2019/12/11

この学区のPTAは素敵だよ -後編-

前回のログからの続き)

しかし、そのような私の気負いは間違っていた。


いざ日の出小学校に子供が入学すると、「あ、あれ?」という感じであまりにドライでフレンドリーなシステムに拍子抜けしてしまった。

想定していたPTAの鬱陶しさがない。無駄を削り取った様式美さえ感じられるPTAだ。一言で表現すればジェントルなPTAというか、上品で洗練された運営が素晴らしい。

そもそも日の出小学校のPTAには、PTAが趣味やライフワークになってしまっていて、何年にもわたってPTA役員を引き受けて、「これがPTAのやり方なのよ! フンッ!」という感じのマッシブな保護者がいない。

おそらく、そういったPTAに熱心な保護者が日の出小学校のPTAにやってくると間違いなく浮くと思う。

日の出小学校の学区は、民間企業の調査による公立小学校の学区別の子育て世帯の年収ランキングにおいて、浦安市内でナンバーワン、さらには千葉県内においてトップ3に入った。

父親について言えば、多くが大手企業の総合職。会社の経営者、医師、弁護士、官僚もいたりする。

父親の転勤で子供たちが転校することは珍しくないが、ごく自然にアメリカやヨーロッパといった海外赴任だったりもする。

また、この学区では6年生の半数近くが私立中学を受験する。

私立中学を受験しない子供たちは公立の日の出中学校に入るわけだが、この中学の子供たちの学力は浦安市内どころか千葉県内の公立中学でもトップクラスなのだそうだ。

浦安市内で学力の高い公立中学がもう一つあって、それは同じ新町エリアの明海地区にある明海中学校。

学習塾の先生いわく、日の出中学校と明海中学校は、千葉県の公立高校の受験時の内申点において不利になるくらいに子供たちの学力が高いそうだ。

内申点の調整点というシステムは、本来はセレクションがかからない公立中学において、教育環境の違いを調整するという意味合いがあるのだろう。

高い学力を持った子供たちが集まる公立中学校という存在を千葉県教育委員会が必ずしも十分に想定していなかったのではないか。

公立中学から高校への受験の内申点で不利になるのは不条理なので、それならば私立中学から一貫で高校に進み、大学受験に焦点を定めようという保護者が少なくないと思う。

興味深いことに、両中学校のPTAは浦安市P連に加盟していない。子供たちの学力とP連は関係がないという証拠になりうる。

もとい、日の出小学校において何か問題があれば、保護者が単独で小学校の管理職や教育委員会に相談して解決したりもするわけで、PTAという存在に対してあまり期待していないようだ。

小学校サイドとしても、総論よりも各論で対応した方が楽かもしれない。

日の出小学校の学区の保護者は距離を保って礼儀正しく接している分には、とても穏やかで温かい人間関係を構築することができる。

ただし、個別の利益や名誉に関わるマターが生じた場合、あるいは距離が近くなりすぎた場合には非常に強力で、お互いに頭の回転が速いだけにバチバチと火花が散ることがある。

それは私の印象でしかないけれど、日の出小学校の学区で心穏やかに生活したいのであれば、PTAを含めて距離を保つことが大切だ。相手を攻撃しない限り攻撃されることは少ないと思う。

そういえば、この小学校では、年度の途中で担任の教師がいなくなったり、校長が短期間で別の場所に異動してしまったりもする。保護者からの突っ込みの厳しさによるものかどうかは分からない。

そして、役員の選定では明確な取り決めを書いた文章が配布されたが、これまでの私の懸念は杞憂でしかなかった。この内容であれば社会人として守って当然の話だろうと納得した。

この学区には(私が言うのもアレだが)我の強い人が珍しくないので、言った言わないのトラブルになったことがあって、明確なコンセンサスを決めておきましょうという話になったのだろう。

おそらく、このPTAでは「任意だから退会します」と書類を出せば認められるだろうし、嫌がらせを受けることさえないと思う。

しかしながら、他の世帯も学校のために取り組んでいるわけだし、うちの世帯もPTAに入ろうという空気がある。

良い意味での恥の文化というか、埋め立て地だからこその連帯感というか。

この形が本来の任意という形なのだなと思う。つまり、私なりには「PTAではなくてPTOが必要なんだ!」と鼻息が荒かったのだが、この小学校の場合にはすでにPTOのような状態に移行していたという話なのだろう。

日の出中学校PTAと同じように、日の出小学校PTAが浦安市P連を脱退すれば、その時点でPTOと呼べる状態になる。おそらくだが、この移行について保護者の意見を集めたら、本当に脱退するかもしれない。

日本全国でPTO化が少しずつ広がれば、PTAも変わっていくことだろう。

しかし、日の出小学校PTAの場合には、他の多くの小学校のPTAも浦安市P連に加盟しているわけだし、義理は保とうかなという感じだろうか。その雰囲気もこの学区の良さだと思う。

子育て中の忙しい時期に役員を引き受けてくださった方々に一般会員が文句を言うなんてけしからんことだと私は思った。

これだけ素晴らしいPTAの総会は原則としてシャンシャンで終わるべきだ。フロアから質問や指摘を飛ばすなんてとんでもない。感謝を込めて大きな拍手で終わることが望ましい。

私の考え方が随分と変わったことに気づく。

私は妻に尋ねる。「あのさ...PTAって、こんなにドライで居心地が良いものなのかい?」

妻は答える。「うーん、日の小って頭がいいお母さんが多いし、ほら、非効率なことが嫌いな人が多いからかな。無駄なところは削って、でも大切なことはきちんと残して。何より人間関係が楽!いいよね。このPTA!」と。

私は妻に尋ねる。「こういった緩い感じが新浦安のPTAの特徴なのかい?」

妻は答える。「そうでもなくて、日の小の特徴なんじゃないかな。〇の出南小はどうか分からないし、ほら、中町の〇船とか美〇とかは雰囲気が違うみたい。人から聞いた話だけどね」

そういえば、中町の〇岡や元町の東南北の小学校でもPTAについて色々と話を聞いたことがある。日の出小学校のPTAとは随分と人間関係が違うものだなと思った。

すでにPTO化している〇野の小学校でPTAに移行すべしという意見を出した親までいたそうだ。

まあ考えは人それぞれだし、PTAにしろPTOにしろ、それらを規定するのはその学区に住む保護者だ。

浦安市という小さな自治体だが、元町と中町と新町では街や市民の雰囲気も異なる。同じ新町エリアでも、私が生活している日の出地区と他の地区では町並みが似ていても住民の雰囲気が違うように感じる。

日の出地区から明海地区を隔てた向こう側にある高洲地区の場合には、漁業権を放棄したネイティブな市民たちに土地が用意されて、もっと踏み込むと長男には中町の海楽地区の土地、次男坊には高洲地区の土地が用意されたと聞いたことがある。

一方で、埋め立て地の高洲地区に他の自治体から市民が転居してきて、古き良き浦安の伝統と新しい背景が調和したということだろうか。

残念ながら私には高洲地区に友達が一人もいない。子供が日の出保育園に通っていた頃、送迎時に高洲地区のママから怒鳴られたり睨まれたことがあって、高洲地区は怖いところだというイメージがあるが、日の出地区でも睨んでくる母親がいたりもするので一概なことは言えない。

もとい日の出地区や明海地区のPTAは浦安市P連についてあまりポジティブな感じだとは思えない。というか実際に非加盟が多いわけだけれど、高洲地区のPTAは浦安市P連について熱心だなと感じる。浦安市民としての帰属意識によるものだろうか。

とはいえ、夫婦共働きの世帯では、毎日が戦場のように忙しい。

一時期はPTA会長に立候補してやろうかと思っていたが、この状態でPTAの役員や仕事がまわってきたら終わると懸念していた。

すると、なんと日の出小学校PTAでは、未就学児を育てている保護者に無理をさせないという方針を貫いていた。

そのような方針を知った瞬間、私は日の出小学校PTAの大ファンになった。感動した。心に響いた。なんて徳の高い保護者が集まる素晴らしいPTAなのだろうかと。

下の子供が保育園児で、上の子供が小学生という時期は、子育てにおいて大きな負荷がかかる。保育園に下の子供を送りながら、まだ小学校に慣れていない上の子供に連れ添って通学路を歩いたりもする。

子育てのストレスで妻がブチ切れた時、私は泣きべそをかくような状態で上の子供に連れ添って通学路を歩いた。浦安の嫌なところの一つが街の至る所を自家用車や商用車が走っていることだ。

どれだけ仕事が忙しくても我が子が横断歩道を渡るまで一緒に歩こうと思った。小学生の保護者としては私も低学年だ。

すると、いつも横断歩道で旗を振って子供たちを守ってくださっているお母さんやお父さんを見かけた。日の出小学校PTAの当番の保護者の皆様だ。

仕事と家庭で辛くなって私は追い詰まっていたのだと思う。保護者としての先輩の方々に我が子を守って頂いていることを実感して、心が温かくなった。

そして私はいつも彼女ら彼らに深々と頭を下げて職場に向かった。変な父親だと思われたことだろう。

私の場合にはPTA会員どころか、父親として十分なことを子供たちにやってあげられていない状況だ。この小学校のPTAについてとやかく言える立場にもない。

人にも色々なタイプがあってPTAにも色々なタイプがあるのだろう。PTAという名前だけで考えれば、任意入会を許さないソリッドで堅物の団体というイメージを持っていたが、とても大切なのだなと思った。

浦安市内での生活といっても、私には日の出小学校の学区の中くらいしかリアルに体感していない。他の地区ではPTAに対してネガティブな感情や時に憤りや不満を感じている人がいるかもしれない。

ただ、私にとっての日の出小学校PTAは大切な子供たちを守ってくれた恩がある。仕事で疲れ果ててPTA行事に参加したこともないが、他の世帯の保護者が我が子たちのために活動に取り組んでくださっている。

父親として情けない気持ちと、大きな感謝の気持ち。あれだけ敵対心を持っていた自分自身を恥じる。

そして、私がPTAの役員を担当すると色々と面倒になると妻が思ったようで、自ら立候補してPTAの役員だか委員だかを担当してくれた。

子供がさらに減るとどうなるか分からないが、日の出小学校では子供が在学している時に1年だけ役員を担当すると、その後は役員がまわってこないそうだ。

ここまで無駄を削ぎ落して効率的に磨き上げられた日の出小学校PTAのシステムは、保護者の皆様の尽力がとても大きいと感じた。私の世帯はその大きな成果の上に乗っかっているだけだ。感謝するべきだと思う。

日の出小学校の教師たちのスペックは浦安市内の他の小学校とあまり変わらない気がする。素晴らしい教師が多いがアレな教師がやってくることもある。それは教育現場のアレなので、アレだと思って受け取るしかない。

また、日本全体に組織されたPTAという組織全体を考えればアレなところはあるが、アレはアレとして大切なところは大切にして、アレなところは削って行こうよというスキームで今に至っているのだろう。伏字が多すぎて意味不明だが。

妻としても特にPTAで嫌な経験をしたということもなく、とてもドライな雰囲気であっさりとPTAの役員をこなしたという感がある。その間の私の子供たちの世話なんて大した負荷でもなかった。

たまにPTAの役員を引き受けて張り切り過ぎて、ママさんたちの間で気持ち悪がられるお父さんがいたそうだ。彼は保育園の保護者会でもそうだったし、私は以前から彼のことが苦手だったので気持ちは分かる。しかしそれも個性だ。近づかなければ問題ない。

ということで、この後は年に数回の通学路の旗振りをしたり、必要に応じて運動会の準備等を手伝うくらいになりそうだ。

浦安という街で家庭を築いて後悔したことは多々あるが、日の出小学校の学区に引っ越したことはラッキーだったと思う。

また、私なりには浦安市内の単位PTAの多くが加盟している「浦安市立小中学校PTA連絡協議会」には大きな課題があるようだ。

P連が変わらないからPTAが変わらないのだと私は思う。

P連を変えるのは難しい。それなら脱退すればいい。大きな存在であっても一つずつ柱を抜いていけばいつか自壊するというロジックだ。

PTAが趣味やライフワークになっているような保護者をそのままにするから、苦しみ悩む保護者が出る。任意なのだから他者を巻き込む必要はないし、保護者会で自らのアイデンティティを主張する必要もない。

私は妻に言った。

「日の出小学校PTAは市P連を脱退して、PTOになればいい、私も賛同する」と。

単位PTAの集まりである市P連は、本来ならば教育行政との間で適切な距離を保ち、何かあれば行政や学校現場に物申しうる存在であるはずだ。

しかし現状はどうなのか? PTA連絡協議会ではなくて、PTA連絡球技会ではないか。そのような状況がどうして生じるのか。浦安市の行政や教育委員会と距離を近づけすぎたからではないか。

お互いに集まって、PTA会費で酒を飲む懇親会なんて必要ない。PTA会員からの意見を集めて、教育行政に対してストレートに要望を伝え対応を求めることが大切なのではないか。

スポーツ大会で盛り上がるような連絡協議会が、本来の意味での連絡協議会たりうるか。そのようなことを続けているから、新町エリアを中心としたPTAが市P連の必要性を感じなくなって脱退したり非加盟を続けるのではないかと。

妻は私に答えた。

「あのさ、日の小の親御さんたちにも、市P連のソフトボール大会やトリムバレー大会を楽しみにしている人たちがいるだろうから、そっとしておいてあげなよ」と。

私は妻に言った。

「それもそうだな。日の小PTAの会長や副会長さんたちが苦労するくらいなら、市P連の委員会とかイベントを全て欠席すればいいんだよ。日の小はスポーツ大会以外、全て欠席。うちの学区の保護者たちは文句を言わないと思うね」

夫婦で大笑いした。

そう、このように緩い感じが日の出小学校の学区だったりもする。妻だけではなくて、私までが日の出小学校PTAナイズされたようだ。

PTAは任意と言いながら自動入会になっているという指摘が多いが、日の出小学校PTAの場合には入会するか否かを同意を取って対応すること自体が面倒だということで、オプトアウトのようなスタイルになっているのだろう。

嫌ならPTAを退会すればいいだろうけれど、ここまで居心地の良いPTAならば退会する必要自体がない。

浦安市内でもPTAの人間関係で悩んでいる親御さんがおられるかもしれない。

そのPTAでフラストレーションを溜めるよりも、世帯ごと日の出小学校の学区に引っ越すという手段があるかもしれない。

この学区は保護者の転勤等の都合で新しくやってくる子供たちが珍しくないけれど、転校生だとイジメられることもないようだ。保護者の人間関係も適度な距離感があれば問題ない。

子育てのストレスの一つが保護者同士の人間関係によるものだったりもするが、この学区はとても楽だ。個性的であっても放っておいてもらえるし、攻撃を受けることも少ない。

都内のタワマンから引っ越してきた保護者にも話を聞いたが、日の出小学校の学区は人間関係がとても楽だと仰っていたので、私の思い込みではなさそうだ。

私としては、この学区に引っ越してきて良かったと思う。