かつ酒も飲めないので、例えるものがない。かといって、ヤフオクやメルカリにレンコンプレッサーを出品して買い叩かれるのも嫌なので、使うことにする。
今回の轟沈において、スポーツ自転車のフロアポンプは大きく分けて高圧タイプと高容量タイプがあること、ならびにグラベルバイクやオールロードバイクのタイヤにおいてはその中間に位置するフロアポンプが必要になることを学んだ。
日本国内の場合、その中間に位置するフロアポンプはクロスバイク用として比較的廉価な製品が流通しており、値の張るポンプは必要ないということだな。
それにしても、レンコンプレッサーは丈夫なので、ロードバイクの空気入れとして使った場合でも10年以上は平気なのだそうだ。シティサイクルに空気を入れるだけでは私の寿命が尽きるまで絶対に壊れない計算になる。
しかし、遠い将来、再びロードバイク、あるいは高圧の空気をタイヤに入れる自転車に乗るようなことが全くないとも言い切れない。あまり白黒をつけずに置いておこう。