2020/09/25

BOAが付いたビンディングシューズで轟沈

ロードバイクのライドの最中、左足のSPD-SLのビンディングが上手くかみ合わなくて気になった。プラスチック製のクリートを専用ペダルに固定するサイクリングシューズでよくあることだ。


10年以上もロードバイクに乗っていると、クリート交換も慣れたものだ。

信号待ちで左足のクリートを外して地面に足を着くので、左側のクリートが削れやすい。

シマノのクリートは定価で2千円程度。もう少し削れにくい加工ができないものかと思う。

自宅に帰って左足のシューズのクリートのボルトを外し、スペア用品として買い置きしておいた新品の青クリートを取り付けようとした時のことだった。

ボルトを締めている最中にトルクレンチが急に軽くなったので嫌な予感がした。

ビンディングシューズ側のネジがなめてしまった。

当時のシマノのフラッグシップモデルのシューズだったが、購入してから4年くらい使い続けたので、そろそろ寿命なのだろう。

そして、AmazonでシマノのSPD-SLシューズを注文した。

世界のシマノなので、上から2番目くらいのグレードのモデルを買っておけば間違いないことだろう。RC7というシューズを注文し、届いた製品を手にとって絶句した。

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私はロードバイクのプロショップのアレな空気が苦手で、サイクル用品は通販で買って自分で何とかしているわけだが、さすがに今回は現物を見てから買うべきだった。

シマノのサイクルシューズにもBOAフィットシステムが採用されたことは知っていたが、この弱々しい機構が私には全く合わない。

なんだこのプラスチックのおもちゃのようなボタンと、商品のタグのように細い紐は。

BOA以外はシマノが設計したはずで、いつも通り素晴らしい出来栄えだ。

しかし、BOAのダイヤルとワイヤーがあまりに脆弱だ。

現在、サイクル用品に関わらず、またメーカーに関わらず、多くのシューズにBOAが採用されている。

裸の王様とまでは言わないし、確かにベルクロやバックルよりもフィット感は良い。

しかし、レースでの使用ならともかく、普段使いとしてはあまりに弱々しく感じる。

私は一人の消費者としてBOAの売り上げに貢献しているので言わせてもらうが、なんだこれは。

全ての消費者がこのシステムを諸手を挙げて喜び有り難がっているわけではないだろう。

不安だけれど、みんなが大丈夫だって言うからとか。

私は言う。大いに不安だ。このような靴を有り難がって使う気にはなれない。

BOAのダイヤルを引っ張る時点で不安がある。これからサイクリングに行こうとしてダイヤルが取れてしまったら、その時点で気分は最悪だな。

そして、このワイヤー。

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強靭な耐久性を有するケプラーならば分かるが、鉄線に樹脂を巻いただけではないか。靴を履くときにはダイヤルを緩めるわけだが、手で力を入れれば容易に切れてしまう感覚がある。

ワイヤーが通るシューズのアッパーの固定部品もプラスチックだ。

何かの拍子で固定部品がパキッと割れたら、その時点で使えなくなる。

なんだこれは。このシューズで数万円?何かの間違いではないのか。

ネット上には、商品のタグの紐と勘違いしてハサミで切ってしまったユーザーもいるが、確かにそれくらいの細さだ。

この靴を履いて片道50kmくらいのサイクリングに出かけて、途中でワイヤーが切れたり、ダイヤルが壊れたらどうするのか。

甲の部分ならまだしも、足首を固定するワイヤーやダイヤルが壊れたら、まともにペダルを漕ぐことも、歩くことも難しくなることだろう。

BOAのスペアパーツを携行して、その場で交換して修理することも難しいはずだ。

そもそもスペアパーツが3千円近い。両足分ではなくて、片足分でこの値段。

シューズ自体が2万円程度なのに、BOAのスペアパーツだけで両足分が5千円を超える。

この部品の原価はもっと安いはずだ。500円程度だろう。

そして、改めてサイクルメディアや大手チェーンのブログを確認してみると、BOAについての盛大な提灯記事が並んでいる。

確かに、優れたシステムだと思う。一瞬で靴のフィッティングができるということは、走ることだけを考えれば大切だと思う。

しかし、BOAのデメリットである耐久性について、これらの提灯記事はほとんど触れていない。サイクル関連に限った話ではないが、都合の悪い情報は隠すわけだな。

壊れても修理は簡単だとか、壊れたらBOAが無料で交換部品を送ってくれるとか、本質を捉えずに誤魔化している。

出先でBOAが故障したらどうするんだ。

スタンディングで坂を登っていて、いきなりワイヤーが切れてビンディングシューズが急に緩んだらと思うと怖くて使えない。

それと、サイクルメディアがよく使う「これはプロも使っている!」というフレーズほど胡散臭い言葉はない。

販促のためにプロに製品を提供しているのだから、使って当然だろ。

趣味でロードバイクに乗っている人たちにメカニックは帯同しないし、常にスペアが用意されているわけでもない。

25Cタイヤも、ディスクブレーキも、このような調子で業界が販売を展開していくが、そこにユーザーへの配慮はあるのか。

ユーザーがどう感じようと、製品の仕様を変更してユーザーの選択肢を追い込んでいくスタイルが、時に「シマノ商法」と揶揄されることがある。

しかし、これはシマノに限った話ではなくて、米国等のビジネスではよくある話だ。自転車に限った話でもない。

企業側にも都合や戦略があるし、スポーツシューズという製品は、これ以上の技術革新やデザインの変化が難しい分野なのかもしれない。

あまりにタフなシューズを作るとユーザーの更新が遅れて売上が減るだろうし、そこにBOAが流行り始めたというわけだな。

米国製品を見れば分かるが、その緻密さや耐久性が考慮されていないことが多かったりする。

だからこそ日本製品が売れるという図式もあるが。

シマノにおいては、上位モデルにおいてもBOAを採用したシューズだけでなく、従来のベルクロとバックルというシューズを用意してほしかった。

シマノが考えている主たる販売エリアは日本国内ではなくて、サイクリングがもっと普及している海外、とくにヨーロッパや米国なのだろう。日本製品なのに、シューズやウェアの仕様が欧米規格だったりもする。

英国のBrooksや日本の三ヶ島のように、長きにわたって同じ製品を提供しようという職人気質はシマノにはない。

革新的な技術を開発してフィールドを切り拓き、モデルチェンジを繰り返す企業だな。日本のユーザーに合わせてシマノが対応するというよりも、シマノに合わせて日本のユーザーが対応するような。

だから、シマノ商法と揶揄されるのだろう。

そして、グレードが下がると、露骨に品質が落ちることがシマノのシューズの傾向だ。

例えば、パールイズミのウェアの場合には、初心者のことを考えて製造コストと価格を落とした努力が見えて、それなりに使える。

ブリジストンアンカーのロードバイクフレームだって、上位グレードはもちろん素晴らしいが、下位グレードにも良さがある。

しかし、シマノのシューズは上位グレードと下位グレードの差が大きすぎる。質感やフィット感、通気性、剛性、ソールの幅、細かなサイズ展開など、履けば明らかに分かる。

上位モデルにはBOAが採用されているので、BOAが嫌なら下位グレードのシューズを我慢して履けということか。

このようなビジネスを繰り返しても、日本国内での売上は伸びないと思うし、シマノとしても日本ではなくて海外を見ている。何だかな。

大事な留め具がプラスチックのボタンと細い紐で作られたサイクルシューズを履いてライドに出かける気になれない。

仕方がないので、シマノのRP3という下位グレードのSPD-SLシューズも買ってみた。

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粗方見当が付いていたが、またしても無駄金を使って轟沈した。

ここまで露骨に質を下げて、これでエントリーグレードなのか。ビンディングシューズの初心者が使うにはあまりに酷な仕様ではないだろうか。

ベルクロの長さが足りない。いくらソールがワイドであっても、アッパーがこんなに狭くてベルクロが短いと意味がない。

それと、全体的に人工皮革が硬い。このソールとアッパーで長距離を走ると足の甲や裏が疲労して痛くなる。

そもそも、これはサイズ通りの大きさなのだろうか。RC7と比べると格段に小さい感じがする。

シューズの裏面に大きな通気口があるが、水たまりに入ったらソックスごと濡れる。どうしてRC7のようにアッパーに細かな通気口を作らなかったのだろう。技術的には大して難しくないはずだ。

このような下位モデルとRC7のようなBOA採用モデルとの間で、ここまで品質に差をつける必要はあるのか?

SPD-SLがこの状況なので、ビンディングのタイプが違うSPDのシューズで何とかしようと思ったのだが、SPDシューズの上位モデルも全てBOAシステムが採用されている。

そんなにBOAが好きなのか?

ならば、シマノを見限ってSIDIなどの他のメーカーのシューズを探してみたが、BOAばかりだ。

サイクル業界の横並びの協調性は凄いな。ここまでBOAを採用してくると、背景に何かあるのではないかと勘ぐってしまう。

そう考えていると、シューズから出っ張った円盤を見ているだけで気分が悪くなってきた。

落車してBOAのダイヤルやワイヤーを地面の突起やバイクに引っかけて壊したサイクリストが実際にいる。

レースならばそれも止むをえない。しかし、趣味のソロライドで走っていて、落車してBOAが壊れたら、傷ついた身体とバイクを引きずって、壊れた靴を履いて無様に歩けということか。

シマノの格好良さは、日本の技術力で世界に真っ向勝負を仕掛けるところだ。

他社の上位モデルのクランクがカーボン製になったとしても、シマノは頑なにアルミにこだわり、芸術とも言える高性能なクランクを作り続けている。

そのシマノが、海外のBOAシステムをシューズに採用し、日本のシマノ製品にデカデカと「BOA」と書かれている。

この程度のクロージング機構なんて、シマノの技術力を駆使すれば他愛もないだろう。

それなのに、フラッグシップモデルや上位モデルに他社のパーツを使うなんて、シマノの矜持を疑う。

とはいえ、耐久性はともかくRC7のシューズは履きやすい。それは間違いない。

BOAが市場から飽きられて他のメーカーがもっと強固なクロージングを開発し、シマノが以前のように丈夫なシューズを販売するまで我慢して使おうかなと思った。

これも仕方がないかと、青クリートを追加で購入しようと通販サイトにアクセスしていた時、何かを感じた。

何だか馬鹿らしいな。この趣味は。

ロードバイクに熱中していた人が、突然、モチベーションが冷めてしまってロードバイクから降りてしまう気持ちが分かる。

たかだかサイクリングシューズの話だが、最近のサイクル業界は自分たちの思惑を隠さずにユーザーたちに押し付けてきている感がある。

ロードバイク自体は素晴らしい乗り物で、私は健康器具として使っているわけで、健康器具のスペックがどうであれ構わないわけだ。

いくらフィット感が良いとはいえ、従来品と比べて、走っている最中に壊れる可能性が高い靴を履いて遠出するなんて、私の気持ちとしては勘弁したい。

下位グレードの靴でも仕方がないかと思ったら、この有様。

よくよく考えてみると、私は時代遅れのクロモリロードバイクを愛用していて、格好もポタリングスタイルだ。

別に自分を流行に合わせる必要はなくて、自分が良いと思ったことを選択すればいいと思った。

白髪頭のオッサンがピチパンを履いて張り切って自転車を漕ぐことが無様だと感じる。それは個人的な感覚なので、他者がどうこう言う話でもない。

そのような背景があったところで、BOAが取り付けられたシューズが届いて、何だか吹っ切れた感がある。

何事も勉強だな。

燃えないゴミになるビンディングシューズの支払いは痛いが、将来を考えると授業料だな。

過去10年間の私の自転車生活を振り返ってみると、私が落車したり、落車して負傷した際の原因の多くはビンディングペダルに起因している。

鎖骨や足の付け根の大腿骨を骨折した人たちだって、両足を固定した形で転んだからダメージが大きかったはずだ。

頚椎を骨折して全身麻痺や半身不随になった人たちは、前輪を軸に回転して頭から地面に突っ込んだはずだが、足が固定されているので受け身がとれなかったことだろう。

もしも、足が固定されていなかったなら、右あるいは左に身体がねじれた格好で着地して、ダメージが少なかったはずだ。

そもそも、ビンディングペダルはレース用であって、欧米の自転車専用道ならばともかく、日本国内の混み合った車道を走るには適していないし、むしろ危険な装備だ。

日本の車道の自転車レーンなんて、ただ青いペンキを塗っただけのお役所仕事だと言わざるをえない。そこに自動車が駐停車しても何の指導もないのだから。

そのような状況で、右足を固定したまま右側に転び、そこに自動車がやってくれば頭部を轢かれて大変なことになる。

「いや、それは違うな。ビンディングだからこそ、ペダリングが安定して効率が良くなる」という指摘は、論理のすり替えでしかない。また、それが格好いいと伝えるメディアの姿は間違っている。

ロードバイクはこうやって乗るものだという先入観が壊れてきていたが、ようやく全て壊れて正気に戻った気がする。

現在のサイクル業界の動向が正常だと思っている人たちから見れば私の考えはおかしいわけだが、ロードバイクに関心がない人たちから見れば、どちらがおかしいのか。

すでに多くのことを経験し、これからは時系列をレトログレードに遡って、自分が気楽だと感じるスタイルに落ち着くことにした。

ロードバイクに無駄金を使うことも止める。

ということで、ロードバイクからビンディングペダルを取り外して、フラットペダルに交換することにした。

これからは、自分が気に入ったシューズを履いてサイクリングに出かける。BOAが付いたシューズでサイクリングに出かけることはない。

レース志向の人たちから見ればダサいかもしれないが、私は仕事も家庭も忙しくて、レースを意識するどころか速く走ることにも関心がない。

これからの五十路は、仕事で替わりが利かないことが増えてくるし、家庭では子供たちの学費がかかる。

大きな怪我を負ったり、流行に乗って自転車に金を使うことは避けるステージに入ってきた。

すでにオッサン真っ盛りで、他に熱くなれることがあるかと訊かれれば、そんなものはない。惰性で生きている割には背負うものが増え続ける毎日だ。

つまらない生き方だと指摘することは容易で、私自身、どのようなロードバイク乗りの方向に進んでいるのか分からなかった。

海外のプロと同じ格好をして悦に浸る時期はとうに過ぎたし、若い人たちならともかく、ピチパンで疾走したり街中を徘徊する白髪頭のオッサンという姿を自分自身が受け入れられない。

ロードバイクは格好良くても、乗っているのはオッサンだ。本人が思っているほど周りは何も意識していない。

白髪頭やハゲ頭のオッサンが体力をアピールしたところで、老いは確実にやってきている。

流行を考えているフィクサー、ビジネスモデルを考えるメーカー、取り巻きのメディア、それらを信じるユーザー、数年で飽きてしまうユーザー。

そのような構図が悪だと言っているわけではなくて、趣味の世界なのだから個人の判断だ。

そういえば、ロードバイクに乗り始めた頃、荒川の河川敷に出かけて、バックパックを背負ってクロモリのツーリングバイクに乗り、フラットペダルでのんびりと走っている初老のサイクリストを見かけたことがある。今でもたまにそのようなサイクリストを見かける。

若い頃の私は、とにかくカーボンロードバイクで速く走ることに関心があって、そのような人たちが格好悪いと感じた。

しかし、その姿こそが、ロードバイクに乗り続けた人たちの行きつくスタイルのひとつだった。

若い人たちに混じって必死にペダルを漕いだり山を登る人たちもいれば、何かを悟ったかのようにのんびりと走る人もいる。

趣味の世界にはそのような多様性があって当然で、他者を意識せずに黙々と趣味の世界で過ごすことができるようになった時、それが本当の趣味になるのだろうなと思った。

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DURAペダルよ、さらばだ。

そういえば、これとは別にスペアとして買った新品のPD9000があって処理に困るが、今後はこのような買い物をしないという戒めのために飾っておこう。