フロントシングルのクランク、クロスワイドの組替スプロケット、そして熱中症
サイクリングのルートが谷津道ではなくて荒川や江戸川の河川敷だったなら、間違いなく動けなくなっていたことだろう。ブロガーとしては命懸けの題材に出会えたわけだが、今後の反省も込めて、今日も生きたことを長々と書き留めておく。
梅雨の合間に珍しく晴れた休日。この日に走っておかないと次の実走がいつになるか分からないと思ったので、ある程度の範囲で家事を片付けてサイクリングに出かけることにした。
いつも思うのだが、子供が小学校の高学年になっても、父親である私に上履きを洗わせる我が家のシステムは何かがおかしい。
自身の不調に加えて気圧が低い毎日が続き、ネットを眺める限りでは社会の混乱も続いて重い空気が広がっている。
ストレスフルな浦粕での生活は確実に精神を蝕んでいる。このまま何もしなければ倒れて死ぬだけだ。不条理に対する怒りと悲しみをペダリングで散らそう。
このような時には、心を波立たせる情報との間で距離を取り、肌だけでなく心の中まで夏の日差しを浴びればいい。
人間の脳には太陽の光を感じ取る部位があったりもする。たぶん、空の青さや植物の緑を心地よく感じる部位もあるのだろう。
浦粕のように人が多い場所を不快に感じることも、防御本能のひとつかもしれないな。
梅雨時期は涼しい日々が続いていたが、やはり7月の半ばだ。家事が終わって上履きをベランダに干そうとしただけで汗がにじんでくる。ストレスで自律神経の調節がおかしくなっていることも原因なのだろうけれど。
ベランダからは浦粕の街並みが見える。さあ、そろそろこの街を脱出しよう。
サーモスのステンレス製の保冷ボトルを2本用意して、コンビニで買ってきた大きめの氷を詰め込む。この状態にしておくと真夏のライドでも自宅に帰るまで氷が残っている。
ロードバイクは速く走るための自転車なので、車重が10kgを超えると重すぎるという評価になる。ガチ乗りのローディたちから見れば、ロードバイクに重い魔法瓶を取り付けて走るなんて言語道断という意見はよく分かる。
この魔法瓶は飲料を入れると1本で1kg近くなり、2kgの重量増。
アブスの多関節ロックが1kg程度、スペアタイヤと輪行袋で1kg程度。
普段からこの状態で走っている私が、フルカーボンの軽量バイクに乗ったら、もしかして凄く速いのではないかと思ったりもする。
しかし、いくら重くてもサイクリング用の魔法瓶は外せない。
真夏のサイクリングでキンキンに冷えた飲料を少しずつ飲みながら走る心地良さを味わってしまうと虜になる。また、今回のライドでは、この習慣があったからこそ無事に帰ってくることができたようにも思える。
いつも通り、自宅から市川市内に入り、原木インターチェンジの手前の交差点で右折して船橋市の海神と行田を抜け、市川市内に戻って鎌ケ谷市に入るというルートを考えていたのだが、海神にたどり着いた時点で異様な暑さを感じた。
ジリジリとした日差しが両腕に当たり、遠くのアスファルトの路面の上に陽炎が見える。暑さに慣れてきた頃ならば問題ないのだが、全く慣れていない状態だ。上半身だけでなく両足にも汗が流れてきた。
このように日差しが強くて暑い日には、桑納川沿いの谷津道から八千代市の方面に走った方が涼しくて楽だ。
市川市内から近場の谷津道にアプローチするには、海神をランドマークにして北に向かうことで大柏川沿いの谷津道、東に向かうことで桑納川沿いの谷津道に入ることができる。
桑納川沿いの谷津道は森や林に隣接しているので日陰が多い。ということで、東の方角にルートを変更して桑納川を目指そうかと思ったのだが、そのためには船橋市内の市街地を抜ける必要がある。
ということで、9号線から船橋市内の一般道を走ってみたのだが、あまりの暑さと自動車の渋滞にうんざりした。船橋は浦粕ほどにはピーキーではない気がするのだが、荒っぽい人たちが多かったりもする。
船橋市内の一般道を自転車で走っている時には、安全のために注意する必要のある自動車の車種がある。
それは、フロントガラスの手前にたくさんのぬいぐるみを並べた軽のワゴン、それと黒っぽくて大きめのミニバン、もしくはベンツやBMWといったドイツ車。
乗り手の収入が上がってくると後者になるようだが、それぞれ中古車が多いように思える。
それらの自動車には、アゴヒゲを生やしていたり、茶髪頭の旦那がジャージを着て乗っていたりもする。子供が乗っているのに夫婦でタバコを吸っている車まで見かけると、もはや理解しがたい人たちだということだけは分かる。
加えて、前方以外のウィンドウを黒っぽくして見えなくしたハイエースなどの業務用車、それとトラックも危ない。
運転席を観察してみると、やはりタバコを吸いながら運転している厳つい男性が多い。船橋はタフガイでないと生きられないのだろうか。
彼らがサイクリストを目の敵にしているかどうか分からないが、わざと幅寄せをしたり、後ろから煽ってくることがある。真正面から議論して理解し合えるようには思えない。
彼らの考えとしては、ロードバイクという乗り物は「チャリ」として分類されているようで、チャリに乗って車道に出てくるなんてふざけているという考えになるのだろうか。
彼らにとってのスポーツとは仲間内で集まって楽しむ草野球、レジャーとは仲間内で集まって楽しむバーベキューといった感じかもしれない。
そして、彼らから幅寄せや煽りを受けないためのコツというものがある。
それは、信号待ちで横に並んだ時にハンドサインを出して、いかにも「すみません、この道を走らせてもらっています」と感謝しながら軽く会釈すること。
これだけでも相手の車から気遣いをもらったり、大きく離れて追い越してくれたりもする。
若い頃にいわゆるヤンキーのような感じだった人たちには、最初から突っ張らずに、落ち着いて礼儀正しく接してきた人を攻撃しないという特徴があるのだろうか。
そういえば、昭和の時代、野球部のヤンチャな男子中高生たちは、バスケ部のキャプテンと陸上部のエース、そして図書委員には手を出さないという性質があった。あれと同じかもしれない。
他方、当時のヤンキーから攻撃を受けることが多かった学生のタイプとしては、目立つ格好をするタイプ、オタク的だが背伸びして自己アピールするタイプ、正論で理屈をこねるタイプ、そして彼らの行動に干渉したり不愉快にさせるタイプが多かった気がする。
そう考えると、元ヤンキーたちが自動車を運転していてロードバイク乗りたちに苛つくのは、とても自然なことかもしれないな。若い頃から彼らが嫌うタイプの人たちだという解釈にも繋がる。
ロードバイク乗りの中には、「車道を自転車で走ることは法律で認められているだろ!」と最初から喧嘩腰だったり、自動車が近くを走っただけでビビったりする人たちがいる。
そのような態度は彼らにとって鼻につくらしい。確かに、ヤンチャな男子中高生たちが喧嘩を売りたくなりそうな学生のタイプだな。
法律で認められていたとしても、車道は自動車が走るためにデザインされている。自動車の運転手にとって、サイクリストは迷惑であり、面倒な存在なんだ。それを開き直って当たり前だと走るよりも、ドライバーに感謝した方がずっと心穏やかに走ることができると思う。
悟ったようなことを言っているが、この夏に入って一番の暑さは五十路近い身体に響く。あまりの自動車の多さに腹が立ってきた。
数回のライドで気温に身体を慣れさせた後ならば問題ないかもしれないが、このまま走り続けて大丈夫だろうか。
帰りもこのルートを走るのかと思うとさらにうんざりしてきたので、途中で引き返して船橋市内の行田方面に戻り、鎌ケ谷市内の林道を走ることにした。
驚くべきことなのか、周りが森だから当然なのか、大柏川沿いの谷津道は体感気温として2~3℃くらい低い気がする。気化熱で涼しくなるからと家の前のアスファルトに水をまく人がいたりもするが、あのようなレベルではない涼しさがある。
しかも、周りに大きな木々が育っていると日差しさえ遮ってくれるし、鎌ケ谷市内は一定の頻度で飲料の自販機が設置されているので夏場のサイクリングにはとても良い環境だな。
ボトルに入れたスポーツドリンクを飲み干した時点で、スペアのボトルをシートチューブのケージから取り出し、ダウンチューブのボトルと交換する。そして、次に見かけた自販機の前で停車して空になったボトルに飲料を補充する。
辛ければ途中で引き返そうと思いつつ、どうしてもペダルを回してしまう。久しぶりのサイクリングを楽しもうという気持ちではなくて、色々と心にまとわり付く嫌な感情を消したいと思った。
久しぶりに両腕や胸の上を伝って流れる汗の感覚がいい。心の中に澱んだ気持ち悪さまで流れてくれないかと願いながら。
何だろうな、この社会の陰鬱とした雰囲気は。誰もが誰かを悪者にして叩いているけれど、自分はどうなんだ。賢人や聖者にでもなったつもりなのか。
あえて細かく記述しなくても分かると思うけれど、物事が論理的に流れずに至るところで個々の我欲が目詰まりし、結果として混沌として意味不明な状況になっている。
自分が責任を取りたくないからと保身に走ることも我欲のひとつだ。それぞれが責任を回避しているうちに、責任とは何ぞやという話になり、最終的には誰も責任を取らないという事態になってはいないか。
社会にしても、仕事にしても、さらには家庭においてさえ、自分のことは自分で守るような空気が流れているように思えて、まるで酸素不足の水槽で泳ぐ小さな魚のように水面で口をパクパクと動かしている感覚がある。
一定のリズムでペダルを回し、大量の汗をかくと、肺に空気が入り、心の毒気まで抜ける気がする。
大柏川沿いの谷津道を抜けて、大津川沿いの谷津道にアクセスする中間地点にある海上自衛隊の下総航空基地にたどり着いた。
普段は日曜日に訪れている下総基地だが、本日は土曜日ということが関係しているのだろうか、かなり大きな航空機が一定の頻度で離着陸を繰り返している。
あれはP-3C哨戒機だろうか。下総基地には第203教育航空隊が編成されていて、P-3C等の操縦士や航空士の訓練が行われている。おそらく、読み方はニーゼロサンではなくて、ニーマルサンなのだろうな。
どこかで書いた気がするが、私が高校生だった頃の将来の夢は海上自衛官になることだった。
祖父の兄が先の大戦で帝国海軍の艦艇に乗り、太平洋で散ったことを子供の頃に知り、国を守ることの格好良さを感じた。子供の頃から希死念慮が強くて、生きることの意味を求め続けていないと辛かったからだろうか。
いや、意味なんて後でやってくることで、とにかく彼の生き様が格好良いと思った。生きることのモチベーションなんて何だっていいだろと今でも思う。
しかし、両親が団塊世代によくあるタイプだったこともあって、防衛大学校を受験したいと親に相談したら、「そんな育て方をした覚えはない!」と怒鳴りつけられて猛反対。受験すれば合格していたはずなのに、不本意な方向に進まざるをえなかった。
その時点で、私の生き方はすでに負けていたのだろうな。
誰と競って負けたというよりも、自らの生き方に負けたのだろう。
両親に反発する形で私の思想は真っ直ぐに育ったし、今でも実家に寄りつかない。
ただ、五十路が近くなって決して戻ることがない時間の流れを感じているのに、今でも子供の頃の夢に憧れる矛盾した気持ちがある。
それは当然だけれど不可逆的なことであって、今さら憧れても仕方がないことなのに、やはり海上自衛官になりたかったなと思う。
往路だけで飲み干したスポーツドリンクが1リットルを超えただろうか。ようやく大津川沿いの谷津道にたどり着いた。
軽い頭痛がして、脈拍も速くなってきている。汗が出なくなると危険だ。さらに給水することで汗が戻ってきた。
それと、最近はロードバイクに乗っても心拍計をつけないので熱中症の兆候に気付くことが遅れてしまったな。次回のライドからは心拍計を付けねば。
10年以上前に荒川沿いを走っていて熱中症の兆候が現れた時には焦ったが、今では落ち着いたものだ。
大津川沿いで日陰を探し、ロードバイクを立てかけ、ヘルメットを外して涼む。
あまりに酷いようならば水道を探して全身に水を浴びたりもするのだが、そこまで酷くはないらしい。
魔法瓶の冷たい飲料を少しずつ飲んで、自分の血管に指を当てて心拍をカウントしていく。周りの気温が高いはずなのに、何だか寒気がするという状況は、すなわち自分の体温が高くなりすぎている証拠だな。
それにしても、鎌ケ谷市や柏市は心地よい風が吹き抜けていく。本当に居心地がよい街だな。
自分が住む街だけではなくて、近隣の市川市や船橋市のことをあまり気に入らない私だが、実は流山市や松戸市のこともあまり好きではない。人が多過ぎるという単純な理由。
鎌ケ谷市や柏市といった街から向こう側が、本当の千葉県の姿なんじゃないかと思う。
しばらく休んで回復してきたので、大津川を眺めてから早めに帰還することにしよう。
この付近に広がる水田では、稲が豊かに育ってきて、緑の絨毯のようだ。
5月くらいの可愛らしい稲と水面のコントラストの方が美しかった気がするけれど、今の光景には生きることの強さを感じる。
さて、クロモリロードバイクのフロントシングルのクランクと、12-30Tという変則的なカスタムを施したリアのスプロケットの調子はどうなのかというと、自分なりには驚くほどに快適だった。
フロントディレイラーを外してナローワイドのシングルチェーンリングに変更すると、足元が静かになるという話は本当だった。
チェーンリングがダブルの場合には、僅かではあるけれどチェーンが他の箇所と接触して小刻みな抵抗や音を出しているらしい。
フロントシングルの場合には、チェーンリングから聞こえるノイズが少なくて、しかもヌルヌルと滑らかにチェーンが流れていることが分かる。
しかし、フロントギアをシングル化すると、リアの11速だけで全ての速度域をカバーする必要がある。そのためにリアのスプロケットを組み替えることにした。
シマノのR8000系のスプロケットのディーラーマニュアルにはギアについて誤記載があるので分かりにくいのだが、クロスレシオの12-25Tの個別ギアと、ワイドレシオの11-30Tの2種類のスパイダーアームを組み合わせることで、12-30Tというキメラを作ることができる。
平地では12Tから17Tまで1段ずつ変速するクローズド...いわゆるクロスレシオな状態で走ることができる。
いかにもルック車のように見えるディレイラーガードはチタン合金製で、シマノのシャドウディレイラーのみに適合するというレアな一品だったりする。
しかも、フルカーボンのロードバイクの場合にはディレイラーガードへの衝撃でリアエンドが折れる危険性があるので、クロモリロードバイク専用の製品だと思う。マニアック過ぎて最高だ。
話を戻すと、このキメラのスプロケは、平地にてクロスレシオで滑らかに変速させつつ、登坂では19Tから30Tまでのワイドレシオなギアを使って一気に変速することができる。
そもそも、坂道では「キツイ!」「マジ、キツイ!」「ガチ、キツイ!」「グゥアァッ!」の4段階くらいのギアで十分なのだから、この部分だけワイドでいいだろと。
リアトップの11Tなんて使わないのだから、取り外してしまうことにした。
12-30Tのスプロケは、シマノが製品化すれば確実に売れるはずなのだが、なぜか販売されていない。
ようやくクロモリロードバイクのカスタムが一段落し、谷津道のルーティンコースも見つかった。
これからは暑さに慣れながら夏のサイクリングを楽しもう。
帰宅するまでに2リットル近いスポーツドリンクを飲んだのに、ほとんどが汗になって出ていったようだ。
自宅に帰って冷水のシャワーを浴びる。
日焼けした部分と全身の筋肉が痛いけれど、この痛みは辛くない。涼しい部屋で寝転がって昼寝をする。まさに至福の時間だ。
そして、気分良く夕食をとり、何も考えず早めに眠りにつく。平凡な日常だけれど、大切な日常だ。