ということで手組ホイールをオーダーする
さて、愛車のクロモリロードバイクをクロスバイクのようにカスタムして、週末により安全にサイクリングを楽しもうというアイデアが浮かんだので行動に移すことにした。
このカスタムはコロナによって医療が逼迫している状況を鑑みて、できるだけ落車しないようにという後ろ向きな発想から始まった。
いくら注意をしていても落車する時には落車するので、気休めでしかないと言われればそれまでだが、この考えが浮かぶまでに実際のインシデントがあった。
先日、四街道市までロードバイクに乗って走ってきた。もちろんだが、市街地の一般道、要は自動車が走っている道路を延々と走っていた。
かなり道幅が狭くなってきて、ドライバーもコロナ禍でイラついていたのだろう。一台の自動車が幅寄せをしてきて、私は歩道に避難しようとした。
その時に履いていたタイヤは25Cのサイズ。できるだけ角度を付けて段差に乗り上げたのだが、咄嗟の判断だったのでフロントを完全に持ち上げる余裕がなく、サイクリストならば経験があるであろう「ズリッ」という気持ちの悪い滑りと反発を感じた。
せっかく硬いシェルが付いたエルボープロテクターを装着しているのだから、幅寄せしてきた自動車のサイドミラーをへし折ってやってもよかったわけだが、そうなると事故扱いになりドライバーや警察とのやり取りが面倒になる。
やはり、趣味は平和的に楽しみたいものだ。
23Cのタイヤであればフロントを持っていかれて落車したかもしれず、25Cに換えておいて良かったと思った。これを28Cにするとより安全になるだろうと思った。
コロナ禍でもロードバイクに乗って突っ走っている猛者はたくさんいるが、おそらく自分が落車した時のことを全く考えていないと思う。
まあそのようなことを気にしていたらロードバイクに乗れないという話になってしまうのかもしれないが、私は気にする。
さて、28Cのタイヤを取り付けるために廉価なワイドリムのホイールを購入した。
この状況下では速度を上げて走ることはできないだろうし、できるだけ丈夫なホイールということでRS-300という105グレードのローハイトホイールを買ってみた。
それまで所有していたホイールが全て15Cのナローリムなので、28Cのタイヤを取り付けると不格好になるとともに、タイヤ自体がよじれる感覚があった。
そのため、ワイドリムホイールを手に入れてみたわけだ。
ところが、28CタイヤとRS-300を取り付けた愛車を眺めて、私は愕然としてしまった。
すでに三ヶ島のフラットペダルに交換していて、最近ではペダルのクリップも取り外している。
トリプルシールドベアリングのペダルではあるが、外からは完成車に付属してくる廉価なペダルにしか見えない。
28Cタイヤにおいてはコンチネンタルの4seasonsというタフでスペックの高いものを取り付けたのだが、遠目に見ればタイヤの違いなんてよく分からないことだろう。
さらに、RS-300はエントリーモデルの完成車に付属してくることが多く、28Cのタイヤもビギナー向けに標準仕様となることが多くなった。
結果として何が起こったのかというと、まぎれもなく初心者仕様のロードバイクのような見た目になってしまった。
私がフレームを購入したアンカーのサイトにアクセスしてみる。
そう、間違いない。これは限りなくエントリーモデルの完成車の見た目に近い。
つまり、最近になってロードバイクという趣味を始めた中年男性が、自分なりにアクセサリー等を愛車に取り付け、「やっぱりタイヤはコンチだよね♪」とグランプリに交換し、ホイールはドノーマルで河川敷のサイクリングロードに出かけ、レーパンは恥ずかしいということでニッカーを履き、背中にバックパックを背負い、30km/hの表示が出て「僕って、速いかも♪」と悦に浸っているというニワカなイメージが思い浮かぶ。
ロードバイクという趣味を始めて、その時期が最も楽しいステージのひとつかもしれないし、他者からの見た目なんて関係ないはずだが、何だかこれじゃない感じが大きい。
これはマズい。
たまに修験者のように格好が良いベテランのクロモリロードバイク乗りを見かけたりもする。彼らのロードバイクはフレームもホイールもペダルもボロボロだったりする。
他方、ペダルとホイールを真新しくしてしまった私のクロモリロードバイクは、いかにもビギナーが床の間に飾っているような状態になってしまった。
まあ誰と走るわけでもないので、このままずっと走っていれば慣れるかもしれないのだが、やはりホイールが気になる。
手組ホイールのシルエットが気に入っているだけに違和感が大きい。
RS-300は値段の割に完成度が高いホイールだと思う。街乗りやツーリングであれば十分だ。
このホイールは通勤にも最適だと思う。数年使ってオーバーホールせずに廃棄したとしてもコストパフォーマンスが高い。
しかしながら、このホイールは、とりわけフロントが気になる。
スポークの本数が少なくて空間が大きいフロントホイールは空力効果において優れているはずだが、クロモリロードバイクのシルエットに合わない。
クラシックなフレームには、32Hの和傘の骨のようなスポークの方が似合うと思う。
鉄下駄と呼ばれているさらに廉価な完組ホイールは、スポークの数が多い。
「何だよ、鉄下駄かよ」と思いきや、実は手組ホイールでハブがデュラという燻しの利いたカスタムは素敵だが、本当に鉄下駄だと何だか違う気がする。
さらに、手組ホイールの場合にはスポークが1本くらい折れても走ることができるが、スポークの数が少ない完組みホイールの場合には走行不能になるはずだ。
完組ホイールは折れにくいストレートプルスポークが使用されていることが多いので、折れたという話はあまり聞かないが。
まあとにかく、エントリーモデルのカタログに登場するような状態の愛車を眺めながら酒を飲む気になれない。
ということで、現有している手組ホイールのハブだけを残してリムとスポークを取り外し、ワイドリムホイールとして組み直してもらうことにした。
このホイールのハブは9000系のデュラで、ようやく回転が馴染んできた。おそらくオーバーホールを繰り返しながらずっと使い続けることだろう。
早速、前回にお世話になったプロショップに連絡した。
浦安から遠く離れた地方にある小さなショップだが、腕のいい職人には全国から依頼が集まる。
手組ホイールは、組む人のスキルが残酷なまでに顕れるそうだ。
命を預けるホイールについては、近所の自転車店ではなくて、経験豊富な職人にお願いすることにしている。
職人が組むと仕上がりや乗り心地が違う。工芸品のような美しさもある。
完組ホイールの方がコストパフォーマンスが高く、剛性や耐久性もあるのだが、優れた手組ホイールの心地良さと愛着感は素晴らしい。
前回と同じく、これからどのような用途でホイールを使うのかというところからマスターに相談した。
私としても、ある程度のイメージでリムやスポーク、ニップルの銘柄を提案するのだが、その通りにホイールが組まれたことがない。
職人さん(といってもホイール組みが得意なプロショップの店主)との間で何度もメールでやりとりし、自分好みのホイールを組んでもらうわけだ。
現時点で市販されていないハブやリムを客が店に持ち込んで、マスターがホイールを組むこともあるそうだ。深淵な趣味の世界だな。
個人経営のプロショップが大きなチェーン店と差別化を図る上で、手組ホイールは重要な商品になる。
しかし、誤算だったのはコロナによって自転車業界においても製造や流通が滞っていること。
海外製のフレームやパーツ等は在庫分しか残っていないことが多いそうだ。
また、国内メーカーであってもパーツの生産拠点が海外にある場合には、パーツが足りなくて製品を作ることができない場合があるとのこと。
ワイドリムとして考えていたのは、DTのRR411という製品なのだが、すでに在庫切れで次回入荷が半年後。
さてどうしたものか。フレームのオーダーならば半年待ちは珍しくないかもしれないが、リムの入荷待ちというのは何だか違う。
マヴィックのオープンプロのリムにはオフセットの仕様がない。
となると、TNIのAL22Wというリムが代替品になることだろう。
AL22Wは、DTのRR411やマヴィックのオープンプロといったリムの半額だ。
RR411であればサピムのスポークを試してみたいものだが、AL22Wの場合にはDTのプレーンスポークの方が似合うかもしれない。
手組ホイールの職人とのメールでのやり取りはまだまだ続きそうだ。
ネット検索で商品がヒットし、クリックひとつで翌日に配達されることもある便利な世の中だ。
時間をかけて商品を選び、納品まで1ヶ月近くかかる買い物は、いかにも趣味品という感じで楽しい。