ふるさと納税の返礼品
それは「ふるさと納税」の寄附。
妻としては、返礼品だけが目的ではなくて、自然災害で被災した自治体に対して寄附をすることもある。
妻の故郷は浦安市で市内在住ということで、浦安市に寄附をするという発想がない。
そうなると私の故郷に納税するのかというと、その気もない。
私の故郷の特産品は、納税しなくても両親が自宅に送ってくるし、私自身に故郷への愛着や帰属意識がない。
それでも、数少ない同級生の友人たちが大学を卒業した後で故郷にUターンして頑張っていたりもするので、たまには故郷に寄附をしようかと思う。
さて、妻は食についてこだわりがあって、美味しくて安全な食材を優先するが、家や車といった「物」について執着しないし、洋服やバッグ、貴金属についても執着しない。
ということで、我が家のふるさと納税は返礼品の食材にフォーカスが集まる。
正確には妻が全国の返礼品を見比べて、本人が食べたいと思う返礼品が用意されている自治体に寄附をするわけだ。
それだけだと我が街である浦安に何ら関係ないように思える。
しかし、各自治体の住民が他の自治体に寄附をすると、生活している街の税収が減ってしまう。
つまり、うちの世帯の場合には浦安市に納める税金が控除されて減る。
他国では大学でさえ寄附が大きな収入の柱になっていたりもするが、そもそも日本には寄附行為自体があまり浸透していないように感じる。
故郷に寄附をした人に地方の名産をお礼としてプレゼントするという流れは寄附の本質ではないと思うけれど、寄附をした街から感謝されると嬉しいし、何かお礼が届くとさらに嬉しい。
しかしながら、ふるさと納税で寄附を受けた自治体としてはかなりの増収を見込めることがあるので、返礼品合戦のような形になってしまっている。
確かに戦国時代の合戦のようだ。特産の食材がある自治体は強く、いくら人が多くても魅力的な特産がない、あるいは返礼品に注力しなかった自治体は他の自治体に金を持って行かれる。
しかし、特産ではなくてAmazonのギフト券まで返礼品として配り始める自治体が出現して、ふるさと納税がカオティックな様相を呈し始めた。
法で禁止されていないのならとグレーゾーンを狙って収入を増やそうという自治体があってもおかしくない。だが、それはふるさと納税と言えるのだろうか。
Amazonの配送拠点がある千葉県の市川市がAmazon関連のギフトを返礼品として用意するのであれば少しは分かるかもしれないが、関係がない自治体が返礼品として用意することはナンセンスだと思う。ふるさとに関係ないじゃないか。
総務省がそういった自治体をシステムから除外したことは妥当だと思う。
では、そういった自治体がそういった行為に出たにも関わらず、その街の人たちが「我が街の恥だ」と批判しないのはどうしてなのか。
結局は自分たちが生活する街に金が入るからだろうか。いや、そもそもふるさと納税の仕組みを理解していないのかもしれない。
浦安市においては、ふるさと納税において税収が落ちて大きなダメージが生じている。
その額は年々増える傾向にあって、平成30年度、つまり2018年度には浦安市において7億円の減収があったようだ。
7億円…
いくら財政力が高い浦安市とはいえ、毎年7億円も税収が減ると痛い。
では、どうしてこのような事態に陥ったのかを考えてみると、浦安市の場合には、これまで返礼品を用意せずに寄附を受け付けるという硬派にも見える態度をとってきたことが大きい。
この状態で浦安市に寄付をした人は数えるくらいしかいなかった。
その方針は、ふるさと納税の本質を考えれば妥当な方針だったかもしれないが、他の自治体が収入を増やそうと取り組んでいる中で、浦安市が返礼品を用意しなかったわけだから、逆に異質な存在というか無視されるような存在になってしまったと思う。
同時に、浦安市民としては「まあ、これくらいの寄附だったら街に影響するはずがないよね…」と、興味がある自治体にふるさと納税で寄附をしたことだろう。
うちの世帯だってそうだ。
まさか、こんなに痛い状況になるとは。
浦安市の行政としては、全国レベルでふるさと納税の動向を見つめて、減収が出始めた時点で速やかに返礼品を用意して引き戻す必要があったと思う。
というか、他の自治体と同じことをやっていれば良かったのではないだろうか。
行政や議会は何をやっていたのだと批判はしないが、結果として1年間の浦安市の減収が7億円。
浦安市は交付金を受け取っていないので、交付金によるカバーもないことだろう。つまり、この額がダイレクトに減るということか。
すでに失った税収を取り戻すことは困難だ。
他の自治体に寄附をした市民に対して「自分の脚を食べるタコだ」と批判をネットで飛ばした浦安市の関係者がいたが、それは筋が違うと思うし、不適切な表現だと思う。
社会の動きに反応できなかった浦安市にも当然だが責任がある。
浦安市の財政は令和6年度から赤字に転落するという話だが、これは起こるべくして起こった事象ではないかと私は思う。
現在の市長に落ち度があったわけではないと思うが、そのフォローを考えると対応する責任があるし、気の毒に感じる。
新浦安の知識層では10年近く前から浦安市の財政赤字の話が出始めていた。このような金の使い方をしていたら、後で大変なことになると。
しかし、行政も市民も多くがそれで構わないと判断したのだろう。先のことが見えていなかったのか、自分が良ければそれでいいのか、そもそも関心がなかったのか。
ふるさと納税への過去の取り組みを見ても独特だなと感じはするし、こういった事象が積み重なっていたとしたら、確かに財政が傾いてもおかしくない。
ふるさと納税で大きな減収が生じていても、気にしている人がどれだけいるだろうか。
浦安市の収入を7億円増やそうとすると気が遠くなるような努力が必要だ。
この街が住みよいと満足しネットでアピールする市民は多いが、浦安市の課題について物申す人はごくわずかだ。
市の課題について論じていたら「あの人は市議会議員に立候補したいのよ!」という意味不明な詮索が飛んできたりもする。
説明するより体験した方が理解は早い。実際に浦安市の財政が赤字になって、行政も、議会も、市民も、現実を味わってみると勉強になる。
残念ながら私はその時期に浦安から引っ越す予定なので、別の街から浦安を眺めることにしよう。
もとい、昨今、妻がふるさと納税を行う自治体を選んでいて、私の収入分も加算して寄附することになった。
実際に寄附したのだが、このシステムは本当に面白い。
返礼品で届く品物のあまりのグレードの高さに驚く。それぞれの自治体がガチで取り組むとこうなるのか。
加えて、それぞれの自治体の取り組みを眺めると、それぞれの地方行政の知性や実力までが分かるような気がする。
地方の市役所と都市部の市役所を比較したとする。
どちらの職員が優秀なのかという話になると、都市部の市役所の方がキレ者が多いように感じるかもしれないが、たぶん逆だと思う。地方の田舎に極めて優秀で帰属意識のある職員がいたりする。
地方の場合には、地方国立大学や有名私立大学を卒業した後で故郷の街に戻り、安定した職を探して市役所や町役場に就職する人たちが珍しくない。
県庁や霞ヶ関でも通用するような優れた職員が、人口が数万人に満たない街の役所に勤めていたりする。
もちろん地域枠…いや、これは言ってはいけなかったか…の職員もいるわけだけれど、その街の出身者が国立大学卒の場合には軋轢も少ないようだ。なにせ同じ中学の先輩や後輩だったりもするから。
私の同級生たちも故郷の行政の原動力になっているが、まさしく地域密着型の働き方だと思う。
また、そういった人材は、知識や教養だけではなくて、地方での幅広い人脈があったりする。大学の先輩や後輩が県庁や霞ヶ関に勤めているだけでも入ってくる情報は違うことだろう。
地方行政においては首長の能力や方針がダイレクトに反映されるが、実働となる職員の実力も大切だ。
優秀な職員が多いか否かは、それぞれの自治体が公開している計画を見ればある程度分かるが、ふるさと納税の内容や文章を読んでも感じ取ることができるようだ。
ロジカルシンキングやデザインシンキングを駆使しつつ、ユーザーの思考を先回りして返礼品を用意している自治体が見受けられる。
ふるさと納税が上手く進めば自治体の歳入は大幅に増えるわけで、優秀な職員によるタスクフォースを編成して対応した跡が見えたりもする。
子供たちを大切に育てても、働き盛りの世代を都市部に取られてしまう地方の自治体が、都市部の自治体に合戦を挑んできたようなイメージがある。
ふるさと納税で税収が減ったと嘆く都市部の自治体は多いが、地方がどれだけ財政難で苦しんでいるか分かるか。
街が消滅するかもしれない現実を前にして、働く場所がないからと都市部に子供たちを送り出し、孫にも会えない親の気持ちが分かるか。
地方のどの自治体も生き残りのために必死なんだ。
都市部の自治体は地の利を生かして人を集め、税収を増やし、より快適な生活を求める。
地方の自治体が地の利を生かして返礼品を用意し、寄附を集める。都市部において地方に寄附をする人たちにも地方出身者がたくさんいることだろう。
都市部の自治体が、その流れを批判することが本当に正しいのか。
都市部にとって地方が衰退することは対岸の火事ではない。地方出身者が都市部の労働人口の多くを占めているのだから、地方が衰えれば都市部も衰える。
それにしても本気になった地方の行政の馬力がここまで強力とは予想外だった。都市部の行政が圧倒されたケースも認められる。
逆に、浦安の行政の馬力も分かった。市民に支えられた財政力でブーストがかかっているようだ。自治体間のフラットな競争になるとあまり強くない。
なるほど、これは勉強になる。
もとい、これらの返礼品の中でも、とある自治体から返礼品として送られてきた「シラス」には驚いた。
スーパーでシラスを買えば、まあこんなものかなというシラスが手に入るわけだが、その街の特産として送り出してくる自治体のシラスは凄まじいインパクトがあった。
これは凄い。何度でも言う。これは凄い。
その返礼品のシラスは次元が違う。今まで食べていたシラスは何だったのだというくらいに品質が高くて、茹で加減も塩味も絶妙だ。
おそらくだが、シラスの最も旨い食べ方を知っている地方の人たちが本気で用意するとこうなるのだろう。
これを冷凍で送ることができるのだから、もはや地理的な距離は関係ない。
もちろんだが子供たちもシラスをご飯にかけてバクバクと食べた。普段はシラスが食卓に上がっても嫌そうに食べるのに。
山盛りのシラス丼を堪能しながら私は思った。
ここまでネットが発達して情報化した社会において、この街のシラスのことを知っていたのかというと、全く知らなかった。
ふるさと納税がきっかけで遠くの街のことを知る。何だか面白いな。
すると、他の街からも続々と返礼品が届いた。
ふるさと納税で返礼品として届く食材は、私が今まで口にしたことがないようなグレードのものが多い。
素材の質が良い上に、送ってくる街の人たちが最も旨い食べ方を知っている。
しかも、とても丁寧な礼状が挟まれていて、一度も行ったことがないのに、なぜか自分の故郷から贈り物が届いたような温かい気持ちになる。
寄附したお金が感謝されて、その街で使われるのならば嬉しい。
自分が住む街に住民税を納めて、必要のないハコモノの建設に使われるくらいなら、本当に予算を必要としている街に金を渡したいと思うことはおかしくない。
地方の名産が届いて、心のこもったメッセージが届いて、「ああ、いつかその街を訪れてみたいな」という気持ちになる。
様々な意見はあると思うが、それぞれの地方の街の良さを感じる契機になると感じた。
ふるさと納税に熱心な人たちの気持ちが分かる。返礼品目当てと批判されるかもしれないが、これは地方行政の新しい形なのかもしれない。
自らが生活する街の行政サービスが低下するかもしれないが、他の街の行政サービスが良くなる。
行政側の目線から考える。街と人との距離が遠くなると、その街の人たちは他の街に寄附してしまうわけだ。
街の情報や現状を積極的に公開し、自らの税金がどのように市の予算として使用されているのかをさらに透明にしておく必要がある。
浦安市に納めた住民税が、浦安市の判断で本意ではない使われ方をするくらいなら、他の自治体にふるさと納税で寄附して有効に使ってもらうという考えが生まれてもおかしくない。
「そんなことをしたら自分たちの街が傾くぞ!」という行政側から市民への反論は適切ではない。
市民がその街のことを本当に大好きで、本当に大切に思っていれば、ふるさと納税の寄附も適切な額に納まることだろう。それが生じずに大幅な減収が生じた理由は何か。
しかしながら、わが街である浦安もトップが変わって方向転換したようで、やっとまともな返礼品を用意してふるさと納税の寄附を集めることにしたようだ。
浦安市の返礼品に目を向けると、ご当地サーカーチームのグッズ。
私も「ジェフユナイテッド市原・千葉」を応援しているファンなので、気持ちは分かる。
この返礼品はなかなかのレアアイテムだ。このシャンプーを使ってヘディングをするとサッカーが上手くなる気がするぞ。
それと、地元の路線バスの模型。
この返礼品をリリースするのか。バスマニアなら涎が出るような至高の一品に違いない。
さらに、「あっさり君」という浦安のゆるキャラのグッズ。
この返礼品もコレクターにはたまらない一品だ。先日、激戦を勝ち抜いて浦安市のキャラクターになったと聞いたことがある。
あっさり君なら...あっさり君なら何とかしてくれることを信じたい。
そして、返礼品の中にハマグリの加工品や海苔製品を見かけた。
これらは真面目に素晴らしいと感じる。
私も実際に食べてみたことがあるのだけれど、浦安市内で手に入るハマグリや海苔の製品は格別に旨い。産地は違うのかもしれないが、素材の選定や加工がとても秀でているからだろうか。
この旨さをどうやって伝えるかどうか。
思い出したらハマグリや海苔を食べたくなった。寄附と関係なく自転車で元町に買いに行こう。
いや、これらだけではないぞ。
浦安市にふるさと納税として寄附すると、「電子感謝券」という宿泊施設や飲食施設で使えるクーポンのようなものを発行してくれるらしい。
おお、これは素晴らしいじゃないか。ディズニー客が旅支度を始める場所、旅行会社や全国の駅でPRができればいいなと思う。
これらの返礼品は、一見すると簡単なラインナップのように感じるかもしれないが、実際にはとても大変だったと思う。
返礼品として注目されるかどうか分からない浦安市内の地場産業をどの程度まで組み込むかとか、実際にどの程度の寄附が集まるのかといった議論が交わされたことだろう。
さて、あまり浦安のことを論じていると、浦安のことが大好きな人たちからツイッターで嫌がらせが飛んでくるかもしれないので、私なりに返礼品を考えてみる。
私が担当課の課長だったら、どう考えてもディズニー関連の返礼品だな。
5年後に市の財政が赤字になるような状況では、もはやためらうことはない。
宇宙戦艦ヤマトの波動砲のようにディズニー砲を撃つ。
他の自治体から見るとあまりに強力で無慈悲な返礼品かもしれないが、背に腹は代えられない。
この地の利を有しているのは日本でも浦安市だけだ。
オ〇エンタルランドに浦安市の財政の窮状を説明して助けてもらうというスキームが手っ取り早い。
千葉県をアピールしてしまうとディズニーが困ってしまうし、寄附というシステムが普及している米国本社に浦安市の担当者が説明に行っても、「ふるさと納税? なんだそれ?」と言われてしまうかもしれないが、何事も挑戦だ。実現すれば大きい。
私が浦安市の職員ならば、米国でもどこにでも行ってディズニー本社の社長の前で土下座でもなんでもしてやる。
浦安市職員の職務は市民の負託に応えることだ。職業人の矜持だ。
浦安の名産品も結構だが、特産が多い他の自治体に圧倒されている。
浦安は元漁師町だ。漁師町ではない。農業や漁業による下支えがなく、食材を中心とした特産品を用意することは難しい。
ディズニーが浦安の特産なのか分からないが、日本を代表するテーマパークが浦安にある。
夢と魔法の王国がある自治体が財政で傾いていたら、そこに夢はない。寄附を集めるのであればディズニー一択だと私は思った。
では、どういった返礼品を考えるか。
浦安限定のぬいぐるみとか、文具とか、そういった発想もいいかもしれないが、製品の準備で金がかかることだろう。物が大きくなれば送料もかかるし、市職員の負荷も増える。
であれば、外部の業者に委託して市職員の負荷を...とばかりやっていると市の予算がたくさんかかってしまう。耳が痛い話かもしれないが。
浦安市として負荷が少ない返礼品であれば、パークチケットだな。金額に応じて枚数が増えるわけだ。
そして、最高額の寄附があれば年間パスポート。
この軸を用意することで、すでに返礼品として準備されている電子感謝券の存在が生きてくる。
加えて、寄附の額に応じてファストパスを追加していくという案もある。
1万円の寄附でファストパス10枚が送られてくるという仕組みはどうだろう。紙を印刷してメール便で送るだけだ。寄附が殺到するかもしれない。
しかし、浦安市にふるさと納税で寄附をすると、全てのアトラクションを待たずに乗ることができるというスタイルになると、おそらく全国のディズニーファンから非難が集中して炎上するかもしれない。
いや、この場合は、逆に舵を切ってわざと炎上させた方がいいな。
ここまでネットで情報が氾濫している状態だと、一生懸命に情報を発信しても注目を集めることは難しい。
ネットで炎上した方が、浦安市の返礼品の情報が全国に一気に広まる。宣伝費もかからない。
よし、これで浦安市の減収どころか増収に繋がるぞ。市長への手紙でアイデアを送ろう...
...という話を妻に力説したのだが、「あんた、この街のことを何も分かってないのね」という冷たい眼差しが飛んできた。
浦安市とディズニーには、妻のような浦安出身者にしか伝わっていない深い都合があるようだ。