ロードバイクのフラットバー化に必要なシフターが欠品
先日、どう考えても入手が難しいと思っていた自転車用のハンドルバーが中古業者のショップで新品として販売されていたので、条件反射的に購入してしまった。以前から愛車のロードバイクをフラットバーロードにカスタムしたいと思っていて、ようやくクロモリ製のハンドルバーが手に入った。
そろそろ50代が見えてきて、終の住処ならぬ「終の自転車」をどうしようかと、淡くもあり避けることもできない課題について考えていた。
よくあるのが、「そろそろカーボンフレームは卒業かな」というステップから進んで、「チタン製のオーダーフレームを手に入れよう」とか、「ビルダーに自分専用のクロモリフレームを溶接してもらおう」といった発想だな。
その他にも、「これが私の最後の大きな買物になる」と神妙な顔をして、カーボン製のフラッグシップモデルを購入する中年男性が多かったりもする。
そのような思考は正しいと思う。全く間違っていない。
残りの時間は短い。
理想と現実は別の世界にあって、刺激や新鮮味を欠く毎日が続いて行く。
生きる目標も何も、その目標を達成するステージ自体が終わりかけている。
目標を達成したかどうかも分からず、これから何を楽しみに生きればよいのかも分からず、とにかく本格的な老後が見えてきて焦りもするし、諦めもする。
同世代の中年親父たちはこの状況をどのように感じているのか、本気で知りたい。
朝に新浦安駅前の駐輪場にミニベロを停めてロックをかけて、「あれ? この動作、さっき繰り返してなかったか?」と感じた時、その「さっき」が昨日だったりもする。
子供と大人は時間の流れの感覚が違うということはよく知られているが、五十路になってくると時間の流れが異様に速い。
反復に該当すると脳が認識すると、その記憶をスキップしてしまうのだろう。
昨日と変わらない今日が来て、今日と変わらない明日が来ると、その間の記憶が神経細胞の跳躍電動のようになくなってしまうのかもしれないな。
子供の頃の夏休みはとても長く感じたのだが、中年になると夏が暑いと思っていたら気が付くと次の夏がやってくる感じがする。
私なりに色々と終の自転車について考えてみたのだが、どうにもイメージが付かず、しかもこれから子供たちの教育費がかかるということで、自転車の完成車ではなくて、とりあえずハンドルを買うことにした。
笑える展開だな。
定年を機に、「よし、これが私の終の自転車だ!」とオーダーバイクやフラッグシップの自転車を手に入れて、すぐに脳梗塞や心臓発作で倒れるかもしれないわけだ。
五十路が見えてきたら、あまり将来について長いスパンで希望を持たない方がいい気がしてきた。
いくら終の自転車だと本人が大切にしていたところで、乗れなくなったり自身が死んでしまったら、家族や親戚にとっては無価値な存在どころか粗大ゴミになりかねない。
売りに出したところで大した金額にもならない。
どのようなフレームを手に入れるとか、そういった定まらないことは保留して、ずっと使い続けられそうなクロモリ製のハンドルバーを買っておこうという優柔不断とも言える行為だな。
つまり、終の自転車がどのような形になるか分からないし、それを決めることも何だか寂しいので、終のハンドルを先に決めておいて、その後のサイクルライフに合わせてフレームを考えようという方針になった。
丈夫なフラットハンドルならば、老人になって、いつかスポーツバイクに乗ることができなくなったとしても、シティサイクルに取り付けて最後まで乗り続けることができるかもしれない。
また、今際の時を待つ病床の傍らにハンドルを置いて昔を懐かしむことができるかもしれないし、葬儀の際に立てかけておいても邪魔にならない。
住職が許せば卒塔婆の代わりに地面に突き刺しておくこともできるし、私の場合には海への散骨を希望しているので一緒に沈めてもらおう。
とはいえ、うちの妻の場合には、速攻で燃えないゴミの袋に入れて捨てるイメージしかないが。
そこまで心躍る最近のヒットになっているハンドルが到着して、その素晴らしさを改めて感じた。
これはフラットバーではなくて、マルチポジションバーという部類に入るのだろう。
そろそろドロップハンドルのロードバイクに乗ることを止めようと思っていて、ネットや雑誌で見かけたことはあったのだが、実物を見たのは今回が始めてだ。
実際に手に取ってみると、なるほど本当に素晴らしい製品だ。
ロードバイクという趣味を始めた10年以上前、ドロップハンドルを装着したロードバイクは自転車の中で珍しい存在だった。
その後、ヨーロッパのサイクルレースとか、弱虫何とかという少年向けの漫画の流行とともに、本格的なロードバイクブームがやってきた。
街中にはたくさんのロードバイクが走るようになり、交通法規どころか人としてのマナーを守らずに車道や遊歩道、さらには歩道までを荒い運転で駆け抜けるロードバイク乗りが増えた。
ロードバイク乗りにも様々な種類がいたりもするわけだが、ロードバイクに乗っている人たちは車道でも歩道でも鼻つまみ的な存在になってしまった。
中には背中のバッグに料理を入れて、ドロップハンドルの自転車で必死に走っている人まで見かける。
これは興ざめでしかない。
いつからロードバイクは料理の配送のための乗り物になってしまったのか。
他方、たまに「ロードバイクに乗っている人たちはどうしてナルシシストが多いのだ?」と揶揄している人がいて、その人のブログを見る限りでは、どう考えても本人こそが自己愛をこじらせているとしか思えなかったりもする。
自分の自己愛に気付くことは難しいが、五十路になれば自らの自己愛の強さによって仕事や家庭にダメージが生じたことを実感するかもしれないな。
だが、確かにロードバイク乗りには自己主張や承認欲求が強い人が多いと私も思う。
ロードバイクサークルを主宰したことがあるのだが、とてもじゃないが友達になれそうにない人たちが集まってくることがあった。
その人たちだって、私に対して同じことを思ったことだろう。
私が知る限り、浦安市内では4つのロードバイクサークルが生まれて消えた。
最初は盛り上がるのだが、途中からサイトの更新がなくなったり、ツイッターが鍵アカウントになったり、サイト自体が消滅したり。
世話人の心が折れてしまうのも分かる。
ロードバイク乗りは自己愛が強くて利己的な人が多い。そのような人たちの都合に合わせてサークルを運営しているとストレスの方が大きくて楽しむことが難しくなる。
それは自然なことかもしれないな。
格好が良い自転車に乗って、自らが格好良くなりたいと思ってロードバイクに乗り始めたからではないか。
自分が格好良くなってアピールしたいとか、その姿を誰かに認めてほしいとか、レースで勝ちたいとか、もっと速く走りたいとか。
中には社会的なステータスを反映するかのように機材自慢をする人がいたり。
そのような欲求は必ずしも批判を受ける話ではなくて、生きる上での大切なモチベーションのひとつだと思う。
だからといって、歩行者のすぐ脇をすり抜けたり、赤信号を無視したり、車道で横柄に振舞ってよいという話ではない。
それらの不道徳な行為がロードバイク乗りへの風当たりを強め、ピチパンを履いた成人男性たちの容姿と相まって嫌われるという図式になってはいないか。
といったことを私ひとりが考えたところで何も変わらない。
色々と考えているうちに、そうか、彼らと同じ格好の自転車に乗らなければいいのだと思うようになり、ドロップハンドルがついたスポーツバイクに乗らなければいいという結論に至った。
そもそも、最近の私は前傾姿勢が辛くなってきていたし、このようなポジションでは周囲の景色を眺めることが難しいと感じていた。
確かに風圧を考えるとドロップハンドルの前傾姿勢は重要だが、下ハンドルを握り、目の回りを三角形にしながら突っ走る歳でもない。
レーサーたちの真似をしたところで、実際には腹の弛んだオッサンなんだ。
その姿が無様だと思うか、年齢なんて関係ないと思うかは人それぞれだが。
髪の毛や肌が輝きを失い、周りから見てどう考えてもオッサンになったなら、オッサンらしくおとなしく走ればいいじゃないかと私は思う。
ということで、タイミングよく手に入れたマルチポジションハンドルバーでアップライトなポジションに仕上げたロードバイクに乗って、自分にとって心地良いスタイルで走ろうと考えた。
ハンドルバーが手に入ったので、今度はブレーキレバーとシフトレバーを見繕ってアマゾンで購入してみた。
ブレーキレバーは難なく在庫を見つけることができたのだが、どこを探しても見つからなかったのがシフトレバーだ。
フロントやリアのディレイラーはR8000系なので、シフトレバーも11速対応のモデルが必要になる。
ドロップハンドルバーに取り付けて使っているSTIレバーを使用することができないので、サムシフターという親指で操作するシフターが必要になったのだが、シマノのロードの11速用シフターはSL-RS700というモデルしか販売されていない。
よくよく考えてみると、シマノの11速用のコンポーネントを使う人たちはドロップハンドルを取り付けて使うだろうから、11速用のサムシフターなんて需要がないとシマノも考えていたのだろう。
ところが、コロナ禍の影響で世界的に自転車の需要が高まり、しかもスポーツバイクの人気も上がっているらしい。
元々、1種類しか販売されず、ストックも少なかった11速のロード用のサムシフターはすぐにメーカー在庫が尽きて、シマノがある日本という国に住んでいるにも関わらずパーツが手に入らないという事態になってしまった。
ダテにサイクリスト歴が長くないので、サムシフターが欠品と聞いて注文したのは、シマノの11速用のバーエンドコントローラー、通称バーコンと呼ばれるパーツだ。
その昔、ロードバイクのシフターはフレームのダウンチューブの両サイドに取り付けることが一般的で、Wレバーと呼ばれていた。
そのレバーをハンドルバーの先端に取り付けることができるようになり、今でもブルホーンバーやTT用のDHバーの先端にバーコンを取り付けて走る人がいる。
バーコンやWレバーにマウントを取り付けて、フラットバーの手元で操作するためのパーツを販売しているメーカーがあったりもするわけだ。
SL-BSR1というDURAグレードのバーコンについては在庫があったので、これにサムシフター用のマウントを取り付ければフラットバーやブルホーンバーで使用することができるはずだ。
我ながら素晴らしい機知だと思いながら、配達されたバーコンを手に取って心の中に暗雲が立ち込めた。
フロント用のバーコンはフリクション式で滑らかにシフトケーブルを引くことができるのだが、リア用のバーコンはインデックス式になっている。
シマノのことだから軽いタッチで「カチッ、カチッ」と変速してくれるのだろうと思っていたのだが、そのインデックスの重さに驚愕した。
「ガコッ!ガコッ!」という感じで力を込めないとケーブルを引くことができない。
分かりやすく説明すると、ほら、指をポキポキと鳴らす人がいたりもするわけだが、あの動作の10倍くらいの衝撃が伝わってくる。
ドロップハンドルバーの先端にバーコンを付ける人がいたりもするが、SL-BSR1をバーエンドに取り付けてリアを変速させようものなら、その圧力と衝撃でハンドルがフラつくはずだ。
一体、シマノの担当者は何を考えてここまでインデックスを重くしたのだろう。
フリクション式のままで良かったのではないか。
電動コンポを使わないユーザーに対する嫌がらせにしては手が込んでいる。
まあそれでも、シマノのサムシフターSL-RS700の入荷があるまでの繋ぎとして使おうと思って、サードパーティのサムシフターマウントと合体させてみたところ...
「駄目だこりゃ」と数分で諦めた。
確かに、横一文字のフラットバーならばバーコン+マウントで代用することができるはずだ。
しかしながら、私が手に入れたレアなマルチポジションハンドルバーは、横一文字どころか前後左右に入り組んだデザインになっている。
このタイプのシフターを無理に取り付けようとすると、ケーブルの取り回しが厳しいどころか、ありえない方向にケーブルが伸びてしまう。
これで1万円以上の金を無駄にしてしまったと肩を落としたが、自転車のカスタムではよくある失敗だな。
「なんだこんなパーツ、ゴミ箱に捨ててやる!」と廃棄した後で気が変わり、「捨てなきゃよかった...」と嘆くこともあるが、将来、このバーコンを使うことはないだろう。
とりあえず、SL-RS700のリア用の右レバーは在庫がありそうなのだが、フロント用の左レバーがどこを探しても見つからない。
これを機にフロントのチェーンリングをナローワイドのシングルギアに変更して、左レバーを省略しようか。
しかしながら、心配性な私は、ライドの最中にフロントのチェーンリングが破損した場合のことを考えてしまう。聞いたことがないアクシデントだが。
フロントギアにアウターとインナーの2枚があれば、どちらかが破損しても走行は可能だ。しかし、フロントシングルでギアが欠けたら走行不能になる。ボルトが抜けただけでアウトだと思うと、怖くてカスタムに踏み切ることができない。
そういえば、11速用のシフトレバーのフルセットは手に入らないが、9速用のシフトレバーのフルセットは手に入る。
おそらく、フラットバーのクロスバイクで標準仕様になっているSORAグレードのコンポーネントのために、シマノとしても在庫を多めに用意していたのだろう。
となると、ディレイラーとスプロケットとフロントクランクをSORAに交換すれば...いや、これではR8000系からR3000系への大幅なデチューンを行うことになる。
仕事や家庭で思ったように事が進まないことはあるのだが、まさか趣味の世界でこのような苛立つ状況がやってくるとは。
11速用のシフターがここまで欠品になるのはどうしてなのかと、私はネットで詳しく調べてみた。
すると、コロナ禍や医療機関の逼迫に関係があるのかどうか分からないが、ガチでロードバイクに乗ることをやめたサイクリストが増えてしまって、ロードバイクをフラットバー仕様の街乗りにカスタムする人が増えているらしい。
その人たちはサイクル業界の思惑に乗って11速のコンポーネントに交換していることだろう。
その状態からロードバイクをフラットバー化しようすれば、間違いなくSL-RS700のシフトレバーが必要になる。それ以外のシフターが販売されていないのだから。
何ということだ。
シマノとしても、まさかロードバイクの象徴のようなドロップハンドルを取り外して、フラットハンドルにしようと考える人たちが増えてくるなんて想定外だったことだろう。
しかも、私自身が思いっきりそのトレンドに乗ってしまっている。
これは面白い。笑い話だ。
グランツールでフラットバーのロードバイクに乗ったレーサーが両手を挙げてゴールラインを通過するというシチュエーションはないと思うのだが、シマノとしては、レースとかプロとかそういった話はどうでもいいので、DURAグレードのサムシフターを販売してみてはどうだろう。
私も購入したい。