晴好雨奇なロードバイクの迷走
室内で黙々とスピンバイクを漕ぎながら禅を続けることも有意義だが、ロードバイクに乗って季節の移ろいを感じることも趣がある。
とはいえ、現在の私は悠長に構えている余裕はなく、めまいを何とかするためにペダルを漕いでいる。
新型コロナが出現してから仕事や家庭はさらに厳しくなり、社会も混乱し、通勤地獄からの解放と揺り戻し。とても大きなストレスがかかっている。
めまいという些細にも思える兆候は氷山の一角だな。自らが受けている脳のダメージを私の意識に伝えてくれているのだろう。
それらのストレスを解除することができれば苦労はないのだが、負荷がかかり続ける状態で回復するという不条理な状況だ。
このような時、私は理屈抜きに自転車に乗ってペダルを漕ぐことにしている。
投薬などは一切なし。とにかくペダルを回す。バーンアウトもこれで乗り越えた。
有酸素運動は健康に良いとか、陽の光を浴びると体内時計が整うとか、様々な仮説があるが、サイクリングの効果について、私は確たる根拠を持ち合わせていない。
男女でMRIの中に入り、夜の営みの真っ最中の体内の様子を断層撮影して、貴重な知見を得た研究者がいるくらいだから、サイクリング時の脳の活動を機能的MRIで解析することは不可能ではないと思う。
ただし、ステムのボルトやホイールのハブ、チェーンやレバーまで全てカーボンあるいはチタンの自転車でないと、MRIに引っ張りこまれて磁気によって落車という珍しい状態になるかもしれないな。
まあとにかく、ペダルを漕ぎ続けると心地良くて落ち着く。それだけのこと。
よくブログなどで目にするフレーズとして、「○○○は手段であって、目的ではない!キリッ」という使い古された決め台詞があったりする。
ペダルを漕ぐこと自体が目的であり手段でもあるし、本能とまでは言わないが、とにかく気持ちがよいのでペダルを回す。
家庭は相変わらず慌ただしいが、妻からのハードヒットが減った。その理由は分からない。
先日、義母がアポなしで自宅に上がり込んで来たときに、酷く疲れた私の状態を目にして、妻に対して何かの忠告をしてくれたのだろうか。
妻は義母の言うことならば耳を傾ける。本来ならば夫婦の間でこの関係を築きたかったな。
あるいは、妻がこの録をネット上で見つけてくれたのだろうか。
いずれにしても、めまいが続くという事象は脳への強いストレスが関与していることが考えられ、家庭の維持においても重大なインシデントに繋がりうる。
妻がキレなくなったわけではなくて、毎週のように激高しているが、自ら感情を抑えてくれている。
私に気を遣ってくれているとすれば、とてもありがたいことだ。
休日の天候は曇り。
天気予報では夜まで曇り空が続くそうだ。
今の私は、趣味でロードバイクに乗るというよりも、脳のコンディションを整えるという必要性があって乗っているわけで、天気予報が正しければ幸いなことだ。
天気予報が正しければ。
本日のライドは、住むだけで心拍数が上がるくらいにストレスフルな浦安市から、とても走りやすい千葉市や市原市に抜けるまでのルートを見つけること。
「ルート? 浦安市から市川市や船橋市を抜ければ千葉市でしょ?」という指摘があるかもしれない。
確かにそうなんだ。しかし、都内や浦安市近辺のサイクリストが房総半島に向かう時。
あるいは千葉市よりも西のサイクリストが江戸川や荒川に向かう時。
市川市内や船橋市内の道路があまりに狭く、混み過ぎていて非常に走りにくい。
357号線が最短距離なのだが、車道は多数のトラックやトレーラーなどが高速で走っていて、落車すれば命に関わる。
かといって、357号線沿いの歩道はゴミにあふれ、説明するだけで気が滅入りそうな光景が広がっている。
浦安市内の車道が走りやすいかと言われれば、否と答えざるをえないが。
マイカーや商用車が頻繁に行き交っていて、しかも我が強くてせっかちな市民が多い。
最近では新町にディズニー客を狙ったホテルが次々に建設され、市外ナンバーが余所見をしながら走ってきたりもする。コロナ禍で穏やかになったが、すぐに戻ることだろう。
浦安から357号線沿いを走らずに千葉県の北西部を通過するには、旧江戸川沿いの車道を北上し、新行徳橋を越え、原木中山駅を目指す。
駅前を通り過ぎてしばらく走ると、原木インターチェンジが見えてくる。
この場所が、千葉市あるいは柏市へ向かう際のベースポイントになる。
ここまでの市川市内のルートはお世辞にも走りやすいとは言えないが、市川市内はこのような感じだと私は理解している。
これくらいの感じが続いて千葉市内に入ることができればいい。
しかし、市川市内は片側一車線の道路が多く、しかも細かく入り組んでいる。市川市民が一緒でないと道に迷う。
こんなに面積がある自治体なのだから、もっと広い幹線道路を用意することができなかったのだろうか。
できなかったからこそ、今があるのだろうけれど。
最近では、幅の広い片側2車線の道路も見かけるが、距離が短く、自動車の通行も激しい。
とはいえ、日本の車道は自転車での走行を考慮していないことがほとんどだ。仕方がない。
原木インターチェンジの手前で方向を変え、船橋市に向かう。
すると、途中で顔に水滴が当たり始めた。天気予報が外れたらしい。
まだ15kmくらいしか走っていないので、引き返すかどうか少し悩んで、そのまま続行することにした。
鉄製のクロモリフレームのロードバイクなので雨に弱く、錆びやすい。天気予報が曇りだから、きっと雨が止むだろうと...
信じていたのに、途中から普通の雨になった。
それでも、原木を抜けてしばらくは快適に走っていたのだが、船橋市に入ると、自動車がさらに増えて、まともに走れない。
雨が降り出して、車で出かける人も増えたのだろうか。
357号線よりも北よりの14号に入ろうと努力したのだが、ずっと先まで渋滞が続く片側一車線の車道が続いた。
「おかしいな...ここが14号線のはずなのだが...」と標識を見上げると、確かに14号線と書いてある。
街の発展の中で、用地確保が厳しかったとしても、この道路を広げておく必要があったと思う。
しかし、船橋市がここまでの発展を遂げるとは予想していなかったかもしれないし、複数の駅が建設されて都市開発が進む中でより広い道路を用意することは難しかったことだろう。
国や県の限られた予算を使うのであれば、海沿いに一直線の道路を確保した方が低コストだな。
ああ、それで357号線が出来たのか。
雨足はさらに強くなった。このようなコンディションでは、重量級のクロモリロードバイクの良さを実感する。
そもそもこの愛車は浦安と都内を通勤で往復するためにカスタムを施したものだ。雨の中を走る場合を想定している。
ステアリングを安定させるために、わざとフロントフォークを鉄製に交換しているし、コンチネンタルの4-Seasonのタイヤを履かせている。この程度の雨では大した影響はない。
シマノのバックパックに常備されているレインカバーを広げてかぶせる。
オルトリーブの防水バッグの方が安心だが、晴天時の取り回しが面倒なので、最近ではシマノのバックパックを愛用している。
ヘルメットにシールドを取り付けると、目に雨が入らないだけではなくて、視界の確保が楽になるということは、雨天時のロードバイク通勤で気づいた知恵だったりもする。
ただ、交換したばかりのゼロ角度のステムが今ひとつだな。80mmはさすがに短すぎた。ハンドリングがクイックで落ち着かない。
ステムはともかく、雨の中でのライドは、普段と違った趣がある。
危険で不快な時もあるが、雨水で全身を洗っているうちに心の中のストレスまで流れてしまう感じがある。
最近になって続いているめまいは、全く感じられなくなった。
晴れや曇りの日はロードバイクに乗りながら禅を組んでいるのだが、雨の中では難しい。
むしろ、修行に取り組んでいる求道者をイメージすると気持ちが高まる。
こんな雨の中をロードバイクで走るという行為は尋常だとは思えないし、確かに修行だな。
過酷な荒行に挑戦する僧侶だったら、不動明王の真言を唱え続けることだろう。
浦安市から千葉市に抜ける際に快適に走ることができるルートを探すため、市川市や船橋市の中の道路を気が向くままに走る。
結局、幹線道路において快適に走ることができるルートは見つからなかった。
おそらく、抜け道のような短いルートを細かく繋げるしか方法がないことだろう。
それは今後の楽しみとしてとっておこう。
今回の雨の中のソロライドでは、市川市や船橋市の中を幅広く走ることで、より深く実感することがあった。
それは、市川市には独特の落ち着きと穏やかさがあり、船橋市には独特の活気と懐の深さがあるということ。
今まで、何となくのイメージでこれらの自治体を見ていたことを反省した。
街並みは電車や自動車に乗れば分かるけれど、街や市民の雰囲気は実際に乗り物から降りて歩いてみると分かりやすい。
かといって、実際に歩くととても大変だ。自転車の場合には、車道を走っていても街の雰囲気が分かりやすい。
市川や船橋の道路はサイクリングにはあまり向いていないけれど、都心と比べればもちろん走りやすい。タクシーの群れが押し寄せてくることもないし、マイカーや商用車にきちんと合図や礼をすれば自転車の走行に気を遣ってもらえる。
今までの私は、浦安という街からとにかく脱出して東京に戻ることだけを考えて耐えている。
近い将来の生活圏として千葉県を全く考えていないが、本当に個性豊かな県だと思う。
しかしながら、雨中のサイクリングはさすがに疲れる。
信号待ちでホイールを見たら、前後ともにリムが削れてしまっていた。
道路が混んでいてストップアンドゴーが非常に多く、雨によって巻き上げられた細かな砂がブレーキの度にシューとリムの間に入ってシャリシャリと音を出していたので、当然の結果だな。
お気に入りの手組ホイールのリムはマヴィックのオープンプロという種類で、その中でもブレーキがグレーで焼き付けされている。
しかし、マヴィックの完組ホイールのエグザリット加工とは異なり、このリムは使い込むとブレーキ面が削れて銀色の下地が出てくることは承知していた。
雨の日はリムが傷むということは知っているけれど...まあ、手組の場合にはリムだけを交換することができるので深く悩まないことにしよう。
ブレーキ面がセラミック加工されたオープンプロもあるそうだが、専用のシューが必要になるらしい。
ホイールの職人さんとしても、オーバーホールでショップに戻ってきたホイールが使い込まれていた方が嬉しいことだろう。真っ新の状態だったら、乗ってくれていないのかと悲しむかもしれないし。
市川市内を東に向かって走っていたら、ようやく江戸川が見えてきた。河川敷には雨に降られて帰宅しようとしている野球少年や付き添いの保護者たちが多い。
ロードバイク乗りたちの姿も見える。
江戸川の河川敷はあまり水はけが良くないためか、所々に水たまりができていて、再びホイールのリムが削れてしまうことが気になった。
普段のライドでは、1リットル以上の飲料を飲んで汗をかき、日焼けして自宅に帰るのだが、今回はシューズの中までずぶ濡れの帰宅。この時間帯にやっと雨が上がった。
あまり暑くない上に汗をかいていないので、ボトルの飲料はほとんど飲んでいない。ウェア類を洗濯機に放り込んだ後、シャワーを浴びる。
その後、ベランダにロードバイクを立てかけて、バケツに入れた大量の水とマイクロファイバー雑巾を使って洗車にとりかかる。
後片付けは面倒だが、五十路を迎えようとしているオッサンが、雨水を浴びて泥だらけで走って遊ぶという行為も、それはそれで楽しいな。
グラベルロードバイクで泥だらけになる人たちの気持ちが分かった気がする。
純粋なサイクリングとしてはあまり有意義には思えない内容だったが、体調の管理としては意味があったようだ。
夕方からは、下の子供の学習机や子供部屋のセットアップ。
今か今かと興奮している子供の姿が可愛らしい。
色々と大変だが、父親として生きよう。