毎日の生活を少し豊かにする小久保の石鹸ネット
おそらく、これは洗顔用の石けんを泡立てるために使うネットだな。試しに石けんを泡立ててみると、想像以上に多くの滑らかな泡が生まれた。その泡で自分の顔を洗ってみると、皮脂が取れて非常に爽快だった。なるほどそうかと思い、石けんを入れたネットで身体中を洗ってみた。やはり、全身が爽快になった。
夫とはいえ、すでに触れ合いもなくなったオッサンが洗顔用のネットで全身を洗っていたら気持ちが悪いことだろう。
泡立てネットを使わずに石けんを使って身体を洗うと、今ひとつ顔や身体に脂が残っている感じがある。石けんの成分だけではなくて、ネットによって生まれた細かな泡が効果的に皮脂を包み込んで除去しているのだろうか。
私のようなオッサンの場合、いわゆる加齢臭がどこから出ているのかというと、おそらく頭皮だけでなく顔や胸など。それらの部位から頼んでもいないのに分泌される脂や汗が酸化することで臭うらしい。
とりわけ、オッサンの脂は厄介だ。石けんやボディソープで軽く洗うだけでは除去することが難しい。
昔は加齢臭を隠すという目的もあって鼻が曲がりそうなレベルの整髪料や香水を付けたオッサンがたくさんいた。ポマードを塗りたくった七三分けヘアなどは、今の世の中ではむしろ個性的で格好が良いかもしれないが。
最近では、そのようなオッサンに出くわすことが少なくなった。その反面、整髪料や香水の臭いではなくて加齢臭を放っているオッサンが増えた。
帰宅時は仕方がないとはいえ、出勤時や日中はできるだけ脂を減らしたい。
私は以前からメッシュのボディウォッシュタオルが苦手で、風呂に入って身体を洗うことを面倒に感じるほどだった。
ボディウォッシュタオルと石けんを擦っても細かな泡が立ちにくく、使用中に泡が足りなくなると再び追加する必要もある。肌との相性もあり、あまり心地よくないタオルを買ってしまうと、次のタオルに交換するまで我慢することになる。
また、使った後のタオルを洗浄することが面倒だったりもするし、浴室で生乾きの状態になるからなのか、ずっと使っていると何とも言えない微生物系の臭いが付いたりもする。
他方、洗顔用の石けんネットの場合には、水さえ補充すれば泡が増え続ける。ネットで身体を擦って汚れを落とすというよりも、細かな泡で汚れを落としているので肌にも優しいはずだ。
さらに、使用後はネットと石けんを水洗いして一瞬で綺麗にすることができる。この便利さを知ってしまうと、メッシュ地のタオルを使うことが面倒になってしまう。
ということで、うちの妻は気がつかないだろうと、私はシャワーを浴びる度に妻の洗顔用の石けんネットで全身を洗っていた。
しかし、妻が買ってきた石けんの泡立て用のネットは、当然ながらオッサンの身体を洗うことを想定しておらず、かなり細かな編み目になっていた。ヘチマやタワシほどではなくても構わないが、もう少し手応えのある固さがほしいところだ。
そして、ある日のこと、浴室で使っていた洗顔用の石けんネットが姿を消してしまった。妻が洗面台で使っていたネットが壊れて浴室からネットを持ち出したのか、私がそのネットで全身を洗っていることに気付いたのか、理由は分からない。
その日から、身体を洗うことの楽しみが減ってしまったように感じた。しかし、その気持ちを妻が察することはありえない。
気に入った生活雑貨があるとスペアを含めて同じ製品を揃えておくことが私の方針で、生活雑貨のスペアを用意せずに使いきった段階で別の製品を買ってくるのが妻の方針。
私は変化を嫌い、妻は変化を好む。結婚してからは妻自身が大きく変化した。
よくもまあこれだけ性格が違う男女が夫婦になったものだ。
かといって、「洗顔用のネットが足りないから買っておいたよ」と私が買ってくると、「なぜ?」という感謝のないツッコミが妻から飛んでくるかもしれない。
よくもまあこれだけ話が合わない男女が夫婦として生活しているものだ。
ということで、妻のことは気にせずに自分のために石けんの泡立てネットを調達することにした。
店頭で石けんネットを購入すると「あのオッサン、化粧でもするのかしら?」と女性店員に勘違いされるかもしれないので、通販で評判の良さげな商品をポチった。このような精神的負荷が減ったのは、ネット社会の良さだな。
最近の中高生の男子たちは、本屋のレジに成人雑誌を置いて金を払う時の緊張感や羞恥心を知らないことだろう。
そして、「小久保工業所」というメーカーが販売している石けんネットが自宅に届いた。
「ソープインホイッパー」という名前の商品。「ソープイン」という単語の組み合わせは、ストイックな生活を続けているオッサンとって幻惑的に感じたりもする。
この石けんネットは二重構造になっていて、石けんを包む部分と手に触れる部分が別々だ。
石けんを包む部分には輪ゴムが入っていて、簡単に石けんが外に出ない構造になっている。
反対側には樹脂製のハンドルがあり、これを浴室のフックに引っかけると石けんの水を切ることができるらしい。
試しに石けんを泡立ててみると、たやすく細かな泡が生まれて手のひらに広がった。
しかも、ネットの感触が身体を洗うためのボディウォッシュタオルとよく似ている。
つまり、水さえ補充すれば泡が出続ける身体洗い用のミニタオルのように使うことができるというわけだ。
ということで、これを全身を洗うための石けんネットとして使おうと思い、浴室に置いてみた。
案の定、子供たちが小久保の石けんネットの存在に気付き、これは便利だと身体を洗い、頼んでもいないのにフックに石けんが引っかかっていた。
翌朝にはネットも石けんも乾燥していて、とても清潔だ。
小久保の石けんネットが届いてからは、辛い通勤が終わった後に自室でスピンバイクを回し、シャワーを浴びる時間がとても楽しみになった。
このネットは、100均ショップでも販売されているそうだが、ネット通販で購入しても数百円。それだけの工夫で毎日の生活が少しだけ豊かになると思えば、とてもリーズナブルな買物だな。
これはいいぞということで、スペアを含めて同じ商品を追加で購入しておいた。
ストレスが多く、悩むことも多い毎日だ。それでいて、人生でいくつかあるクライマックスは過ぎ、心躍る楽しさを感じられない単調な毎日だ。
その日々において、生活を少しでも豊かにしてくれるツールに出会うと嬉しくなる。
あと10個くらい追加で小久保の石けんネットを買っておくことにした。