2020/10/01

穏やかなマンション生活のための十字キー

数カ月前までの1年間は、コロナよりもマンションの上の階の部屋で走り回る未就学児に苦しんだ。子供だから仕方がないというレベルを超えていて、早朝から深夜まで同じルートを走り続けるという尋常ではない状態だった。


天井から響く騒音と振動によって、目覚まし時計が必要なく、晩酌をしても眠れないくらいの毎日が半年以上も続いた。

その子供の走り方や飛び跳ね方は明らかに尋常ではなく、速やかな療育を要すると私は思った。

全く同じルートを1時間以上も休憩せずに未就学児が走るという状況には、夢と現実の狭間のような恐怖すら感じた。

このまま学校に通うようになると、その子供は学級で落ち着いて座ることができずに苦労することだろう。親としては早い段階で対応した方がいい。

しかし、妻の話では、認めたくない親もいるらしい。結果、療育がなされず、そのまま小学校に入学するということか。

その世帯の夫婦はこれが普通だと言わんばかりで、床にマットすら敷いていなかった。

その世帯の父親に善処を求めたが話がかみ合わなかった。

私の意見を理解してくれているようで、実際には曲がって解釈されて何も変わらない。とにかく落ち着きがない。

母親は謝りもしない不遜な態度で、自分たちの世帯が下の階の住民に迷惑をかけているにも関わらず、逆ギレして怒鳴ってくることもあった。

しかも、その夫婦は、私たちの世帯がクレーマーだと管理組合や不動産屋、警察などに偏った情報を流した。

勘違いした警察官たちが私の自宅に踏み込んできたこともあった。

その世帯が故意に私の世帯を貶めようとしているのではなくて、本当にこれが普通だと思い込んでいたようだ。

そのため、警察官が勘違いして信じ込んでしまったということか。

しかし、その世帯が警察を我が家に仕向けてくれて助かった。

上の階の子供がどれくらいの音と振動を出すかを警察官が確認したのだが、確かにこれは厳しいという意見だった。

マンションの構造上の問題であるはずがないという私の説得も虚しく、警察官が私の自宅の下の階の部屋にまで入って住民に話を聞いた。

我が家はそのような音や振動を出していないとのこと。当たり前だ。

その後も上の階の子供は走り回り、飛び跳ね、夫婦は謝りもしない。

このような子供は落ち着くように叱っても逆に興奮して暴れるのだろう。もはや手に負えない感じだな。

もっと早い段階での療育が必要だったと、感覚過敏を持っており他人事ではない私は思った。

仕方がないので、上の階から酷い騒音や振動がやってきたら、ためらうことなく110番に通報することにした。

住民同士で解決しようとするとトラブルがさらに大きくなるので、警察を間に挟んでくれという警察官のアドバイスだった。

マンションには自治会や管理組合があるが、住人同士のトラブルには介入しないし、ビラを掲示板に貼る程度で全く頼りにならない。

これが分譲マンションのリスクだな。物件を売っておいて、その後は企業ではなくて住民でマンションを管理するというビジネスモデルは正しいのか。

しかも、このマンションは分譲タイプだが、上の階はオーナーが賃貸物件として貸しているらしい。

つまり、仲介している不動産屋に苦情を伝えて介入してもらう手があるのだが、その不動産屋がどこなのか分からない。

とにかく、警察官の話では、浦安は子供が起こす住民トラブルが多いそうだ。

千葉県内を異動する彼らの経験談はとても説得力がある。

その理由のひとつは、あまりに高い人口密度を生じる住居形態なのだろう。マンションどころか戸建てでさえ密集している。

もうひとつの理由は、東京に近いからと多くの自治体から転入し、地域住民としての帰属意識が育っていない人たちが多いからではないか。

それに付随して、新町は子育て世代からシニア世代まで我が強くて自己主張が激しい人が多い。

自分のことに直接的に影響しないことには我関せずの姿勢、しかし自分に影響すると全力で行くような。

自分の子供が騒いだら、近隣住民の迷惑にならないように対処することは当然だが、自分の世帯のことしか考えない夫婦は多い。

浦安に限った話でもないな。都内の疎な人間関係が、引っ越しの荷物と一緒に千葉県の新興住宅地に持ち込まれただけだ。

地域のことを考えている人は少数で、自分のことばかり考えている感じがある。

ドライと言えばドライな新町の雰囲気は、集よりも個を優先する市民が本音を覆い隠し、互いに距離をとった結果なのか。

故郷は遥か遠く。近くに親兄弟も親戚もいない街で家庭を構え、他者を信用したり当てにしない空気は、住宅街というよりも長期間の滞在のためのホテル街という感じだな。

357号線によって隔てられた元町の人たちと交流して、浦安全体のことを考える人も新町には少ない。

高洲地区にはネイティブな浦安市民が住んでいたりもするが、この特徴は埋め立てによる土地の提供という歴史的経緯がある。

日の出地区や明海地区で浦安出身の父親を探す方が難しい。国内レベルで言えば、まさに移民の町だ。

妻が千葉県出身あるいは浦安出身で、仕方なく引っ越してきたという父親はたまに見かけるが。

市役所がある元町の猫実地区のことを真面目に「ねこみ」と発音する中年男性さえいる。市役所にはマイカーで出かけ、用が住んだらさっさと新町に戻ってくるからだろう。

もとい、通報の度に警察官が我が家の玄関から部屋の中に入ってくるので、我が子たちはすっかり警察嫌いになった。

彼らは、最初、上の階の夫婦の言い分を鵜呑みにして、私の家族が悪いと勘違いしていた。

当事者間の言い分に偏りなく耳を傾ける必要があったと思う。

結局、事の真相を理解してくれた警察に110番通報を続けているうちに、上の階の家族は挨拶もせずにどこかに引っ越した。

転居先でも同じことを続けているかもしれないな。警察も不動産屋も呆れるくらいに上の階の子供が走り回った。

親が止めると、その子供はわざと床で地団駄を踏んだそうだ。小学校でも苦労するだろうな。

また、警察の話では、その世帯の父親まで部屋の中で走る癖があったそうだ。常識が足りないと思ったが、不動産屋も同じ意見だった。

ああ、だからあの夫婦は管理組合だ不動産屋だ警察だと落ち着きなく尋ねて廻ったわけか。凄い機動力だ。

その性質をビジネスに活かすことで収入を得て新町に引っ越してきたのか。

だが、落ち着いて考えれば、子供がこの状態で下に人が住んでいるマンションに引っ越すことは慎重になった方が良かったと思う。

自分に勢いがつくと止められない人だな。おそらく自分で気づいていても止められないのだろう。

なるほど、父親が部屋で走ってしまう家庭ならば、子供が走り回ったとしても世帯レベルでは普通だと感じるということか。

落ち着きがない子供に罪はないが、往々にしてよく似たタイプが父親や母親、親戚にいることが多い。

保育園や小学校に子供たちを通わせていると、他の世帯の子供を観察するだけで親の性格が分かる。

子は親に似る。昔から言われていることだ。

上の階の世帯がどこかに引っ越して、数週間は静かな日々が続いた。

しかし、上の階はいわゆる分譲賃貸なので、次の入居者がやってくる。

次の住人が決まるまで貸主の収入がなくなるわけだから、仲介する不動産屋は懸命に入居者を探すことだろう。

マンションにおいて生活する場合、ある程度の値が張る物件の方が心穏やかに生活することができる。

住居が地域住民の特徴を決めるフィルターになっていることは否めない。安い物件だから住みづらいというわけではないが、安いからこそ様々な人たちが集まって、多様性が増す。

その状態の方が楽しく感じる人と、ある程度の住民のカラーがあった方が落ち着く人がいて、私は後者だな。

加えて、マンション等の集合住宅は人が人として自然に生きる上ではあまりに歪で、何かとストレスやフラストレーションが蓄積する。

しかし、両隣の世帯および上下の階の世帯との間でトラブルがなければ、蜂の巣のようなマンション住まいがとても快適になる。

マンションを横から眺めると、上下左右の物件は家庭用ゲーム機のコントローラーの十字キーのように配置されている。

大きなマンションであっても、このユニットが住みやすさを決めると思う。

幸いなことに、我が家の左右や下の物件には礼儀正しくて静かな人たちがお住まいだ。

妻が朝早くや夜遅くにキレて怒鳴ると逆に気を遣ってしまう。

しかし、十字キーではなくて斜めには、近隣住民に全く挨拶をしない老夫婦と、あまり外に出ない中年の息子が住んでいる。

しかも、このマンションはペット禁止なのに、その老夫婦は堂々と犬を飼っている。

ペットの飼育が禁止されていても、分譲マンションには罰則や強制措置がない。

モラルやマナーに気を遣わなければやったもの勝ちという構図だな。

おそらく、その一家は近隣住民と派手なバトルを繰り広げて、挨拶もしなくなったのだろう。

十字キーの4方向の中に1世帯でもこのような家族がいると、本来は安らぎの場所であるはずの自宅がストレス源になる。

これがマンション住まいの危うさだ。

我が家の場合には十字キーの上ボタンがアレな状態だった。

ベイエリアの美しい町並みが新町の特徴だと言うが、実際には密集した住居で様々な人間関係が展開されている。

これらに加えて、住民同士のマウンティングがあったりもする。

田舎からディズニーに遊びに来て、日の出地区や明海地区のマンション群を目にすると、素敵な環境だと宣う観光客がいたりもするが、実際はその人たちが感じるほどには素敵ではない。

異様なテンションで騒音と振動を起こす上の階の世帯が引っ越してから、とうとうその日がやってきた。

私が休日のロードバイクでのサイクリングに出かけている間、上の階に新しく入居する家族が挨拶に来たらしい。

最高度の警戒感をもって、私は妻の話に耳を傾けた。

その一家は、引っ越し作業が始まる前に家族全員で挨拶に来てくださった。

ご夫婦ともに落ち着いた人たちで、小学生のお子さんを観察した妻の感想としては、「大丈夫」という話だった。

前の入居者によって散々苦労したことを不動産屋にも伝えてあるので、大丈夫そうな世帯に物件を仲介してくれたらしい。

引越し業者は大手だな。あらかじめ近隣世帯にボックステッシュが配布され、作業後に共用部分の清掃まで実施したようだ。

以前、私はこの大手の引っ越し業者に対して見積依頼を出したことがあったが、格安業者の2倍以上の料金だったので諦めた。

しかしながら、サービスの質がとても高いと思った。

となると、その世帯の父親は大手企業の管理職だな。転勤や社宅変更などの職場都合で転居費用が支出されたことだろう。法人契約は割安だったはずだ。

そして、妻の見極め通りに、上の階の家族は静かに生活している。

この状態が普通なのだろうけれど、その前の世帯が尋常ではなかったので静かに感じる。

左右と階下の物件には静かな人たちがお住まいなので、やっと十字キーが全て揃った。

十字キーが揃うかどうかは、ほとんどが運だな。戸建てが好きな人の気持ちが分かるし、集合住宅なんて好きで住んでいるわけでもない。

子供たちが都内の私立中学に合格し、私が最高の笑顔で浦安というストレスフルな街から転出するまで、この状態が維持されることを願う。

...と思いながら夜遅くに浦安に戻ってきて、同じくちょうど帰宅された階下の部屋のご主人に挨拶した後で自宅に入ったところ、妻が大声で子供たちを叱っている。

その後、夜遅くに妻が掃除機をかけ始めた。

妻はスマホを凝視しながら、掃除機を床の上でためらいなくゴリゴリと転がしている。

本人いわく、毎日欠かさずに掃除機をかけないと部屋にゴキブリが入ってくると信じている。

しかし、妻はすでにキレていて、夫に対してもキレるタイミングを探している。

私が夜遅くまで働いて、長時間の電車通勤で動悸やめまいに苦しみながら帰宅しても関係がないし、どのような言葉で起爆するかも分からない。

これも自分ファーストの新町の住民の姿だな。

階下の皆さんに大変申し訳なく思う。