2020/07/16

ゼロ角度のサイクル用ステム

サイクリストではない人には何のことやら分からないかもしれないが、市場であまり出回っていない角度がゼロのステムが届き、早速使ってみることにした。


最近の私の自転車という趣味においては...いや、この趣味を始めた時から...サイクル用品を買っては失敗するという轟沈が続いており、印象深い轟沈についてはこのカテゴリーに記して、今後の反省材料にしている。

この他にも、先月はパールイズミの廉価版のサイクルパンツで轟沈した。

これはスピンバイクトレーニング用に買ったサイクルパンツだが、縫い目の処理が省略されていて、太股の皮膚に食い込んで痛くなる。すぐにゴミ箱行になった。

そういえば、この前はサイクル用のスマートフォンホルダーでも轟沈したな。ハンドルにホルダーを固定してもスマホがぐらつく。

使ってみないと分からないというリスクは、自転車という趣味での買物ではよくあることで、店頭で確認したグローブでさえ、実際にライドに行くと「あれぇ?」となる時があったりもする。

そして、今回はどうなることやらと通販で注文したサイクルパーツが届いた。それが、ロードバイクに取り付けようと購入したゼロ角度のステム。

コロナ禍の影響で、3ヶ月以上もロードバイクのライドを自粛していて、その間はパワーマジックという名前のスピンバイクでトレーニングを続けていた。

このパワーマジックは、レバーを捻るだけでステムの長さを無段階で調整することができるのだが、この機能を使っていて興味深いことに気付いた。

それは、毎日、同じ時間帯にパワーマジックに乗っていても、「心地良く」感じるステムの位置が微妙に異なるということだった。

体幹の柔軟性だけでなくて、その日の関節や筋肉の疲れ具合にも左右されるのかもしれない。

最もパワーを出すことができるポジションについては、ある程度の位置が決まっているが、最もリラックスすることができるポジションが日によって、さらにはペダルを回し続けていることで変わってくるようだ。

この現象が、他の人たちにもありうるのかどうかは分からない。

パワーマジックに乗っていて心地が良いポジションがある程度分かってくると、それをロードバイクで試してみたくて仕方がなくなった。

最近ではグラベル系のロードバイクが市場に出回り、そのポジションがとても気持ちが良くて、ロードバイクで同じポジションを再現したくなったという人の話を見かけたが、たぶん同じ感じなのだと思う。

もちろん、ロードバイクという自転車は速く走るために設計されているわけだから、空力抵抗を考えると前傾姿勢の方が望ましい。

だが、そこまでスピードを上げるつもりがなくて、しかしロードバイクの軽快感を楽しみたいというサイクリストにとっては、ステムの位置を上げたいという話になる。

そこで、我が家のストックボックスに転がっているステムたちを探してみた。

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10年以上もロードバイクに乗ると、その間にフレームを交換したり、ポジションを変えたりと、気がついたら結構な数になった。

100mm付近の長さからロードバイク生活をスタートして、途中で「やまめ乗り」を続けて長めのステムを使っていたこともある。

左の縦列は、DEDAのゼロ100。角度は8度くらいだろうか。右の縦列は、BBBやシマノプロのステム。角度は6度くらい。

それぞれのステムは前方に向かって傾斜していて、ロードバイクに取り付けるとハンドルの位置が下がる。

ロードバイクに乗っていて、あまりに前傾が辛い時には、このステムを上下逆向きに取り付ける人がいる。

ゼロ100はすでに逆付けを全く考慮していないデザインだが、他の多くのステムは逆方向にもロゴが塗装されていたりもする。

確かにマウンテンバイクやクロスバイクでは逆付けが普通だが、ロードバイクでステムを逆付けにすると、何だか格好が悪い。

たまにブログの中で、ロードバイクのステムの逆付けを、男性自身に例えてフル...いや、高度に怒張した状態みたいだと表現する人がいたりもする。

これは言い得て妙な表現で、ブログの中でサイクルステムについて説明する時には、可能な限り下ネタに向かわないように配慮したい。

また、長いステムを使っているロードバイク乗りを見かけると、深い前傾を保つことができるベテランライダーかなと感じてしまうし、ツールドフランスでプロライダーが搭乗するようなロードバイクのシルエットに見えたりもする。

一方で、ヒルクライマーはともかく、平坦なコースで短いステムを使っているロードバイク乗りを見かけると、購入時に自転車のサイズを間違ってしまったようで格好が悪く見えたりもする。

だが、冗談ではなくて真面目に考えると、ステムの長さというのは男性たちの本能的な価値観を決定しているのではないかと思う時がある。

論より証拠、百聞は一見に何とやらだ。

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これが90mmくらいの短いステム。100mmが一般的なので、少し短い。

このステムで「俺のカーボンバイク、カッケーだろ!」と誇られても、男性の本能的に響いてくる迫力が控えめだ。

何だか寂しさすら感じる。

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ところが、このステムならどうだろう。130mmくらいの長いステム。

説明するまでもなく圧倒的な迫力があり、まさに威風堂々。

どのようなフレームであっても、ステムのインパクトの方が大きい。

海外のプロライダーがこれくらいのステムを使っていて、まさに外国人サイズだ。

我が家にある長いステムは、本能的に見栄を張ろうとしたわけではなくて、やまめ乗りで使うために購入したものだ。

やまめ乗りでは150mmくらいの長尺ステムを使うことがよくある。

この乗り方を提唱したライダーのブログや本を拝読したのだが、文章が高尚すぎて私の読解力では追い付かなかった。解剖学的にはおそらくこの体勢なのだろうと試行錯誤して身につけた。

骨盤を前方に倒して乗る「やまめ乗り」は、向かい風の強い河川敷を走る時にはとても便利で、DHバーを使わなくても、下ハンドルを握らなくても、スイスイと進んでいく。

やまめ乗りでブラケットを握っている体幹の角度は、一般的な乗り方で下ハンドルを握っている時の角度と同じくらい。

回すペダリングではなくて、踏み降ろすペダリングだからなのだろうか、少ない負荷で踏力が上がるように感じた。

さらに、体を曲げない乗り方なので、呼吸が非常に楽だ。同じスピードで走っていても、一般的な乗り方と比べて、心拍数が10~20くらいは下がる。

ところが、数年前に浦安から都内へのロードバイク通勤を始めたところ、やまめ乗りは真上の信号を見上げたり、幅寄せしてくるタクシー等を制止する際にとても不便だった。

結局、ステムを短くして骨盤を少し立てる乗り方に戻った。

そして、スピンバイクでトレーニングを続けていると、ハンドルを高めに設定して、骨盤をさらに立てて走ると心地が良いことが分かってきた。

実際にロードバイクでその乗り方を試してみると、風圧は大きくなったが視野が広がり、ポタリングには最高の景色が広がっていた。

だが、この乗り方を続けるにはハンドルの高さが足りない。グラベルロードが気に入ってしまい、ロードバイクに乗ることが辛くなった人の気持ちも、これに近いことだろう。

ロードバイクは速く走るための乗り物だが、ロードバイクにはそれ以外にも良さがあって、あえて一つの価値観で突き進む必要なんてないわけだ。

すでにロードバイクブームは終焉に至りつつあって、市場規模も狭まっていくことだろう。そこで登場したのがグラベルやエンデュランス系のロードバイクという流れなのかもしれないな。確かに楽しい。

とはいえ、私のクロモリロードバイクは旧式のジオメトリーで、フロントフォークを他社製品に交換した際にコラムを可能な限り残しておいたのだが、それでもハンドルの高さが足りない。

短めのステムで上下逆付けにしてみたが、ロードバイクのフロント周りが品のないシルエットになってしまって、「うーん、これは何だか...」という感じに仕上がった。

五十路が近い中年親父なのに、ステムの元気が良すぎて、何だか違う。

よくよく考えてみると、ステムに角度が付いているからハンドルが下がるわけで、だからこそ逆向きに付けると違和感がある。

かといって、ネジで固定する可変ステムは重く、結局は上下逆付けと同じシルエットになってしまう。

つまり、上下の角度がないステムを取り付ければ、あまり違和感なくハンドルが高くなるということに気付いた。

そこで、ネット上で手ごろな価格帯のステムを検索してみたのだが、種類があまりに少ない。

一つは、THOMSONの「X4ステム」という製品。

トムソンのシートポストクランプは最高の品質だと私は思うのだが、トムソンのステムについては、過去にキャップが割れるというトラブルが相次いだことがあり、今ひとつ信用できずにいる。

とある自転車ブロガーがトムソンのステムを愛用していたりもするので、その信仰者だと思われるのも抵抗がある。

ということで、他のゼロ角度のステムを探したのだが、なかなか見つからない。

ようやく見つかったのが、EASTONの「EA90」というステム。

発売年ごとにデザインが変わるようで、少し古いモデルなのだろうか。サイクリングエクスプレスで安く売られていたので通販で購入してみた。

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コラムに取り付ける位置の肉抜きが大きすぎて多少の不安感があったのだが、さすがマッチョが多いアメリカのメーカーがMTBにも使えるとリリースした製品だな。

実際にロードバイクに取り付けてみると、もの凄い剛性だ。五十路が近い私の腕力ではビクともしない。

剛性を高めるために径を大きくしているそうで、確かに太い。

細身のクロモリフレームには相性が悪いが、思ったよりも違和感がない。

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写真の上が80mm、下が90mmのステム。

「ステム沼」という表現があったりするが、長年ロードバイクに乗っていると、ステムについては沼というよりもアーレンキー、つまり六角レンチのセットのようなものかもしれないなと感じることがある。

単一の長さのステムを買った後で、「ああ、短かった...」とか、「うーん、少し短いかな...」と悩むよりも、長くもあり短くもあるものだと開き直って、一式を揃えてしまった方が解決が早い気がする。

その時に適切だと思ったサイズでも、ロードバイクに乗り込んでいくうちに体幹の筋力が強くなって、長いステムの方が走りやすくなったりもする。

まさかパンデミックでここまで身体が衰えるとは思ってもみなかったが、3ヵ月も実走に出ていないと、ステムは短くなってしまうのだな。

ロードバイクでは最短のサイズと言われている80mmのステムを実際に試してみたところ、ポジション的には問題がなかったが、ハンドリングがクイックになってしまって落ち着かなかった。

そこで、90mmのステムに交換してみたところ、角度のある90mmのステムと比べて、ハンドルの位置が10mmくらい上に位置するようになった。

たった1cmとはいえ、ロードバイクで1cmの違いは大きい。

その一方で、少しだけハンドリングが敏感になった気がした。水平方向の距離に関係するのか、あるいは力学的にどのような原因なのか分からないし、あくまで個人的な印象。

ロードバイクのシルエットとしては上下逆付けのような格好悪さもなく、ベテランのロードバイク乗りからは「珍しいステムだね」と言われるかもしれない。

今はまだ100mmの長さだと辛くなる気がするので、しばらくは90mmのステムで走り込んでいこうかと思う。