2019/11/26

IQが半端ない人と酒を飲むと

今夜の通勤電車は妙に空いているな。普通に座席の隅に座ることができる。このペースなら自宅には23時10分くらいに到着する計算になる。


帰宅ラッシュを過ぎ、都内で飲んで盛り上がった人たちの一次会くらいの波が過ぎ、ディズニー客がホテルに帰るラッシュが過ぎ、しかし都内で働く千葉県民の終電ラッシュが始まる前にポケットのような時間帯があるわけか。

これは新たな発見だ。いつも終電ギリギリまで働くから電車通勤で疲れたのか。この時間帯で帰ろう...と思ったら、やはり舞浜駅でネズミの耳を頭に付けた人たちが押し寄せてきた。

いや、いつものディズニー客と状況が違う。電車の中はそれほど混み合っていないし、子連れがいなくて若者たちが多い。この人波はディズニー客の本隊ではなくて、イクスピアリを経由してのんびりしてきた人たちだろうか。

まあとにかく、今夜はあまり大きなストレスがなく自宅に帰宅することができそうだ。そして帰宅した。

妻も子供たちもすでに眠っている。夕飯を食べて、床に就き、すぐに朝が来る。私の場合には目を閉じればすぐに眠ることができるので、その点は有り難い。この性質は上の子供に受け継がれていて、まさにのび太のようなスピードで寝入ってくれる。

夕飯を食べてすぐに寝ると牛になるそうなので、少し休憩しながら通勤中に書いていたログの続きを書く。こんな生活を続けていると寿命が減るな。まあいいか。

世の中はそろそろ忘年会のシーズンだ。この忙しい時期になぜに職場の人たちと集まって酒を飲まねばならんのだと思うが、酒が入った人たちの姿を観察することは楽しい。

ただ、酒が入った状態で苦手な通勤電車に乗ると苦痛で気絶するかもしれないので、体調に合わせて参加不参加を決めている。

こういった私の性質があることは職場のボスも理解してくれていて、毎年の夏場と年末にボスとのサシ飲みというイベントがあったりもする。とても理解のある職場だなと思う。うちの妻からは、頭が良いはずなのに変な人ばかりの集団と言われているが。

いつのことだったろうか、職場の飲み会があって参加したことがあり、そこで驚愕の体験をしたことがある。アフィブログによくある日常的な体験ではなくて、真面目ではあるが奇妙な体験を書きとめる。

うちの職場は尋常ではないくらいの頭脳を持った人たちが働いている。

受験のお勉強ではなくて、洞察力であったり論理的思考力であったりと、頭のネジ...いやリミッターが飛んでしまったような人たちがたくさんいる。普通の人では通用しないし、必要とされない。

一般的な大手企業の就職試験なら「私は東京大学の〇〇学部に在学していて、この春に卒業します! 部活とゼミで頑張りました!」という感じの人がやってくれば、書類選考はスルーパス、他の大学生と別の入口が用意されて、役員面接まで一直線、面接を受けた当日に内定連絡...いや、これは言ってはいけないことだったか....だろうけれど、うちの職場だと事務員を除いて書類選考で落とされる。

うちの職場には大学のネームバリューが通用しない。これまでの実績とこれからのポテンシャル。超人的な何かとか、プラスアルファの何か、それらに加えて「運」がないと受からない。おみくじを引くようなものだ。

では、そういった職場において極めて秀でた頭脳を持つ人たちの知能指数、いわゆるIQがどれくらいなのかというと、それはそれは凄い。

電卓無しで複雑な計算式を解く人。頭のどこで覚えているのか分からないが膨大な情報を記憶して取り出すことができる人。

そもそもIQテストで人間の知能を正確に測ることができるかどうかは分からないが、まあ簡易テストみたいなものだな。IQテストを考えた学者がどの程度の学者なのか知らないが。

ある程度の頭の回転の速さは分かるかもしれないが、IQだけでは人の優劣や仕事の能力を測ることが難しい。モチベーションや集中力、職場によっては手先の器用さや感性、もちろんだが社交性。たくさんの要素がある。

しかしIQだけに限ると、想定された範囲を振り切ってしまっているような超人的な頭脳を持った人がいたりもする。

とある日のこと。職場で飲み会があって、私はその会場に行くまでの電車のストレスで下痢を生じ、乾杯の合図の直前で会場入りすることになった。周りの雰囲気を気にする余裕もなく、一つだけ空いていた席に座り、乾杯の合図に従ってグラスを持ち上げた。

少し泡の多いグラスのビールを半分くらい飲みほして前を見たところ、或同僚の前のプレミア席に自分がいたことに気付いた。その同僚は私よりも一回り以上も上の人で、職場で彼を知らない人はほとんどいない。

特殊能力のような、というか明らかに特殊な頭脳のため、職場で最も重要な役目を任されていた。実際に測定したIQが180くらいあったと聞いたことがある。確かにこれくらいないと無理な仕事かもしれない。

普通に生活していて、IQ180以上の人に出会うことは稀だが、東京大学ではたまに見かける。その人も東大OBだ。

IQ180の人を前にした私の状況をバスケットボールで例えるなら、NBAのプレーヤーと東海大浦安高校の男子がマッチアップするようなものだ。バックハンドのダンクシュートやセンターサークルからの長距離シュートが繰り出されそうな会話に付いていくことができるだろうか。

もちろん、彼としては話を合わせてくれるが、酒が入るとどうなるか分からない。

恐る恐る会話を始める。普段はどのような感じのプライベートなのかと尋ねてみる。家に帰ってテレビを見て眠るそうだ。よし、この流れなら会話が通じそうだ。

家に帰って、テレビを見て、4時間くらい眠ってから出勤するそうだ。まさかのショートスリーパー。しかもテレビの番組が田舎を訪問するだけのケーブルテレビのチャンネル。どうやって話を合わせるか。

そして、可能な限り会話の流れを修正して、マンションの話になった。そこで彼が切り出したのはマンションを買う上での税の話だった。なるほど、それならば私も参考になるし、ぜひ聞いてみたい。

しかし、そこから始まったのはマンションにおける税制のピットフォールについての話で、現行の法にはどのような盲点があって、そこを突いて儲けるためにはどうすればいいのかというあまりに深淵な内容だった。

私は地道に働いて稼ぐことができればそれでいいと思っている人なので興味がなかったが、本気で儲けようとすれば儲けることができるのだなと、とても勉強になった。

周りでは楽し気な笑いが聞こえるが、目の前の同僚はずっと私の目を見ながら...というか私をすり抜けてどこかを見抜きながら話を続けている。これはいかんと、お気に入りの料理について尋ねることにした。

すると、好きな料理はカニ料理なのだそうだ。私は漁師町の出身なので魚介類なら話が通じそうだ。会話を続けて行こうと思ったら、ずっとカニの話が続いた。

一言でカニと言っても、分類学上はヤドカリの仲間がいて、それはどのような位置づけで、生物学的にはどのような性質があって、このカニは日本のどの辺に分布して、世界ではどことどこに分布して...という感じでずっとカニの話が続いた。

私は毛蟹が好物なのだけれど、それについて紹介するとずっと毛蟹の話が続いた。私は思った。彼のことを常々尊敬しているが、類まれな優れた頭脳を別のことに使っているのではないかと。

それぞれのカニがどのような味わいで、店頭や通販だとどの程度の価格差があって、通販の場合には注文してからどれくらいのスピードで自宅まで届くのかについてネットショップごとに説明を受けた。

そろそろ終わるのかなと思ったら、生と冷凍のカニの組織の状態や成分、産地からユーザーにカニを届けるまでのロジスティクスについて話し始めた。

これだけカニの話で引っ張ることができる人は珍しい。おそらく人並外れた頭脳の使い方を間違えるとこうなるのだと思った。

この勢いでは他の分野に話を変えることさえままならない。周りの状況を見ながらテーブルチェンジを試みたのだけれど、誰も席を替わってくれない。

その後もずっとカニの話が続き、「宴もたけなわで....」という時間までカニの話が続いた。

酔っ払っていたのでカニのことに詳しくなったのかどうか分からない。また、この飲み会ではカニ料理が全く出てこなかった。

変わった人たちがたくさん集まる場所では、変わった人が普通の人になる。私はこの職場が大好きだ。